陽織、同情?それとも(子育て編)
陽織はドレスを脱いでアクセサリーをはずすと、お風呂に入る。
黎人はシャワーで良い、と2階に行った。
2人の急な帰宅に、美咲は驚いているが、鷹人は喜んでいた。
陽織は、お風呂の後、鷹人を連れて子ども部屋に行った。鷹人は元気のない陽織に気づいて、頭を何度も撫でていた。
そんな優しさに、陽織は鷹人をギュッと抱きしめると涙が溢れた。
黎人さんは怒ってる。
たぶん、結菜に対してだとは思うが、もしかしたら、彼女を庇った陽織のことも、怒ってるかもしれない。
鷹人が眠ると、陽織はドレスとロングのグローブをクリーニングに出すためのカゴに入れ、脱ぎ捨てられていた黎人のタキシードも、一緒に拾って入れた。
ワイシャツは洗濯物置き場に、ネクタイはクローゼットに。
アクセサリーをしまいながら、結菜の言葉を思い出す。大学生が一年間バイトしても買えないネックレス。
当然と言えば当然だけど、それが陽織の枷となっている。イヤリングも、指輪もヘアアクセも、すべてアクセサリーケースにしまった。
明日、羽織たちを呼び出す、と言っていた。黎人が呼び出すのだろう。陽織はドキドキする。
寝室に行ったが、黎人は居なかった。
すれ違ったのか、と思い、下の階に降りるがいない。
もしかしたら、母屋かもしれない。
そう思ったが、なんか色々疲れてしまい、寝室に戻ると、そのままベッドに倒れ込んだ。
慣れないヒールも、
周囲の視線も、
結菜とのやりとりも、
もう、どうでもいい。
翌朝、陽織は泣きすぎて、目が腫れていた。
黎人の姿はない。
ダイニングに降りると、珈琲片手にパソコンを睨みつける姿があった。
「おはよう、ございます。」
陽織が恐る恐る声わわかけると、
「え?そんな時間?」
と顔をあげた。
徹夜していたらしい。
目の下にクマがある。
その後も、朝ごはんを食べながら、黎人はパソコンから目を離さなかった。
朝、あれから一言も話さない。
8時に鷹人の部屋に行くと、鷹人は起きて、ベッドから乗り出して降りようとしていた。
「たっくん、危ないよ。」
と手を貸すが、上手に降りてる。
階段も、一段一段、座りながら降りてる。
2人で階下に行って、鷹人が
「パパ!おあー!」
と言った時も、一瞬だけ顔を向けて、またパソコンを見てる。
??
9時になると、羽織と佳織がやって来た。
佳織は初めてだ。
「豪、邸。」
玄関の前で、佳織が呟く。
陽織が出てドアを開けると、羽織が飛び込んできた。
「陽織、大丈夫?目、真っ赤だよ!」
陽織は、顔を洗ったのに、と恥ずかしくなる。
「まあ、あれだけSNSやネットニュースでも取り上げられたら、大変だよね。」
佳織が苦笑している。
SNS?ネットニュース?
なんのことだろう?
中に案内しながら、陽織が意味がわからないと、言った顔をすると、羽織がスマホの画面を向けて来た。
そこには、陽織が黎人と手を繋いでパーティーにでている様子がアップされていた。
『神代製薬社長夫妻、岡元議員のパーティーに出席』
『岡元議員を支持か?』
と言った見出しもある。
2人がリビングに入ると、黎人がやっとパソコンから顔を離して、肩をトントン叩いている。
「疲れたー。」
その様子を見て、羽織が黎人にネットニュースを見せようとすると、途端に画面が消えた。
「え?え?」
羽織だけでなく、陽織も佳織も、驚く。
「あれ?あれ?」
羽織はスマホが壊れたのか、と、あちらこちらに触れていたら
「あ、羽織さん、もう見られないよ。全部消したから。」
と、黎人が答えていた。
どうやら、昨夜から徹夜で、黎人は昨夜の岡元議員のパーティーと黎人と陽織に関するニュースを、片っ端から消していたらしい。
「手伝ってもらった社員にも、残業と休日出勤手当出さなくちゃ。」
と呟く。
陽織は、とりあえずソファーにかけてもらうと、珈琲と紅茶を出した。
その前に、黎人と鷹人が座る。
「陽織、僕、もう、珈琲飲みたくない。」
黎人が言うので、なぜか鷹人と同じ牛乳になった。
「パパ、ニューニュー。」
と、鷹人が喜んでいる。
「あの。えと、お疲れ様、でした。」
陽織は、紅茶にミルクをたくさん入れて、黎人にぺこっとお辞儀をする。
「それでは。」
と、黎人が2人に昨日のことを話し出す。
光和というサークルのこと。
岡元議員とその息子。
そして結菜のこと。
「え?結菜が焔を放ったの?」
「うそ!だって、結菜って普通の子だよな。わたしだって、やっと見られるようになったくらいなのに。」
「で、これからは、陽織、話せる?」
ずっと黙っていた陽織は、急に話を振られて戸惑う。
「やり取りは、陽織しか知らないから。」
それはそうだ。
黎人が知ってるのは、陽織が炎を防いだところから。
陽織は、またあれを思い出すのか、と思うと気が重い。でも、確かめたいこともある。あれは、結菜の本心になるのか。
陽織は、結菜に言われたことを、思い出しながら話す。
バカにしてたのか。
同情してたのか。
良い服を着て、勉強も、苦労もしてない、お金持ちで、アルバイトもしてなくて。
自分は奨学金もあるから、成績下げられない。でも、バイトもしなくちゃならない。
バイト代一年分でも買えない、陽織のアクセサリーのことも。
などなど言われたことを。
「わたし、どれだけの人に、嫌われてるんだろう。」
陽織は、実験の時に高田に言われた言葉も、思い出す。陽織は、また、泣きそうになる。
「ちょっと待て!」
羽織は陽織の言葉を遮った。
「前も言ったけど、わたしは陽織のこと、好きだからね!付き合いも長いから言うけど、陽織は勉強だって、絶対楽なんてしてない!予備校行ってた時のことも知ってる!ホント、いつも一生懸命だって。
受験の時だって、陽織が必死だったのも、ちゃんと知ってる!」
黎人もうなづく。
「それに、千織たちから、陽織が子どもかばって溺れた話も聞いてる。陽織は、絶対、楽して良い思いばっかりしてない!むしろ、バカみたいに苦労背負って、死にかけて、ほんと、クソ真面目で。」
「うん、わたしもそう思う。この前、5号館の結界の時だって、陽織、お腹大きいのに、わたしを守るために、結界張ったり、霊を祓ったり、色々してくれた。危なかったのに!
高校の時、湊人くんとの時だって、陽織が千織ちゃんのことかばって、自分がターゲットなったり。階段から落ちたり。」
2人の言葉に陽織は嬉しかった。
じゃあ、あれは、なに?
やっぱり結菜は、そう思ってたの?
「確かに、羨ましいって思うこともあるよ!こんな素敵な旦那様!もう、羨ましくて、羨ましくて!」
「そうだねー。イケメンで金持ちで、優しくて、陽織に甘々で、真面目で、こんな良い人滅多にいないよ?」
黎人は恥ずかしそうな、嬉しそうな。
「だいたい、陽織のために徹夜したんでしょ?今朝も。」
と羽織。しかし、黎人は
「いや、あれはうちがアイツを支持してるなんて、なにがなんでも思われたくなかった。」
と、アッサリ答えた。
いや、そこはウソでも陽織のためって言えよ!
と、羽織は睨んだ。
「キクリは絶対、陽織を羨ましいなんて、思ってないしね。」
「あー、惨めな子って言ってたねー。」
そう、菊池日緒理は、陽織がいじめに遭ってた中学時代をよく知っている。
「それは、それで、嫌なんだけど。」
陽織が呟いた。
「あの時、結菜いなかったっけ?」
「いたけど、黙って聞いてた。」
「まあ、部外者だったしね。」
2人はうーん、と色々思い出す。
「陽織がお嬢様って、認識はあったよね。言葉遣いとか。父様?とか兄様とか。」
「あれは、どっちかっていうと、ドン引いていたって感じだったよねー。」
と、2人は笑い出した。
ちょっと、黎人がイライラし始めてる。
「とりあえず、結菜さんは、このまま処分ということで、よろしいですか?」
と、黎人がいきなり、結論を2人に突きつける。
すると、処分の言葉に、さすがに2人も驚く。
「今、結菜さんは警察、神嶋のところにいます。」
「警察!?」
「なんで、神嶋?」
2人はなにも知らなかったらしく、本当に驚いていた。
「幸穂。あ、一年後輩の。が、神嶋さんから、今回の件で依頼受けていて。もう、千織ちゃんたちは動いていたみたい。葉鳥くんから聞いてない?」
羽織は、首を傾げた。双子だろう!
「アイツ、秘密主義だからなー。」
「あと、宏輝くんも。」
宏輝、と陽織が言った途端、羽織の肩がビクッとなる。
?
「警察まで出てくるくらいのことだったの?」
「んー。それがこのサークルって、明王だけじゃなく、他の大学も、関わっていたみたい。だいたい、代表の岡元亮一自体、明王大じや、なかったし。」
それを聞いた途端、2人は
「やっぱり詐欺だったじゃない。」
「詐欺ってことだよね!」
と叫んだ。
「平和に考えれば、単に若者から支持されてない議員が、若い大学生に、就職って言う甘い餌をちらつかせて、自分の支持者に仕立て上げた。ってところかな。」
黎人が苦笑した。しかし、すぐに顔が強張り
「ただ、そこに怪しい霊能力って言う話が出て来て、実際に、今回彼女は炎を出してる。これは、明らかに問題になる。」
黎人の言葉に2人は真剣にならざるを得ない。
「そして、彼女は陽織に攻撃をした。」
陽織への攻撃。
それが何を意味するか、例の陽織を誘拐するきっかけとなった先輩の処分で、よくわかってる。
彼は大学を追われ、就職もなくなった。
「だから、処分。」
「うん、それが妥当かな。」
「すみません、処分って、何をするんですか?」
佳織が焦って聞いて来た。
「とりあえず、大学は退学だね。あとは、警察が彼女を被害者とみなすか、どうか。障害事件には違いないし。」
「でも、奨学金とか。」
「うん。でも、それはあくまで彼女の家の問題で、奨学金があるから、何もなかったことにする、と言うわけにはいかない。それは、陽織もわかるよね?」
陽織は、また泣いている。
「可哀想だけど。もし、このまま大学で普通に会って、陽織は結菜さんと、今まで通りに過ごせる?」
「それ、は。だい、じょ、う、ぶ。」
「彼女は?自分がしたことが、無罪放免になって、それが陽織のおかげだって知って、感謝するかな?むしろ、また、同情されたって、思うんじゃない?」
陽織だけでなく、羽織や佳織も、言葉が出ない。
「でも、それが、誰かに操られた、とか。」
「そんな、ドラマか漫画の世界じゃあるまいし。それに、多少なりとも、彼女には、そう言う気持ちがあった、って言うことだよ?」
陽織は、その言葉に、自分を責め始める。
わたしがパーティー行かなければ。
わたしが結菜に、声をかけなければ。
わたしがクビを突っ込まなければ。
「また陽織、自分のせいだとか、思ってるでしょう。まったく。」
黎人はお見通し、とばかりに、呆れた顔をする。
「確かに、弱点を責める、って言うのは、詐欺の常套手段だよね。彼女の弱点は、就職への焦りと陽織への嫉妬心だ。」
「黎人さん、結菜を救う方法ってないんですか?」
羽織も顔色が悪くなっている。
「救う方法はある。だけど、さっきも言った通り、2人は、どっちを選ぶ?結菜さん?それとも、陽織?」




