陽織、たっくんエライ(子育て編)
門を潜っても、境内らしきものはない。
目の前には長い長い石段があった。
「無理無理無理!たっくん抱っこして上がれない!」
陽織は思わず叫んだ。
白桃は、一月に2回召喚したのが原因か、アレからずっと眠りについている。
「どうしよう。詰んだ。」
と、陽織は鷹人を抱いたまま、階段に座り込んだ。そして、
「もう、早く帰って勉強したいのに!」
と、叫んだ。
「ママ、きよ?」
「んー、たっくんどうしよう。ママ帰り方わかんない。どうしたら、お家帰れる?」
すると、鷹人が小さな手でどこかを指さす。
鷹人が指した方を見ると、階段と塀の間に細い小道があった。
「あの道?通れるの?」
そこは、所謂獣道のようで、正直いまの陽織の服装で迷ったりしたら、目も当てられないかもしれない。
それでも目の前にある石段を登るよりは良いかも、と、陽織は小道の方へ歩き出す。
休日出勤中の黎人の近くに、今日綾人はいない。会社全体にいるのは、経理部や総務部の一部の人間だけだ。
陽織がちょうど消えた後、黎人のスマホが鳴った。相手は真凛だった。
『陽織様と、鷹人様が消えました!』
というメッセージが入る。
??
黎人は慌てて真凛に電話した。
今、岡元のことと、神次のことがあるため、黎人が留守の時は、陽織には真凛か菖蒲が、付くようにしている。
その真凛からのメッセージだ。
「消えたって?どういうこと?」
「それが、先程まで、わたしの前を歩いていたのですが、忽然と。」
真凛は焦りと戸惑いで、声が震えている。
(お守り忘れて行ったな!)
「すぐに、行く。」
特に今は白桃が使えない。陽織の無茶振りに、弱って眠ってしまった。
(全く!)
陽織は小道を進んだ。すでに足は藪であちらこちらが擦り切れては治り、を繰り返している。ストッキングは、とうに敗れ、靴も泥と草がこびりついている。
小道を10分ほど歩くと、少し開けた場所に出る。
そこには小さな裏門があり、白髪頭の老女がいた。
「おや、ここに来てはいけない人がいるよ。」
老女は、陽織たちの姿に驚いた。
「おばあさん?ここには来てはいけないって?」
陽織が尋ねると、
「この門の中は、生きた人間は入れないのさ。あんたたち、なんでこんなところに。」
と、言いかけて、老女は陽織の背中を見た。
すると、あー、そうか。
と、納得したようにうなづく。
「あんた、この子の母親なのかい?」
老女は陽織の背中にいる、鞠くらいの大きさの小さな光を手にとった。
陽織は、思わず、その光の球を見つめ、そして鷹人をギュッと抱きしめた。
「これって。」
「そうか、まだ早すぎたんだねー。かわいそうに。」
老女が光の玉の中から、小さな小さな手のひらに乗るくらいの、何かを取り出した。
すると、鷹人がそれに向けて、優しく撫でるように手を差し出した。
光から取り出された小さなモノは、その途端に、ドンドン透明になり、弾けるように空へと消えて行った。
「うん、優しいお兄ちゃんだね。ちゃんと、妹を送ってあげたんだ。」
老女が鷹人に向けて、微笑む。
「妹?」
陽織は鷹人と、老女を交互に見た。
老女は、陽織に
「もう、大丈夫だよ。」
と優しく告げると、そのまま、消えて行った。
陽織は鷹人を抱えたまま、神代家の屋敷の塀に寄りかかって眠っていた。スカートの裾と、靴は泥だらけ。靴下は破けている。
「陽織!」
「陽織様!」
誰かの声がする。
ゆっくりと、目を開けると、黎人と真凛の姿があった。
陽織は、今見た夢のようなモノを思い出し、鷹人を抱きしめて泣いた。
「たっくん、ありがとう。また、ママを助けて、くれて。」
陽織は家に帰ると、
「女の子、だった。」
と、呟く。
「え?」
「この前、死んじゃった、赤ちゃん。」
陽織の言葉に、黎人も理解する。
「たっくんが、送って、あげた。」
「そっか。鷹人、また大活躍だなー。鷹人、エライエライ!」
と黎人がニコニコしながら、鷹人の頭を撫でる。
鷹人はさっき買ってきた絵本を見ている。
怪獣が出てくる絵本。
「えあい?」
と、黎人のほうを向くと、黎人は鷹人を抱き上げた。
「うん、鷹人はママを守って、妹を送ってあげて、すっごくエライ!」
と、ギュッと抱きしめながら褒めた。
そのことが、なぜか神嶋に知られてしまい、
「今度、母子でお仕事しませんか?」
という、なぜか手紙が来た。




