陽織、友だちを探す(子育て編)
後期の金曜日の夕飯は母屋でいただく。
陽織の最後の授業が遅いため、鷹人のお迎えも、夕飯の用意をする時間もないからだ。
陽織は上着を脱いですぐに母屋に行った。
「ただいま、戻りました。お母様、ありがとうございます。」
そう、声をかけると、鷹人がトコトコ近寄ってきて、陽織にギュッとする。
「ママ、オカエイ。」
陽織も鷹人を抱きしめて、ただいま、と笑う。
もう鷹人は、夕飯を済ませたらしい。
食卓には湊人と黎人が座っていた。
黎人は、湊人から、今回のサークル騒動についての話を聞いてる。
「あ、陽織、おかえり。
「お、陽織、おかえり。」
兄弟揃って、挨拶をしてくる。
そして、黎人は挨拶とキスを必ずする。
陽織も、ギュッと黎人に抱きつく。
「陽織ちゃんも、ご飯食べちゃいなさい。」
そう言われて、黎人の隣の席についた。
なぜか鷹人が膝の上によじ登るが。
「鷹人、ママがご飯食べられないから、みぃちゃんと遊んで、待っててあげて。」
黎人に言われて、鷹人は渋々陽織の上から降りる。
こんな光景も、ここ毎週繰り返されている。
今日違うのは、黎人と湊人が、例の話をしていること。
二人の話を聞く限りでは、どうやら岡元は、自分の支持者に若者が少ない、ということから、始めたらしい。
そこに、食事を終えた陽織が加わり、今日新たに幸穂から聞いた、素人が霊力を持つ、それに神嶋が捜査を依頼してる、という話をした。
すると、
「ないない、そんなの聞いたことないわよ!元々、資質がある子じゃなければ。」
と、美咲が加わった。
資質、という意味では、おそらく佳織はあったのだろう。まだ、見えるだけだけど。
はじめは文系の学生が狙われたので、文系中心に動いてた。しかし、ここきて理系にも手が伸ばされたため、宏樹と幸穂が加わったようだ。
「わたしも、色々幸穂から相談は。」
とまで、陽織が言ったところで、急に吹き出した。
「なに?」
「え、あ、ごめん、」
と言いながら、陽織は声を出さず、下を向いてクックックと笑ってる。
そのうち、美咲と遊んでた鷹人も来て
「ジジ」と湊人を呼ぶ。
「だから、俺は、お兄さん!ジジイじゃねー!」
と返すので、ますます陽織は笑いが止まらない。
「なんだよ?」
「いや、本当、なんでも、思い出し。」
「はあ?」
「そ、その、湊人、話、かけない、アハハ。」
とにかく、陽織は顔を背けて、特に湊人の膨れた顔が見られない。
お、おとな?これが?
うははは、ちがっ、全然
大人ってあははは
「れ、黎人さん、には、あと、で。」
陽織がそういうと、黎人はニッコリ笑った。
その晩、鷹人が寝たあと、陽織は笑った理由を、まだ笑いが止まらないまま、話す。
いや、話さないと、黎人が怖い。
「へえー、陽織といる時はやんちゃで、可愛いんだ。で、千織ちゃんの時は、カッコいい?大人になるんだー。」
なぜか、黎人は遠い目をしてる。
なぜだろう?
「でも、その結菜さんって友だち、アパートにもいなかったんだよね。」
流石に、陽織も笑いが止まった。
「はい。羽織ちゃんたちの話では、警察に調べてもらったら、一昨日から、帰ったところが、その、防犯カメラに映ってなかったって。」
「行方不明者、として、届けは出したんだよね?」
陽織はうなづく。
心配で、落ち着かない。
本当に、幸穂の話がなかったら、笑う、なんて、できなかった。
陽織は色々考え出したら眠れそうにない。
「公進党かー。」
黎人がつぶやく。
「確かに、今までは、その場限りの政策で、高齢者には甘いことを言って、若い人からは批判を受けてた政党かなー。若い支持者は欲しいだろう。」
黎人は、真剣に話しながら、陽織に言葉の区切りがくると、チュッとする。
「ちょっと、黎人さん。わたしも真面目に考えてるんです!」
「ん?僕も真剣だよ?」
「今週の土曜日、行ってみるかー。陽織も、土曜日の夜、支度して。」
ん?意味不明。
「土曜日、明日、岡元が政治資金集めのパーティーやるんだ。まあ、表向きは違うけどね。」
なるほど、と、陽織はうなづくと、今度は首筋にキスをされる。
「だからー!」
「ん?明日のための準備なら、母上に任せれば大丈夫だよ?」
全く!
「わたし、今日は考え事したいんです!」
昨日もじゃないか、と黎人はブーとなる?
陽織は、考え事がある時は、絶対に黎人の相手はしない。しても上の空は良くない、と以前経験しているので。
土曜日の夕方、陽織は以前結婚式で着たイブニングドレスを来て、黎人にエスコートされる。
今回はしっかり、背中を髪で隠す。
今回は、アクセサリーと髪型で、雰囲気を変えた。
「ママ、きえー。」
鷹人は綺麗なママとお出かけできると、嬉しくなったが、美咲とお留守番と知って、ギャン泣きした。
ホテルは同じ都内でも、陽織は初めてくるホテルだった。陽織の好みではない。
遅くなるから、と近くにある、いつものホテルに部屋をとってある。
さすが用意周到。
これも、きっと明日の朝、鷹人は、泣くだろう。
頭が痛い。
「絶対に僕のそばを離れない。今日は真凛たちにも来てもらっているから。」
そう、陽織がトイレなど男性が行けない場所に行くために、真凛と菖蒲もついて来ていた。
今日は、ある意味敵地に行くので、黎人も読めないことが多すぎる。用意周到でも気が抜けない。
車から降りて、黎人の腕に手をかけて、中に入る。
2人が入ると、周囲の視線が一斉に向いた。
外見のこともあるが、珍しく神代の社長が来てる。
それだけで、岡元を支持してる、と見られる可能性が高い。
もちろん、それを知ってか、2人が入ってすぐに、岡元大介と夫人、そして息子が挨拶に来た。
息子の顔を見た瞬間、陽織は吐きそうになった。
(気持ち悪い。絶対無理!なんで結菜は、こんな男のところに!)
それでも我慢して、黎人の後ろにちょっと隠れながら、ニッコリ微笑む。
「お招きいただき、光栄です。」
黎人は腕を組むのをやめて、手をギュッと繋ぎ直した。
(これでもダメなら、腰に手を回すかー。とにかく、絶対離さないようにしないと。)
「これはこれは、噂に聞いた、神代社長の奥様ですね。確かに、とても美しい!」
息子だけでなく、親も気持ち悪い。
もう、いやらしい目つきは、見たくもない!
陽織はペコっとお辞儀をした。
相手が日本人で、良かった!
黎人は岡元から、後で挨拶をしてもらえないか、と声をかけられたが、丁重に断っている。
とにかく、陽織から離れるなんて、一秒だって、論外だ!
陽織は黎人の気持ちはわかるし、自分も怖くて離れられないが、これでは結菜の情報が入手できない。
どうしたら。と思った時、結菜の姿が目に飛び込んできた。
若い男女が、数名。スーツ姿で、入ってくる。
パーティー会場でも、スーツでの女性は珍しくない。
実際に、陽織のボディガードの真凛たちも、黒スーツだ。
「黎人さん、結菜ちゃんが、いる。」
陽織は、黎人の腕にギュッともたれかかり、小声で囁いた。
ワインカラーのベアトップドレスの陽織は、イブニングドレスなので一番正しいマナーだが、やはり目立つ。髪で隠れた背中のラインも綺麗だ。
ドレスそのものが、陽織の身体に合わせたオーダーメイドなので、より美しい。
他にも、ドレス姿の人はいたが、みんなマナー違反の普通のドレスか、ワンピースドレス。
中には、うーん、キャバ嬢?と言ったドレスの女性もいて、笑える。
岡元の夫人でさえ、着物だ。しかも、安物。美咲がいたら、侮蔑の目を向けただろう。
陽織が黎人と2人で通り過ぎるだけで、近くにいる人、中でも男性が振り向く。
陽織は何度か結菜の方を見るが、結菜は気づいていない。それに、全くの素人に、霊力というのも気になるが、結菜といる集団に、それらしい気配はない。
「いない、な。」
黎人も同じことを思ったのか、小声で囁く。
陽織は、そのあと黎人に断って化粧室へ行く。
もちろん真凛たちはついて来た。
用を足したあと、陽織が出ようとすると、そこに結菜がいた。
「結菜ちゃん!良かった、無事で。」
そう言って駆け寄る陽織だったが、結菜はその手を払った。
え?
「もう、やめて。」
?
「やっぱり、亮一様が言った通り。どうせ陽織はわたしのこと、同情とか、憐れみとかで見てたんでしょ?それとも、バカにしてた?」
「え?なにを?」
陽織は、結菜から何を言われているのかわからない。
「そうだよね。陽織は可愛いし、お金持ちで、いつも綺麗な、いい服着て。アルバイトだって。したことないでしょう?」
陽織は、だんだん青くなる。
「そんなこと。」
「勉強だって、余裕で、大学入ったんだよね。わたしは、奨学金だってあるし。成績落とせないのに、バイトしなくちゃならない。なんで、不公平なの?」
結菜は今まで思ってたことを、吐き出すようにぷつけてくる。
「素敵な旦那さまもいて、就職だってしなくて良いし。やっぱり、全然平等なんかじゃないよ!」
「やっぱり、世の中、恵まれてる人と、そうじゃない人って、いるんだよ!今日だって、そのアクセ1つだって、わたしがあくせく働いて、一年働いたって、買えないものじゃない!」
「結菜、ちゃん。」
陽織は就職のことを言われるのが一番辛い。
お金の価値のこと、言われると、辛い。
でも、それはきっと、贅沢な悩み、なんだ。
そのうち、結菜は手の平を陽織に向ける。
「あんたなんて、消えちゃえば、いい!」
??
それは一瞬の出来事だった。
結菜の手のひらから炎が噴き出す!
真凛が、それを避けて彼女を取り押さえる!
菖蒲が陽織を庇う!
陽織のお守りが結界を張る?
陽織が氷の盾を出す!
周りにいた人たちの悲鳴が轟いた。
「陽織!」
騒ぎを聞きつけた黎人たちが、駆け寄ってくる。
黎人のボディガードも、真凛と一緒に結菜を拘束した。
陽織は真っ青な顔で、まだ氷を出した手をそのまま、戻せずにいた。
岡元大介も、出て来て黎人に
「申し訳ない!わたしの方でその者は。」
と言いかけたが、黎人がその言葉を遮るように、大介を舐めつけた。
「こちらのことですので、お構いなく。」
と、一言、言い放ち。
岡元に渡したら、何があるかわからない。
下手したら彼女は処分されてしまうかもしれない。
情報を消されてしまう!
そう考えて、黎人はすぐに神嶋を呼んだ。
警察、しかも、神嶋なら国会議員だろうと、手を出させない!
神嶋はすぐにパトカーで乗り付けると、真凛と黎人のボディガードと共に、結菜を連れて行った。
黎人は陽織を抱き上げると、すぐに笹神を呼ぶ。
「岡元さん、今日のところは、これで失礼致します。」
周囲の者は、岡元が神代を敵に回したことに、気づいた。
黎人は、まだ震えている陽織を、ホテルではなく、自宅に連れ帰ることにした。
笹神の車に陽織と共に乗り込むと、陽織が泣き出した。
「結菜ちゃん、どうなるの?警察、なんで呼んだの?結菜ちゃんが、悪いんじゃない!」
黎人は一瞬、陽織を見たが、すぐに困った顔で前を向く。その後も、ずっと、黙って前を見ている。
「お願い、結菜ちゃん、処分、しないで。」
陽織は神代の怖さが、少しずつわかって来た。
陽織に声をかけただけで、退学になった先輩。
もしかしたら、結菜も。
「明日、羽織さんと佳織さんに来てもらう。2人に話を聞いてから、決める。」
車から降りる時、陽織の手を取りながら、黎人が冷たく言った。




