陽織、お迎えに来る(子育て編)
ドイツから日本まで、14〜15時間。
予定では、土曜日の午後2時頃羽田に着く。
黎人は空港から、ちょうど夜の日本にネットを繋げていた。
急に回線が繋がった陽織はびっくりして、バスローブ姿のまま、黎人と会話していた。ちなみに鷹人は裸で、画面には可愛いたっくんのお尻が映し出された。
「鷹人、早くパンツ、履きなさい。」
と黎人が言っていた。
飛行機に搭乗し、ドリンクサービスが始まると、黎人と悠人は、自然と仕事をする。
ビジネスクラスなので、ほとんどの乗客がそんな感じだ。
黎人のパソコンの画面には、右上の隅に、陽織と鷹人の姿が動画で流れている。
(早く帰りたい。もう、陽織分が足りない。)
綾人も、パソコンの壁紙が、実は絵梨花と将人になっている。そんな2人に、悠人はじめ独身者は、やっぱり羨ましい。
食事が配られ一段落すると、黎人と綾人は子どもの話をしていた。お土産に何を買った、とか、保育園でこれを覚えてきた、とか。互いのパートナーの話でも、盛り上がっていた。
その時悠人は、初めて陽織が絵梨花のことを「お姉様」と、呼んでることを知った。
そういえば、祈梨のことは、先輩と呼んでいた。
そのうち、まだまだ先の小学校受験の話まで行って、2人は悩み出していた。ずっと明王、と言うのは、やはりどうなのか、とか。
陽織のように、海外へ留学させるのも、いいかもしれない、など。たぶん、まだ最低でも4、5年先だとは思うのだが。
あまり、職場ではしないプライベートな話しができるのは、飛行機の中、と言う限られた空間だから、かもしれない。
そして、また仕事をする。
だんだん顔が険しくなって行くが、怖くて誰も声をかけられない。
日本に到着し、やっと飛行機から降りられた。黎人たちはゲートをくぐる。
やっと帰ってきた!と、黎人は疲れた顔で外に出ると、
「パッパッ!」
と、聞き慣れた声と姿を見つけた!
陽織が鷹人と手を繋いで、迎えに来ていた。
嬉しい!すっごく嬉しい!
もう、同行者全員を放り投げて、陽織に駆け寄る!
「陽織ー!鷹人ー!」
荷物を転がしながら、2人に駆け寄った。
そして、陽織を抱きしめると、もちろんキスをする。
もう、定番!
「パッパ、たった、も!」
と、鷹人が手を伸ばしたので、鷹人を抱き上げた。
いつのまにか鷹人のおしゃべりが上手になっている。
「陽織ちゃん、お疲れ様。」
悠人が声をかけると、陽織はニコッと笑って挨拶を返す。そして、後ろにいた社員たちにも、お辞儀をしていた。すると、若い社員の顔が、みるみる赤くなる。
か、可愛い!
めちゃくちゃ、美少女!
社長が惚気るわけだ!
画面より、全然良い!
と、それぞれ頭の中で、叫びながら。
「じゃあ、悠人。ここで解散、ってことで良いよね?」
もう、黎人は一刻も早く家に帰りたい!
黎人の気持ちを理解して、
「いいんじゃない?僕も疲れたし。」
と、悠人が苦笑いしていた。
黎人は、陽織と鷹人が乗ってきた、笹神の車で帰宅する。運転しなくて良いのが、楽でいい。
黎人は家に入ると、とりあえず、荷物を置いて、ソファーにクターっとなった。
陽織がお茶を淹れて、そばに座る。鷹人も、それを真似する。
「たっくんは、こっちね。」
陽織が子ども用の麦茶を淹れて、マグボトルを渡す。
鷹人は、ストローで上手に飲めるようになった。
でも、鷹人は牛乳が欲しかったらしく、少し飲むと
「たった、ニューニュー。」
と、ボトルを振り回す。
「こら、鷹人。ママも疲れてるんだから、まずはそっちを飲みなさい。」
と、黎人が注意すると、パタパタ手を振り回した。
「たっくん、プリンもあるんだから、牛乳はあとでね。」
と陽織が言うと、
「やー、やー!」
と怒る。
わがままを覚えたらしい。
「えー、それじゃ、プリンはなしだよー。」
と、陽織が言っても、ダダを捏ねる。
あれ?珍しい。
「鷹人、ママを困らせるとパパのお土産なしだぞ。」
と、黎人がちょっと圧をかけて怒ったら、さすがに黙って、泣き出した。
「マンマンマンー。」
と、陽織に抱きついて泣く。
「ほらー、たっくん。パパがせっかく帰ってきたのに、おかしいなー。たっくん、パパに早く会いたくて、飛行機のところまで、行ったのにー。」
と、陽織が抱っこすると、疲れてたのか、少しずつ、グズグスしながら、眠ってしまった。
「あ、お昼寝してなかったから、眠かったのかも。」
と、陽織が笑って、そのまま2階に連れて行こうとするが、何せ陽織は非力だ。
抱っこしたまま立てない。
仕方なく、黎人は鷹人を抱き上げると、2階の鷹人の部屋に連れて行った。
久しぶりの我が家は、こんなトラブルがあっても落ち着く。
「じゃあ、僕もベッドに行こうかなー。」
と黎人が陽織を抱き上げて言うと、陽織が怒った。
「なんで昼間から!ダメです!わたし、お夕飯の用意もあります!」
と、陽織が飛び降りた。
「えーっ、結婚前は、昼だってオッケーだったのに!」
と言うと、
「それは、門限が、あったから。」
と、目を逸らされた。
(あー、そんなこともあったねー。)
諦めて、荷物の中から、洗濯物を出すと、陽織が洗濯機に詰め込む。
そして、たくさんのお土産に嬉しそうに、笑ってくれた。
「わ、フェイラー、可愛い!あ、シュタイフのホッピー!これ、陽織の?」
「うん、陽織、うさぎ好きだから。」
シュタイフのうさぎのぬいぐるみを、嬉しそうに抱く陽織は、まだ高校生の時のようだ。
子持ちの陽織を周りが今でも「美少女」と表するのがわかる。
その晩、陽織に悠人の話をした。
「タイミング‥。」
陽織は、うーん、と考える。
「確かに、わたしが大学生まで、黎人さんと何もなくて、そのまま普通に生活していたら、結婚しなかったかもしれません。」
陽織にきっぱり言われて、黎人は急に不安になる。
「もっと好きな勉強したい、とか、仕事したいとか。それに結婚したら、家のお付き合いとか、子育て大変、とか思って、1人の方が楽って思ったかもしれません?」
黎人はなるほど、とうなづく。
「わたし、本当によくわかってないままだったから。でも、たっくんがいて、いつも、黎人さんがそばにいてくれて、1人だったら、きっとこんな幸せは、なかったかもしれない。だから、良かったです。」
陽織なにっこりと笑って、黎人の胸に頭をクリクリの押し付けてきた。




