陽織、結菜への嘆願(子育て編)
「黎人さん、やっぱり結菜ちゃんのこと、処分しないで。ちゃんと、わたしに悪かったって思ってるって。」
陽織が黎人に言うが、黎人は下を向かない。
「それが本心とは限らない。もしかしたら、警察に連れて行かれたから、そう言ったのかもしれないよ?」
黎人の冷たい言葉に、陽織は俯く。
「それに彼女は逃げたんだよ?」
それでも、と、もう一度声をかけた。
「でも、きっと何かあるんだよ。もしかしたら、連れ去られたのかもしれないじゃない!お願い。結菜ちゃんを助けて!」
陽織の言葉に、佳織と羽織も同意する。
自分たちが、もっと一生懸命、止めていれば、と。
が。
「お願い、黎人さん。だって陽織、普通のお友だち、欲しいの。」
と言う陽織の一言に、3人が揃って、はあ?と言う顔をする。
「ちょっと待て陽織!」
「ひどい、陽織ちゃん、わたしたち普通じゃないの?」
「えと、わたしは、元々術者じやないんだから、普通だよ!」
しかし3人の言葉を黎人は丸無視し、
「わかった。それじゃ、もう一つの可能性も考えて、策を練ろう。」
と言ってくれた。
「だから、黎人さん、聞いてる?今の陽織の発言、スルーしないでよ!」
と、羽織は怒っていた。
そして陽織は、ありがとう、と黎人に抱きついて、二人の世界を作っている。
それを見た湊人は、呆れているが。
さらに、冷静な神嶋が、
「なるほど、小林さんが無理矢理連れ去られた、という可能性もありますね。分かりました。再度防犯カメラを確認します。」
羽織はまだ怒ってるし、千織と佳織はショックを受けてる。
陽織は、と言うと、ちょうど2階から泣き声が聞こえて、慌てて鷹人の部屋に行ってしまった。
鷹人は起きて、階段上の柵に掴まって泣いていた。下に降りられないので、怒っているのだろう。
陽織は慌てて階段をあがると、柵の鍵を開けて、鷹人を抱っこする。
「たっくん、お目目覚めたの!じゃあ下に行って、お茶飲もうね。」
と抱いたまま降りようとして固まった。
そう、重くて降りられない。
仕方なく、陽織も子どものように、座りながら一段一段降りていると、途中で黎人が気づいて助けに来てくれた。
「もう、呼べばいいのに。」
神嶋は初めて生鷹人を見る。
顔を見た途端、感激の声を上げた。
「こちらが史上最年少で、霊を祓ったと言う、神子様!私、神嶋と申します。どうぞお見知りおきを。」
と、長ったらしい自己紹介をしていた。
「神嶋さん。鷹人にお化け退治の絵本を贈ってくるの、やめて下さい。」
と、黎人に冷ややかな目をされているのに。
鷹人も、全く神嶋には興味がない。
すぐに、陽織が用意した麦茶のマグボトルを持って、コクコク飲んでいると思ったら、羽織と、千織の方にトコトコ歩く。
羽織はさっきまで、お昼も一緒に食べたのでわかる。
「え?霊を祓ったの?」
「うん。まだ一歳になる前、わたしと一緒に引き摺り込まれて、たっくんが助けてくれたの。」
と、陽織は嬉しそう。
佳織は唖然としていた。
「たっくん、おやつ何がいいかなー。お芋かなー。おりんごもあるよー。」
と、陽織が冷蔵庫の中から、何か出そうとすると、
「パイパイ。」
と言って、陽織に縋り付く。
「たっくん、もう一歳は、赤ちゃんじゃないから、ダメってパパに言われたよね?」
「パイパイーっ!ウエーん!」
と泣き出すが、そこは陽織も譲れなかった。
足に縋りつかれられて、陽織も動けない。
黎人は足にしがみつく鷹人を無理矢理引き剥がし、自分の膝の上に乗せる。
結果、陽織は座るところが、なくなった。
ので。ソファーの間に、最初に座るつもりだったクッションを置いて座った。
そして、みんなの前に、切ったリンゴと、小さなフォークを人数分出した。
「はい、たっくんも、おりんごね。」
と、ちょっと膨れている鷹人、に小さく切ったリンゴを、幼児用のフォークに刺して持たせた。
せっかく出されたので、と、みんなリンゴを齧りながら、話を続ける。
陽織だけが、鷹人を黎人から引き剥がし、自分の膝の上で抱くと、リンゴを少しずつ食べさせてる。
「たっくん、もぐもぐして。おっきいのごっくんしちゃダメ。」
そう言われると、鷹人はもぐもぐと、口を動かす。まだ歯が生えそろってない、ほぼ前歯の口で頑張ってもぐもぐしてる。
そのうち、食べるのに飽きたのか、お腹いっぱいなのか、陽織の口に突っ込む。
「マンマ。」
話し合いは、神嶋がまとめて、結菜から得た情報を元に、明王大と、それ以外の大学生がいるであろう場所を特定していく。
術者の末裔と思われる神次の行方を探す。
ホテルの防犯カメラも検証して、陽織と結菜のやり取りの現場近くに、他に誰かいなかったか、などを再調査する。
結菜がいなくなった経緯も、再調査する。
結菜が炎を出した時、持っていたと言う紙を、調べ直す。
以前陽織たちが祓った、競技場ができる前に、起こった事件のようにならないことを、願って。
と言うことで、まとまっていた。
「神嶋さん、早く結菜ちゃんを、探して。」
最後に陽織は、そう言った。
その晩、黎人はとにかく眠かった。前の晩の徹夜と、その前も、陽織のお願いで結菜のことを調べていたため、忙しかった。
しかし、今回、やっと指揮を全て神嶋に丸投げできたので、今夜はゆっくり寝られる。
陽織も、前日は泣き寝入り状態で、寝た気がしなかった。早い時間から、うとうとし出していた。
久しぶりに、寝たら起きない、状態になりつつある。
しかし、
「陽織ー。一回だけ。」
と交渉するも、陽織はもう目が開かない。
「無理。」
と言ったきり、スーッと眠ってしまった。
それから数日、大きな変化はなく、さらに無断欠席が続く結菜に、学校からの呼び出しがかかった。
しかし、結菜は現れない。
アパートにも時々行くが、帰ってきた様子もなかった。
さらに数日後、結菜がこのままでは実験と実習の出席数が足りなくなる、と担当の教授から、連絡が入った。
大学の班なんて、単にあいうえお順だから、同じ班の羽織たちにペナルティはない。
ただ何か知らないか?と言ったことで、相談は受けた。
大学は勝手に休もうと、休むまいと、成人しているから、自己責任だ。
それが、事件性があっても、大学名を汚さなければ良い。一応、ゼミの教授が、いつも一緒の菊池日緒理と、羽織たちに、それとなく聞くが、必要以上に踏み込まない。
そう思うと、大神の熱すぎるしつこさが懐かしい。
そして12月のはじめ。あれから1ヶ月近く経って、ボロボロの姿の結菜が奥多摩近くの路上で発見された。かろうじて生きてはいたが、かなり危険な状態だった。




