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陽織、帰宅(子育て編)

  胸の下の方が痛い。

  肋骨が痛い。

  ヒビが入るって、こんなに痛いの?

陽織は、ハッと目を覚ました。

汗びっしょりかいている。


自分のおでこを触るけど、そんなに熱くない。

あれ?そういえば、肋骨も、そんなに痛く、ない?

わ、自然治癒力半端ない!


と、ベッドから起き上がる。

んー、悪阻は酷かった。

なんで?

でも、骨折とか、擦り傷とかは、結構早く治る?

熱すごく高くても、割と早く下がる。

これは、自然治癒力?

何が違うんだろう。


そんなことを考えていたら、高樹が入ってきた。

「ん?起きたのか。」

「父様。あの、昨日の患者さんたちは?え、と、お腹大きかった人。」

個人情報だけど、これくらいなら聞いても良いよね?


「無事に帝王切開で赤ちゃんが生まれた、母親も、無事だ。運ばれた2人の子どもたちも。」

と答えてくれた。

良かった、と陽織は胸を撫で下ろす。

「で?なんで、わたしここにいるんだっけ?」

熱を出したのは覚えてる。

なぜか肋骨を折ったのも。

原因は黎人らしいが、どうしてだろう?


事故で運ばれてきた妊婦さんを助けようとしたのも。

記憶が混ざり込んでいて、よくわからない。

「わたしなんで、黎人さんに肋骨折られたの?」

と、聞いたが、高樹は

「馬鹿もの。」

と一言答えて、部屋を出てしまった。


陽織は、そのあとお風呂に入ってないことに気づいて、部屋についてるシャワーを浴びた。


お昼頃、美織と陽香、鷹人を連れた美咲が来た。

「陽織ちゃん、熱下がったんだ。良かった。」

美織が安心して、そう言う。

「たっくん、ごめんねー。ママ昨日帰れなくて。」

陽織が鷹人を抱こうとすると、みんなに止められた。

「肋骨、ヒビが入ってるんでしょ?」

そう言われたが、もう痛くない。

「?でも、もう、痛くないですよ?」

ホラ、と陽織が体をひねる。

「たぶん、自己治癒力だと思うんですけど。」

そういえば、以前陽織が手首を切った時、すぐに傷が塞がった、と言うことを神鬼から聞いたことがある。

骨折も、そうなのか。


「ところで、わたし、なんで黎人さんに肋骨折られたんですか?」

と聞くと、3人は唖然とする。

「え?もしかして、家庭内暴力、とか?」

陽織が恐る恐る聞くと、おバカ、と陽香におでこを叩かれた。

「あなたが心臓止まったから、心臓マッサージしたのよ!全く!」

心臓?

心臓!

ハツ?

「イヤイヤイヤ、それは、ないで、しょう?」

と、陽織は聞くが、誰も否定してくれない。


そのあと、循環器内科の女性医師と看護師が来て、陽織に心電図モニターをつけると言う。

「心電図?なんで?」

と、陽織が疑問を浮かべると、美織が困った顔をした。

「陽織ちゃん、もう、何回も心臓止まってるから!」

「え?美織ちゃん、わたし、そんな器用なこと、そうそうできないって!」

と、陽織は笑った。

美織だけでなく、美咲も呆れる。

「昨日もだけど、5月の時も、止まりかけたのよ!」

「5月?」

「ほら、黎人が浮気したって、訳のわかんない嘘ついて、大喧嘩した時。」

「あー、え?あの時は、止まってないかと。息をしてなかった、とは聞いてましたが。」


「浮気?」

「息が止まった。」

美織と陽香は唖然とする。


「でも、陽織ちゃん、海で溺れた時は止まったんだよ?あの時は、黎人さんと和嶺様が、心臓マッサージとか人工呼吸してたの、みんな見てたんだから!」

美織から力説されて、陽織は黙った。

「では、そろそろよろしいですか?」

看護師が、苦笑しながら陽織に心電図モニターをつけていく。

「これ、いつまでつけるんですか?」

と陽織が聞く。

「一日中です。」

「これってどうやってお風呂入れば良いんですか?」

と陽織が聞くと、

「え?明日まで、このまま大人しくしていてください。」

「わたし、昨夜もお風呂入ってないと思うのですが?」

と陽織はブーっと膨れる。

「先にお風呂入りたい。」


モニターをつけられたって、普通に生活してる分には、そうそう異常なんて、でるわけがない。しかも、病室のベットの上で。

なのに、お風呂!

帰れない!

もう、どこも悪くないのに!

帰りたい。

たっくんー!


陽織は、その日も家に帰れなかった。


翌日の午後、心電図モニターは異常なし!

熱も平熱!

肋骨のヒビも完治!

陽織はドヤ顔で、退院し、笹神の車で帰宅した。


帰宅するとすぐ、陽織は週明けの臨地実習の準備をして、鷹人を迎えに行った。

「たっくーん!」

母屋に行くと、美咲が

「鷹人は、まだ保育園よ?」

と言われて、ショックを受けた。


仕方ないので、お迎えの時間までお風呂に入って、夕飯の支度をした。

(全く、こちらが意識を失っている間に、黎人さんたちに入院させられるし、あんな心電図まで取られて!)


明王大学病院では、年に数回、学生の実習を受け入れている。管理栄養士も同じだ。

陽織と羽織は2月の最初の週明けから、臨地実習に入った。


期間は2週間。陽織は1週間目は東棟、羽織は西棟だ。

東棟は一般病棟。高齢の患者が多いので、色々な条件や病気の患者に合わせた食事が必要になる。


糖尿病、高血圧、がん、ほかにも様々な症例患者がいる。管理栄養士は、それに合わせた食事を提供する。

小児病棟とは違った苦労がある。


西棟、所謂B棟は小児病棟と産婦人科病棟。こちらは、乳幼児用の食事のほか、アレルギー、小児成人病、先天性の病気などの対応が求められる。


学校給食などに比べると、本当に難しい。


陽織は以前レイリーの管理栄養士、佐々木夢子とレイリーの給食のこんだてを作った。でも今度は大人だ。難しい。


東棟の管理栄養士な2人、寺井と田窪。ベテランの寺井は和食専門で、田窪は和洋どちらもできる。

陽織は1日目は寺井の指導のもと、和食中心の病院食の献立を勉強する。

(あ、これ、いつもわたしがまずいって、食べないやつだ。残してた。ごめんなさい。)

陽織は苦笑する。

どうしても、高齢者が多いと、魚を使った物を多く入れる。コレステロール値を下げるためにも必要なのだろう。陽織は、アマニ油とエゴマ油派だが。


煮物もあるが、どうしても薄味だ。

健康には良いのかな。陽織は勉強をしに来ているので、美味しさより、とにかく今は学ぶしかない。


陽織は昼休み、院内の職員用の食堂に行った。

管理栄養士は調理員と異なり、昼すぎにはその日の夜の献立の仕事が終わり、午後になれば明日の朝と昼の献立作りに入る。


陽織はお弁当なので、食堂の水だけをもらって席に着いた。何回も、ここの病院を利用しているが、食堂は初めてだった。


見かけたことがある看護師、医師の顔もあった。受付の人も見たことがある。

でも、あちらは覚えていないだろう。

陽織も、IDの名札をつけてはいるが、みんな知人の職員と楽しげに食事をしている。


陽織の小さなお弁当、すぐに食べられそうだが、陽織は食事も下手でトロイ。苦手なものがたくさんある。

トロトロ陽織が食べていると、目の前に、先日陽織に心電図モニターをつけた看護師が座った。


「あら、あなた実習生?」

と聞かれ、

「はい。」

と答えると、あちらはサクサク食事をして、

「頑張ってね。」

と言われて、去っていった。




















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