陽織、それくらいわかる!(子育て編)
「選ぶ、なんて。」
陽織は困る。困って、そばにいる鷹人をギュッとする。
「マァマァ?」
鷹人はさっきから、両親が真面目な話をしてるので、つまらないと、怪獣で遊んでる。
「わたしは、陽織かな。」
佳織が迷わず答えた。
「わたしも、もちろん陽織だよ。」
と羽織も。
陽織は嬉しいけど、悲しい。
「菊池さんも、陽織に負い目があるなら、おそらく陽織を選ぶ。その時、彼女は確実に孤立するよ?」
3人は、言葉が出ない。でも。
「彼女が、羽織さんや佳織さんのようなタイプなら、他の人でもうまくやると思う。新しくとまた見つけて、そこのグループ入って。それは、2人を見てるとわかる。
羽織さんは、アルバイト中、あのヤンチャな2人をまとめて、大人の中で上手くやってたし。」
と、黎人は笑った。
「でも、おそらく結菜さんて、違うんじゃない?だから、こんなことに騙されるんだ。」
黎人の言葉は厳しい。厳しいけど、間違っていない。
「それに、今回たまたま陽織だったけど、羽織さんの可能性だって、これからは出てくる。」
羽織がまた、ビクッとなる。
「君は、宏輝の巫女になったんだから。」
え?
陽織は知らない。
なに?
「はあー。」
と、羽織がため息を吐く。
「なんで、黎人さんが。」
「僕はこれでも、十神家の長、だからね。」
「え?どう言う、こと?」
陽織が、羽織と黎人を見比べる。
「普通、18歳を過ぎてって、あまりないんだけどね。」
「宏輝くん?なんで?翔太とは?」
羽織は、はぁー、とため息をついた。
「今年の初め、宏輝が白狼を使役しちゃったの。その時、たまたま、わたし近くにいたんだよねー。」
イヤイヤ、そんな事で、巫女にはならない。
「で、わたしが白狼の巫女になった時から、翔太とは、なんかギクシャクしちゃって。まあ、そうだよね。だって、わたしは宏輝の伴侶に選ばれちゃったんだもん。」
羽織のこと、なんで半年以上、
気づかなかったんだろう。
陽織は、自分のことばかりで、親友の一大事に、まったく気づいてなかった。
「ごめんね、羽織ちゃん。何も知らなくて。」
「イヤイヤ、陽織のせいじゃないし。それに、陽織に黙っていてって、お願いしたの、わたしだし。」
「翔太、は?」
「それがさー、アイツ。ホントムカつくんだけど、それ知って、しばらくしたら、ちゃっかり彼女作っちゃって。もう、自然消滅だよー。喧嘩するのも、バカらしくて。ほら、陽織も色々バタバタしてたじゃない。神代のパーティーとか、誘拐とか。黎人さんが、結構出張でいなかったこともあったし。」
「宏輝の家は、神岡家は、うちほどじゃないけど、全国展開している、大手のドラッグストアだ。父親は、うちのパーティーにも来てた大物。いつかは、君も知られることになる。」
4人はしばらく沈黙している。
鷹人だけが、陽織に抱っこされて、ママ、マンマ、パンパンと、おねだりをして、陽織からフランスパンをもらい、かじっていた。
なんか、癒される。
「でも、結菜はなんでそこまで焦っていたんだろう。」
佳織がポツリと言った。
「そんなに、結菜の家って、大変なの?」
羽織も疑問を持つ。
「そういえば、アルバイトは休んでないの?」
陽織も。
そして、それに黎人が答えた。
「小林結菜の家は、群馬北部のちょっとした豪農です。豪農って、わかりますか?」
「え、と、大きな、農家?」
黎人はうなづく。
「昔はそれなりに栄えていた家のようですね。近年も、大きな道路が通り、土地を売ったお金はそれなりに入っています。ただ、農業としてのしゅうには、年々減少しているそうです。」
「土地を販売して、まとまったお金は入ってるんですよね?それって、大学の授業料くらいにならないんですか?」
佳織が疑問をぶつける。
「確かに、億単位のお金は入ってるはずです。相当土地が売れたようですから。」
「なら、そんなにアルバイトなんて。」
「それが、小林家はまだ古い考えで、祖父の竹蔵が全ての権力を握っているようです。土地の名義も祖父名義だったため、その、億単位のお金は祖父のものです。」
「えーっ?税金うまく取られてるねー。」
「孫の教育費、払ってあげたら、非課税でお得なのに。知らないのかなー。」
2人の話に黎人が苦笑いする。
「さすがだね。陽織は意味不明でしょ?」
「う、失礼な!それくらい知ってます!公共は得意ですから!」
黎人がまあまあ、と宥める。
「と、結菜さんの実家そのものは、父親が地元の信用金庫で働く収入だけで、やりくりしているようです。それで都内の大学に娘を行かせるのは。」
なるほど、と、2人はうなづく。
そこは逆さがに、陽織はよくわからないらしい。
何せ、今の授業料、払ってるのは黎人だ。
「え、と。億単位のお金!って、どれくらい?」
陽織がこそっと黎人に聞くと、
「んー、僕の年間収入の半分か、それ以下?かな?」
と答えられて、ますますわからない。
「この家、2軒か3軒分くらい。」
と言われても、疑問が浮かぶだけだ。
その顔があまりに可愛くて、思わず、こんな時なのに、チュッとしてしまった。
「陽織は知らなくて良いよ。」
と言われて、陽織は膨れる。
その時、黎人のスマホが着信音を鳴らす。
失礼、と黎人が電話に出ると神嶋だった。
電話の声を聞く黎人の顔が、みるみる強張る。
「やられた。結菜さんが、いなくなった。」
「でも、神嶋さんが、保護してたんでしょう?」
「内部に、通じてる者がいたってことかな。」
黎人の羽織が話す。
そこに、陽織が
「あの、それって術者の可能性、ないですか?」
と言う疑問をぶつけた。
黎人は、難しい顔をした。
「あり、える。」
その言葉に、陽織も羽織も青くなる。
自分たちと同じ、力を持つ者。
「とりあえず、午後神嶋が来る。」
の一言に、佳織以外の2人は、えーっ?と、嫌な顔をする。
「千織さんにも聞いてもらいたいから、湊人に呼んでもらった。」
「それじゃ、ちょっと早いけど、お昼にしましょう!2人とも、好き嫌いとかある?」
陽織に聞かれて、羽織は笑った。
「陽織じゃあるまいし。」
お昼は、ポトフとツナが入ったサラダボウル、フランスパン。ポトフのフランクフルトは、黎人のドイツ土産だ。
鷹人のポトフには、フランクフルトの代わりに幼児用ソーセージ、塩胡椒なし、出汁のみで野菜も小さめ。陽織の右隣で食べている。
前には羽織と佳織が、美味しいと食べてくれた。
左隣は黎人。陽織が鷹人に
「たっくん、美味しい?」
と聞くと、
「オイチ。」
と真似る。それを見て、2人は「可愛いー!」と。
「陽織、僕には?」
と左から聞かれて、陽織はちょっと引き気味。
「え、と、黎人さん、美味しいですか?」
と聞くと
「うん、美味しいよ。」
と、チュッとしてニコニコ笑う。
そして、羽織と、佳織はどん引く。




