陽織、鷹人と異界へ(子育て編)
4月、陽織は大学3年生になり、今年は就活に向けて、色々と模索しようと考えている。
そう、就活だ!
これ以上、世間知らず、とか常識ない、とか天然、とか言われたくない。
ちゃんと就職して、仕事して、お給料もらって。
と、大学の学生課が出している求人情報や、夏休みにある、インターンシップの募集を見ている。
「おはよー、何みてるの?」
講義前、陽織がノートパソコンと睨めっこしていると、羽織が声をかけてきた。
「あ、ハオちゃん、おはよー。うーん、夏休みにインターンシップに行ってみたいな、って思って。」
と、陽織が答えると、羽織はびっくり顔で振り向いた。
「え、と。陽織、インターンシップって、何するのか知ってる?」
「ハオちゃん、わたしのこと、ホント、バカにしてるよね!」
と、ちょっと陽織は怒る。
(いや、ある意味おバカだし。)
「わたし、ちゃんと臨地実習できたからね!」
(確かに。)
と、羽織は苦笑する。
「で?どんなところに行く気なの?」
「んー、やっぱり病院系か、保育園とかにお弁当を提供している会社とか。あ、ここ、運転免許必要だー。ダメだー。」
「だよね。わたし夏休みは、また宏輝たちと、神代製薬でバイトして、教習所行くし。」
羽織は、計画的な夏休みについて、ドヤ顔で言ってきた。なにそれ!?
「わたしも、一緒、ダメかなー。」
と、上目遣いで言ってみるが、羽織に媚びても意味はない、当然、そんなのダメに決まってる。
そこに、日緒理たちも登校してきた。
「おはよう!羽織、ありがとう。わたしも今年、お願いします!」
と、日緒理がニコニコ笑いながら、羽織に言う。
なにをお願いしているのだろう?
「キクリ、何お願いしてるの?」
と、佳織に聞かれ、日緒理が夏休みのバイト、と返事していた。
ちょっと待て!
また、わたしだけ仲間はずれ!
陽織は軽く羽織を睨んだ。
わたしたちの班は、去年結菜がいなくなったが、今後増える予定はない。このまま、実験、実習は続く。
そして、今年はゼミにも入る。
一般教養が無くなった分、専門的な勉強になる。いよいよ、管理栄養士目指して、本格的なことが学べる!
陽織は、すごく楽しみだった。
だが、しかし。
夜、黎人が帰宅すると、陽織は朝のおねだりをしてみた。
「ね、わたしも、アルバイトしたいの。ね、週一で、いいから、ね、お願い!今年だけ!黎人さーん。」
と、甘えてみた。
「なに言ってんの?陽織は、レイリーの代表なんだよ?9月の中間決算に向けて、8月は半年分の帳簿を全部チェックして、働いている人の、年末までに出す源泉徴収の準備も始めないと、全部、経理に丸投げは、ダメだよ?3月は陽織が実習と入院があったから、僕がやったけど、本来なら、全部、陽織の仕事だからね!だいたい、3月に一度、確定申告のとき説明したの、忘れたの?インターンシップなんて、行ってる暇ないから!ちゃんと9月にグループの会計報告の会議、出てもらうよ!」
と、返された。
え?え?えーっ?
と、陽織は青くなる。
忘れてました、とは、言えない。
(でも、確定申告、難しすぎて、言われる通りに、ただパソコンに入力してました。)
「すみま、せん。」
と、とりあえず謝る。
でも、無理!
帳簿ってなに?
会計報告って、会計士さんがやるんじゃないの?
税金だって、よくわからないのに!
だいたい、お給料のことだって、よくわからなくて、言われるままに、入力してるだけなのに!
顔を青くして頭を抱える陽織を見て、黎人は全く、と、呆れていた。
その週の土曜日、陽織はとりあえず勉強しよう、と鷹人を連れて、近くの書店に行く。
書店の人に聞いて、入門書からと数冊購入してカードを出す。デビットカードというらしい。
お財布に現金は基本入ってない。
特に、今日は外にお買い物、と言ったら、なぜかこれしか待たせてもらえなかった。
(これで、帳簿なんて無理!)
鷹人が欲しい絵本も買った。
そして帰り道、陽織はお守りを忘れたことに気づいた。
時は、遅かった。
(と、とにかく早く、帰ろう!)
と、鷹人を抱き上げて、走ろうとするが、背中のリュックと鷹人の両方を抱えて走れない。
(やばい、やばい、やばい!)
と、目をつぶった瞬間、暗転した。
「もう!また?」
とにかく、鷹人は抱き上げた。
手を繋ぐくらいでは、不安だ。
前回は亡くなったお母さんと赤ちゃん。
今回は?と思うと、見たこともないお寺の門がある。
ここは、近寄っちゃダメなところだ!
わかってるけど、それ以外に道がない。
あとは全て長い塀で囲まれている。
いつのまにか後ろにも。
いやいやいや、これ、退路断たれた!
ってやつでしよ。
まさに、今の陽織の気分だ。
(なんで、こういう時に限って、黎人さん仕事に行っちゃうかなー。しかも、わたしカード一枚しか持ってない。)
と、考えながら、塀が壊せないか、とりあえず氷をぶつけてみた。氷か砕けた。
「ママ、バギーン?」
「んー、だめだねー。」
次に炎を出してみた。
と、逆に返ってきて焦った。
「オット。」
なぜか鷹人は笑う。
「たっくん、強いねー。平気?」
と聞くと、
「つおーい!」
と、手を挙げてる。
(まだ2歳にならないのに、本当に大物だなー。)
「じゃあ、たっくん、ママと怪獣さん、やっつけよう!」
と、陽織も開き直った。
ただ相手が怪獣なら良い。
人間、特に子どもだとタチが悪い。
そう、考えながら、お寺の門をくぐる。




