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陽織、国際通話する(子育て編)

10月に入ると、陽織の大学が始まった。

朝、陽織は今まで通り黎人を見送ると、自分と鷹人の支度をし、美咲と一緒に笹神の車に乗る。

途中、大学の正門で陽織は車を降りて、鷹人は美咲と一緒にレイリーに向かう。

帰りは、笹神の車で陽織を拾ってから、レイリーに行き、鷹人のお迎えをする。

といった流れだ。


そして10月の中旬、黎人と悠人の二人は、それぞれの秘書や社員と一緒にドイツの視察と取引販路拡大のための出張に出かけた。


日本とドイツの時差は8時間。9月までは夏時間という時差だったが、10月になったので、時差が8時間になった。ドイツの夜10時が日本では朝の6時になる。


朝6時はまだ早いが、保育園と大学に行く陽織と鷹人はしっかり起きて、毎朝ドイツの黎人とネットでお話をする約束をしていた。


初めての国際通信なので、陽織はちょっとうまくいくか心配だったが、湊人に手伝ってもらって何とかつなげることができた。黎人は夜10時になると、ホテルの部屋から回線を繋ぐ。


毎朝、ダイニングテーブルの上にパソコンを設置して、そこに陽織が画面を立ち上げやり取りをする。朝6時、まだ眠い目をこすりながら、鷹人はパソコンを不思議そうな顔で見ているが、そのうち黎人の顔が映し出されると。

「パパ」と叫んで両手を挙げた。

ちゃんとわかるんだ。

そういえば、九州の出張の時にも、一度やっていた。


陽織が

「おはようございます。」

と言ってから、あ、

「グーテン アーベン!」

と言い直す。別にいいのに。

鷹人はずっと不思議そうな顔のまま、パパ、マンマと、大好きなフランスパンを齧っている。

今朝はパン食のようだ。

珍しい。


1日目の夜、こんなふうに黎人と陽織がやり取りをしていたら、2日目、綾人も絵梨花とやり取りをしていた。


悠人は祈梨さんに連絡しないのかと、尋ねたら、彼女は今、卒論の追い込みで忙しいらしい。たぶん朝はまだ寝ているのだろう。


3日目、鷹人が昨日、保育園で習ったらしい?歌のようなものを歌った。かなり、意味不明だけど、面白かった。パチパチと拍手すると、

「オウオウ。」

と嬉しそうに手を伸ばした。


最後に陽織が、

「はい、たっくん、パパに行ってきまーすって、チュッして。」

と言うと、画面越しに、プチュッと、涎まみれの口をつけてきた。

それを見ていた悠人が、後ろで大爆笑し、陽織はパソコンの画面が、よだれまみれになって、慌てて拭いていた。

「じゃあ、陽織も。」

とリクエストすると、なぜか鷹人が陽織の口にチュッとする。

「こらー!」っと思わず画面越しに怒る。


画面を閉じて、あとはシャワーと寝るだけ、

と言う時間。悠人が

「前に、遊びに行った時も思ったけど、ほんと、黎人変わったね。」

と言い出した。

「本当に、今の姿を高校生の黎人に見せてあげたい。」

と、ずーっと笑ってる。

「はあ?」

と、睨むと

「だって、ちゃんとパパしてるんだもん。信じられない。」

と、さらに笑う。


「悠人も、早く結婚すればいいじゃん。」

と、言ってはいけないことを言ってしまった。

そう、祈梨は、まだまだ結婚はしたくない、と考えてるらしい。

「ぼくはね、正直、祈梨が卒業したらいいかな?って思ってたんだけど、あっちは、全くその気、ないからね。」

と、ため息とも、あきらめともつかないような、苦笑いをしていた。


陽織のように、周りが固めて強引に、と進められるような相手じゃない。

陽織は知らないうちに、どんどん周りが決めて、本人はそれに引きずられる感じで、ここまできてしまった。今考えると、何の疑問も持たない、子どものうちに、神代の両親が、強引に進めた結果だと思う。

それでも文句を言わないから、まあいいのだが。


「前に祈梨に言われたことがある。もし、4年前にプロポーズされてたら、迷わず受けたって。まあ、無理だったけど。」

4年前?と聞いて、思い当たることがあった。


4年前は、祈梨の大学受験が終わり、クリスマスの日、黎人と陽織が、悠人たちと途中まで一緒に行って、初めて陽織を家に連れて行った時だ。

陽織にはあのあと、3月の誕生日にプロポーズしている。


「まあ、この4年で色々なことを理解できるようになったってことかな。黎人たちみたいに、勢いで行くタイミングじゃなくなったってこと、」

悠人はそう苦笑した。

「難しいよね。」

「いや、俺たちだって決して勢いだけでは。」

とは言うものの、確かに受験生の陽織を放って置いて、いつも美咲が率先して決めていた。


結婚という言葉を使って、陽織にお嫁さんという、まるで物語に出てくる、幸せになるシンデレラや白雪姫のような夢を見せて、そのまま、という感じだった。

のは、確かだ。

「なるほどね。」

と、なんとなく納得する。


黎人はドイツのブランドで陽織が好きなFELLERのエプロンとハンカチ、スリッパ、ストールを、鷹人のために赤ちゃん用のマグボトルと靴下を買っている。とにかく非力なので、革製のブランドバッグを買ってあげても、重くて持てないといって使わない。

使っても国産の革バッグをいやいや使うが、動物の革。というところがどうしても受け入れがたいらしい。

その点、ナイロン製のレスポートサックや布製のフェイラーは使いやすいらしい。

そのほかに、ベーグルを焼きたいという陽織のために、専用の小麦粉、チーズ、ベーコン、さらにフランクフルトなどを購入し、すでに空輸で自宅にお願いしていた。


最終日は、午前中にドイツ最大の総合病院を視察し、午後の飛行機に乗る。

前の晩、いつものように黎人の部屋で、翌日の日程の確認をしていたら10時になってしまった。

話し合いの最中だというのに、黎人は気にせずパソコンを立ち上げ、日本に繋ぐ。


今は悠人の秘書と、同行している他の社員もいる。

「おはよう!」

と、黎人が画面越しに挨拶をすると、鷹人がパパと、手を伸ばす。それを見て、幸せそうに笑う黎人の姿に、他の社員と悠人の秘書がドン引きしていた。


陽織も、いつものようにドイツ語でこんばんは、と挨拶。仕事より家庭優先なんて、他の人には見せられない?黎人の姿は甘々だ。

「明日、帰るからね。鷹人も、いい子にしてるんだよー。陽織も、くれぐれも、神嶋の電話には、でないように。」

と、わかる人にしかわからない、釘も刺していた。

そして最後に、

「気をつけて帰ってきてね。」

「か、ねー。」

かね?

と2人が言うと、

「うん、明日帰るからね、そしたら陽織、すぐにベッドに行こうね!」

と黎人が言う。陽織はそれに間髪入れず、

「ヤダ。無理。」

と、痛い子を見るような目で見て、回線を切った。

「えーっ?ひおりー!」

と叫ぶ黎人。後ろでお腹を抱えて笑う悠人。頭を抱える綾人、そして唖然とする、社員たちの姿があった。


翌日、視察が終わった一行は、大荷物を抱えた黎人を連れて、日本への帰路にたった。











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