陽織、悪徳商法にかかわる?(子育て編)
ハロウィンが終わったころ、大学の中で妙な噂が流れ始めた。
あるサークルに入ると、就職が必ずできる、といったものだった。
どう考えても、怪しい。絶対に悪徳商法のにおいがする。
と、大半の学生は見向きもしなかった。が、その中心となっていたのが、某有名国会議員の息子だっただけに、4年生、3年生の学生を中心に、信憑性が高い、と言われるようになっている。
陽織たち2年生の間でも、徐々にその噂は広まっていて、ほとんどの学生は眉唾、詐欺、悪質商法と言っているが、就職に不安を持つ人は、興味をひかれていた。
そして、その一人が結菜だった。
5人の中で、公立高校出身は菊池日緒理と小林結菜の二人。明王付属出身の三人は、それなりに就職のコネなどは持っている。羽織はコネを使って、ホテルや旅館関係の会社も考えているし、陽織に関しては、就職するなとまで言われている。佳織もそれなりに、お嬢様だ。
しかし、二人は就職に関しては真剣だ、
日緒理は公務員が第一志望で公立の学校や病院などに就職するために、栄養教諭の資格の講義も履修していた。
しかし結菜はこの中で唯一、一人暮らしで地方出身。はじめは、地元の公立学校の給食室や、どこかの企業に就職と考えていたが、最近はみんなと同じ、都内で就職できたらと考えるようになっていた。
羽織のように術者としての仕事があるわけでもないので、しっかりアルバイトもしている。
「管理栄養士の資格が取れれば、絶対に就職はあるよ。」
羽織が、焦る結菜にそう言うが、結菜は自信がない。
「それに結菜ちゃん、サークルに入ったくらいで就職が決まる、なんてありえないよ。」
「だって、そのサークルの部長って、ほら、よくテレビにも出てる、公進党の岡元代表の息子さんなんだよ。いくらなんでも、親がそれだけ有名人なら、詐欺なんて絶対にできないよ。」
結菜はそういうが、四人ははっきり言って不安だ。
そして結菜は「話を聞きに行くだけ」といって、配られていたチラシに書いてある、サークルの集会場へ行くことにした。陽織は、羽織と顔を見合わせて、「どうする?」と聞いてみる。
こういったことは、たぶん黎人は得意なので、相談してからでもいいが、結菜は今日の集会に行く気満々だ。
陽織も羽織もできれば止めたい。他の2人も同じ考えだ。でも、あまり強引に止めても、拗れるだけだ。仕方なく、それぞれが情報を集めてみることにした。
陽織は、まず4年生の祈梨に聞くと、彼女は噂だけは知っていた。ただリーダーの学生については、全く知らなかった。
和嶺たち医歯薬の学生は、もちろん知らなかった。
「陽織、そんな怪しいもの、絶対に関わっちゃダメだよ。」
和嶺に心配までされてしまった。
「わたしじゃなくて、その。」
陽織は言葉を濁した。まさか、友人の1人が参加しに行った、なんて。和嶺は眉を顰めると、それ以上聞こうとしたが、ちょうど予鈴がなってしまい、陽織も実験室に移動しなければならなかった。
その晩、黎人が仕事から帰宅すると、ただいまの挨拶よりも早く、
「陽織、大丈夫?変なこと、されなかった?」
と聞いてきた。
陽織は、言ってることの意味がわからず、疑問を浮かべる。
「え、と?お夕飯、ですよね?」
と、黎人に夕飯をとってもらいながら
どこからそのセリフが出てきたのか尋ねる。
すると、和嶺があの後余計な心配をして、黎人に連絡してしまったらしい。
「陽織が、詐欺にあってるかも。」
と。
「もう!和兄様は!ちゃんと話し聞かないで!」
陽織は怒る。
夕飯と、鷹人のお風呂を済ませた後、リビングで、陽織は結菜の話をした。
「岡元‥。」
黎人は名前を聞くなり、眉間に皺を寄せる。
「知ってるんですか?」
陽織が聞くと、
「うん、父上は大嫌いな議員だ。」
と答える。
「あんな奴の息子が、明王にいたなんて。」
とも。
「この前の100周年に招待しなかったことも、根に持って、色々嫌味を言ってくる、すごく嫌な奴。父上は、本当に嫌ってる。」
珍しい。蓮也はすごく懐が深く、許容範囲も広くて、無口で穏やかな人だ。時々高樹とは、喧嘩をしてるけど。
「悪いが、あんな奴の口利きでコネ採用はありえない。少なくとも、神代はないし、たぶん十神家に関わる、ほとんどの会社は、ないと思う。」
黎人はいつもと違う、厳しい口調で話す。
「本当は、そのまま話したいけど、それはダメですよね。なんて話せば、わかってもらえるのか。」
陽織は、難しそうな顔をした。
「そうだね。今はコネ、って言う採用そのものが、公ではほとんど、認められていない。だいたい、議員のコネなんて、危なくて危なくて、絶対に断るよ。」
黎人は陽織に苦笑いをした。
「しかし、そのサークル活動、気になるね。どんなものなのか。僕の方でも、わかる限り調べてみるよ。」
「ありがとう。」
陽織は、黎人に抱きついた。
「わたしも、明日結菜に、どんな感じだったか聞いてみるね。」
翌日、陽織たちが大学へ行くと、珍しく結菜が休みだった。結菜は1人暮らし。
「どうしたんだろう。具合でも悪いのかなー。」
「結菜のアパート、知ってる?」
羽織と佳織が話している。
誰のところにも、連絡はないらしい。
しかし、その日は結局誰も、何もできなかった。
自分たちのことが忙しすぎて。
陽織は、他の人よりもたくさんの実習と実験があるため、みんなが帰った後も、実験に行かなくてはならない。一人で、もとい、ボディガードと一緒に実験の部屋へ行く。
一年生と同じ基礎実験には、明王の後輩、神倉幸穂がいる。幸穂は卒業式に陽織の後輩になる宣言をした子だ。幸穂は陽織と同じ班なので、陽織は知らない学生の中でも、少しだけ安心できた。
「先輩、光和サークルってご存知ですか?」
「光和?サークル?」
陽織は全く聞き覚えはない。
「はい。なんか、えと、公進党?の岡元大介?って人が代表とか。」
「岡元?公進党‥。」
陽織は呟く。
「実は光和サークルのことを、わたし神嶋さんに調べるように、依頼されていて。」
神嶋。光和。公進党。岡元!
「それって、何か霊障が出てるの?」
「わかりません。ただ、そのサークルに勧誘された人が、先日突然、霊力を持った、って。」
「それって、全くの素人が!ってこと?」
「はい。」
??話がついていけない。
就職が決まる、と言うサークル。
議員の息子が代表。
全くの素人が?霊力を?
しかも、神嶋まで、知ってるなんて!
でも、黎人は知らなかった。
どう、繋がってるの?
「陽織先輩のほうでも、情報ないですか?」
「ええ、わたしも昨日聞いたばかりで、黎人さんも知らなかった。」
陽織は、神嶋の話も聞いてみたくなったが、おそらく1人で聞きに行くのを、黎人は許さないだろう。
陽織は少し考えて、幸穂に自分でも調べてみると約束した。
それに、結菜が無断欠席したのも気になる。
陽織は幸穂と情報共有をする約束をして、その日は別れた。
その翌日も、陽織は最後の授業が幸穂と一緒だった。
今日も、結菜は来ていない。
羽織たちは帰りに結菜のところに寄ってみる、と言って帰って行った。
昨日、幸穂に聞いたことは、黎人にも話した。
黎人の方も調べる、と言うこと。
「理系キャンパスでは、2日前にチラシが配られたのが、初めてだったんですが、もう数ヶ月前から他の大学なんかでも、活動していたみたいです。」
「それじゃ、その、岡元って人は、他の大学の人?」
「そうらしいです。小学校は明王だったみたいですが。中学の時、何かあって辞めたみたいで。」
幸穂の情報に陽織はちょっと考えた。
神月家の兄たちは中学から明王、黎人と悠人は小学校から明王。ならば、学年が違っても、名前くらいは知ってるのでは?
もう一つ考えられるのは、本校ではなく、埼玉や神奈川の姉妹校出身の場合だ。
「ねえ、幸穂。明王の姉妹校に知り合いはいないの?たとえば、明王志木とか、明王逗子とか。」
「本校生ではないってことですか?」
「だって、黎人さんも兄様も、知らなかったよ?」
幸穂は、なるほどとうなづく。
「もう一つは、素人だった人が急に霊力を持った、ってところだよ。わたしみたいに、封印してました、とかならわかるけど。」
どちらにしても、わからないことだらけだ。
陽織としては、まず早く結菜の無事を確認したい。
「あとは、黎人さん次第かなー。」
と、陽織がつぶやくと、
「陽織先輩、やっぱり黎人さんと、結婚しちゃったんですねー。」
と、幸穂が残念そうな顔をする。
「どうして?今さら?」
「わたし、陽織先輩は絶対に湊人先輩とお似合いって、思ってたのに!」
陽織は、目を丸くした。
「そんなこと、他の人に言っちゃ、ダメだよ!」
「言いませんよ!でもね、陽織先輩と一緒の時の方が、なんか湊人先輩、やんちゃで可愛かった、って言うか。千織先輩と一緒だと、湊人先輩、妙に大人っていうか、大人っぽいっていうか。」
大人?湊人がおとな?
陽織は、吹き出しそうになる。
「千織先輩がダメってことじゃないですよ!今回のことだって、千織先輩と宏輝先輩と、葉鳥先輩が一緒に調べてますから。」
「へえー、そうなんだー。へえー。幸穂は、大人っぽい湊人は苦手?」
「んー、なんか不自然な感じがするんです。」
不自然?
「カッコつけてるっていうか。」
なるほど。
「でも、男の人って、みんなそうみたいだよ?」
と、陽織はわらってしまった。




