陽織、時間をかけて(子育て編)
結菜は光和と呼ばれるサークル活動から、抜け出そうとして乱暴され、さらに車で轢かれた。
おそらく向こうは、結菜が死んだと思っている可能性が高い。しかし、神嶋は彼女を最初に拘留した時に保険をかけていた。
それが功を奏して、今回一命を取り留めることができた。
ただ、身体はともかく、心のケアは必要になる。
そこで、一番問題にしたのが、小林家の当主となる、彼女の祖父だった。
あの祖父をなんとかしなければ、今後大学に残るにしても、辞めるにしても、救われない。
黎人は、それではまた陽織が悲しむと思って、敢えて弁護士と祖父を会わせた。
笹神弁護士が、うまく祖父を懐柔できれば、学費以外のお金も捻出され、結菜は大学に残ることが、可能になる。
それと並行にやらなければならないのが、公進党と光和、岡元親子を徹底的に潰すことだ。
さらに神次の存在も、まだ明らかになってない。
結菜から、情報が聞き出せればいいけど。
それを、陽織に説明すると、やっと陽織は納得してくれた。渋々だが。
「ただ、今回の件はおそらく時間がかかる。お祖父さんの件は年内には、片付くと思うけど、彼女自身の心のケアと、岡元たちと神次のことは、年単位になるかもしれない。そこだけは、わかってくれる?」
そう言うと、陽織は黙ってうなづいた。
だから、ボディガードは外せない。
陽織は一人で外に出せない。
と、念押しされた。
その翌々日、羽織と佳織も、病院へ行き、結菜の母親と会うことができた。
羽織と佳織の事情を知っても、陽織はまだ2人を許せなかった。幸穂は仕方ない。後輩だし、先輩たちに言わられば、従うしかないだろう。
結果、羽織と佳織が折れて、陽織に平謝りに謝り、なんとか矛を納めてもらった、と言うのが、12月の出来事だった。
その日、実験室から講義室への移動途中。
2人のひおりは、前を歩いてる。
羽織と佳織は後ろを歩きながら、佳織が納得できないと言い出した。
「今回、私たちは、黎人さんに頼まれて陽織に黙っていたんだよね?」
「まあ、それもあるかな。」
「それなのに、なんで私たちが謝らなくちゃいけないの?納得できないんだけど。」
羽織は、あははと笑う。
「そこは、ほら、私たちが大人の対応をした、ってことで。ね。陽織、ああなると、頑固だから、絶対折れないんだって。」
と、羽織が佳織を宥めた。
「それに、陽織はめんどくさい子だから。」
と羽織がいったとた、前を歩く陽織がクルッと振り向いた。
「何か言った?ハオちゃん。」
結菜はその後順調に回復したが、大学は休学した。
結菜の証言を元に、岡元亮一のことは起訴に持ち込めたが、まだ父親まで、手は届かない。しかし、息子の不祥事は公進党を追い詰めるのには、充分な材料とはなった。
結菜は退学すると言う話もあったが、祖父が結菜の奨学金を返済し、今後の大学のお金も、祖父が支えることになった。
その祖父が、結菜に休学を進めたと言う。
結菜はまだどこで狙われるかわからない。だから、地元に戻る彼女にも、黎人は神代の息のかかった者が常に見張ることになる。
結菜が東京を去る日、陽織たち4人は結菜の病室を訪れた。ここは、いつも陽織が利用する特別室。
祖父はそれだけのお金を持っていた、と言うことだ。
「ごめんね、陽織。あの時酷いこと言って。わたし、まだ陽織たちと向き合う勇気ないけど、その、陽織の旦那様には、すごく感謝してます。ありがとうございました。」
陽織はクビを横に振る。
「キクリ、ごめんね。たくさん心配かけちゃって、ありがとう。」
「羽織、佳織、色々ありがとう。その、陽織のこと、また今回みたいなことがないよう、これからも守ってあげてね。」
そう言うと、結菜は両親と一緒に東京を後にした。
12月も半ばになると、大学の授業も後期最後になり、1月の試験準備に入る。
実習や実験は最後の提出物を出すとこれで終了。
「やったー!これで、ハオちゃんたちに追いついたー!」
陽織は最後のレポートを出すと、万歳をした。
「それにしても、本当に2年で追いつくなんて。」
佳織は改めて、陽織の根性に感嘆する。




