陽織、お守りのこと(子育て編)
綾人は、昨日の昼休みにアレを聞いた今でも、何も言わずに仕事に徹する。さすがだ。
とりあえず、移動かお昼休みまで待とう。
と、思っていても、移動の車も打ち合わせやら、確認やらで、プライベートな話ができない。
昼休みは、と言うと、他の社長との会食になってしまい、結局話ができなかった。
「うーっ!」
鷹人みたいな声で、思わずストレスを発散した。が、白い目で見られた。
今日は絵梨花が残業らしく、綾人がレイリーに行くと言う。それなら、と、自分も同行することにした。
神柴家は公共交通なので、車で送ることはやぶさかではない。
車に乗ると綾人に、そういえば、と言った流れで話しかけた。
「この前、陽織を送ってくれたそうで、ありがとう。」
と。
「いえ、奥様が困っていらしたようでしたので。」
「うん。本人も帰り方がわからなくて、困ってたって言ってた。」
え?と、綾人は明らかに驚く。
それはそうだろう。
歩いても10分弱で帰れる距離だ。
でも、陽織は自分で歩いた場所以外のところに、いきなり連れていかれると、よくわからないらしい。
決して方向音痴というわけではないのだが。
車で移動されると、よくわからない、と言っていた。まして、一人で地下鉄に乗れないので、誰かと乗ったことがあるところ、にしか行けない。
よく、誘拐されるはずだ。
高校の時、自転車で通学していたことがある。しかし高3のとき、自転車に乗ったまま寝てしまって、自転車ごと転んだ。
大怪我はしなかったが、それ以来、自転車禁止にもなっていた。
「あの、とても元気な奥様で、驚きました。」
もう、階段を飛び降りたことは互いに知ってるので、隠す必要はない。
「あはは、それが素だからね。スポーツ万能だよ。」
「その、湊人くんとも。」
「あ、喧嘩してた?もしかしたら。」
「はい。なんか、みなさん慣れていらして。喧嘩しながらも、すごく息があってる、と言うか。」
そっか。
と、黎人はしばらく黙り込んだ。
「今でも変わらないんだ。」
と。
「それに、感が良い、と言うか、よく見えてる、と言うか。すごいです。」
それを聞くと、黎人はニコッと笑って
「すごいでしよ?」
と、喜ぶ。
「でもね、だからあまり行かせたくないんだよね。一人で外に出させたくない。見え過ぎちゃうから。余計なものも背負いこんじゃう。良い時もあるけど、それだけじゃない。」
「あ、以前おっしゃってた、極上って。」
「そう。色々な霊にとって、陽織は極上のステーキ肉と同じ。その辺にポツンと立ってるだけで、いらないものを寄せ付ける。」
もしかしたら、陽織が家に帰れないのも、これが理由かもしれない。
スマホのマップにはない道が見える。
ないはずの地下鉄がくる。
階段が、前と違う場所に通じてる。
一人じゃ、どれが正しくて、どれが違うのか、わからない。
そして、違う場所に連れて、行かれる。
だから、そうならないようにお守りを持たせてる。
「お守り持たせてるのに。あ、わざとはずしたのか。ハクと一緒に。もう!こっちがわからないようにしたのかー。策士め!」
赤信号の時、そう言って、ハンドルに顔を伏せる。
これも、お仕置き案件だな!
レイリーに到着すると、見慣れた車から陽織が降りてきた。ちょうどあちらも迎えにきたところらしい。
「あれ?黎人さん?」
と声をかけてきた。
笹神には、こちらで送るから帰っていいよ。
と、告げ、自分の車に乗せることにする。
今日は真っ直ぐに家から来たからか、普段着のワンピースを着ている。くすんだピンク色は、秋によく陽織が着る服の色。五部袖には大きなリボンがついていて、前開きのシンプルなデザイン。
陽織は黎人の車の後部座席に、簡易式のチャイルドシートを一つ取り付けて、そこに鷹人を座らせ、いつものシートに将人を座らせた。
助手席は綾人。陽織は簡易シートに座る鷹人の隣にちょこんと腰掛ける。
何度か絵梨花と、こうやって帰ったことがあったので、鷹人と将人は慣れていて、2人で会話にならない会話をしている?
陽織は綾人が先に助手席に座ると、
「あの、先日の件、大丈夫でしたか?」
と、小声で聞いていた。
綾人と将人を神柴一家の住むマンション前で降ろし、そのまま家にむかった。陽織はそのまま後部座席に座ったまま、鷹人とお話し?している。
「そういえば。」
と、運転席にいる黎人が、
「陽織さん、ちやんとお守り、持ってますか?」
と聞いてきた。陽織は不思議そうな顔をしながら、はい、とポケットの中から、黎人のお守りを出した。
(ふーん。今日は、持ってるんだ。)
「ポケットの中じゃ、忘れることもあるよね?」
と聞くと、そう言えば、と以前近くのコンビニに行った時に忘れて、鷹人と一緒に引き摺り込まれたことを話し出した。
あの時も、忘れてたのか。
「んー、首から下げるようにするかー。」
と言ったら、ハア!?と、睨まれた。
「そんな、昭和の映画に出てきそうなの、絶対に嫌です!もう、待ち歩きません。」
とまで、言われた。




