陽織、バレる(子育て編)
数日経っても、黎人から何も言われなかった。
すごい!神柴さん、守ってくれた。
陽織はほっとした。
が、ほっとした日のお昼休み。
「え?陽織ちゃん、飛び降りたの?」
「んー、もうびっくりした。おれも、真似した。なんか、負けたくないって思ってー。」
「ばっかじゃない!」
「でも、陽織って、マジ子持ちかよー!」
その日の昼休み、バイトの湊人、宏輝、羽織は一緒にお昼をとっていた。
御飯時は、社員の本音を聞ける、貴重な時間。と、黎人は綾人と2人、社員食堂で、お弁当を食べていた。
斜め後ろのテーブルには、湊人たちがいる。
しかし、その間に体格の良い社員がいて、黎人の姿は見えないらしい。
「もう、あいつ踊り場から飛び降りた時は、マジびっくりしてさ、何かあったら、オレ黎兄に殺されるって!」
「でも、前はバク宙したよね。」
「陽織って、ほんと、すごいよねー。」
ワハハと、3人は笑ってる。
(踊り場?飛び降りた?)
「でも、倒れなくて良かったよ。今回、黎兄いなかったから。」
湊人がほっとして、言う。
(倒れなかった?)
黎人の顔がだんだん強張る。
「まじでウッセーし。取りこぼすな、とか。前みたいに失敗するな!とか。千織、置いてくるな、とか。」
黎人が降り向こうとした時、それに気づいた綾人が、黎人に声をかける。
「社長、そろそろ午後の打ち合わせに。」
と、黎人の腕を引いて立ち上がった。
綾人にグイグイ引っ張られて、社長室に戻る。
先日、神柴は湊人と一緒に、黎人の代わりに神嶋の依頼に言ってくれてた。
湊人が話してたのは、おそらくその時のこと。
「神柴、お前、何か知ってたな。」
黎人は部屋に戻ると睨みつける。
弁当洗い忘れた。
「申し訳ありません。なんのことか。午後の打ち合わせですが。」
綾人は秘書業に徹する。
黎人は帰りまで、綾人から何も聞き出すことができなかった。こうなれば、本人から聞き出すしかない!
帰りの車の中、どう聞き出そうか、ずっとそれを考えている。しかし、絶対にはぐらかされそう。しかし、こちらは弁が立つことでは、上手のつもりだ。
(ひー、おーりー、!)
黎人は怒モードになる。
(しかし、それ以前に神嶋がどうやって陽織と連絡をとったんだ?番号はブロックしている。見知らぬ番号なら、陽織は絶対に出ない。)
帰りの運転中、黎人はそのことばかり考えていた。
家の玄関を開ける。
「おかえりなさーい。」
陽織が、出てきてキスをする。
鷹人も、ほっぺにチュッとした。
「ただいまー。」
う、幸せだ。
この雰囲気を消したくない!
毎日の夜のルーチン。
夕飯、お風呂、鷹人を寝かしつけて。そして。
ベッドの中で黎人は陽織にキスをして、抱きしめながら聞いてみる。
「ねえ、陽織。」
「ん?」
「神嶋さん、なんで連絡してきたの?」
「んと、電話。」
どうやったんだ!
「いつ?」
「え、とね。先週の金曜日。」
鷹人の誕生日の日?
「なんで、教えてくれなかったの?」
「んー、忘れてた。」
絶対に嘘だ!
「で、何の用だったの?」
「二人目おめでたですか?って。」
「で?」
「違うよ、って言った。」
なんで、正直に答えるんだ!
「で、どうしたの?」
「人が足りないから、手伝ってって。」
「で、手伝い行ったの?」
「うん。神嶋、ウチまで迎えにきた。」
な!
「知らない人の車、乗っちゃダメじゃないか!」
と、黎人は怒鳴ってしまった。
知らない人じゃないけど。
陽織は、キョトンとしている。
あー、黎人さん、知っちゃったんだー。
と、内心は思いつつ。
「じやあ、違くないようにしよう!」
「何を?」
陽織が、しらを切って聞くと、そのまま黎人に睨まれ、そして身ぐるみ剥がされた。怖い!
陽織を抱きながら、話の続きを聞く。
「階段、階段を踊り場から飛び降りたの?」
「え?誰に聞いたの?」
「誰でも良いよね?で?飛び降りたの?踊り場から?」
「んー、行けるかなー?って思って。急いでたし。」
あ、こう言う子だった。
「でも、危ないな、って思わなかった?ハクがいるから?」
「ううん、ハクは、たっくんに付けてたから、置いてった。」
ますます、危ないじゃないか!
「でも、陽織、踊り場くらいなら、平気だよ?」
最近、陽織は2人きりの時は、自分を呼ぶ名称が、名前呼びに変わる。可愛い!でも、
なんで、平気だと思うんだ?
「他は大丈夫だった?」
「うん、そんなに強くなかったから。あ、ドロドロでてきたけと。」
とりあえず、ほっとする。
「でも、帰り道、わからなくて。」
「湊人は?」
「湊人、千織ちゃんと帰っちゃった。」
「神柴さんが、送ってくれた。」
やっぱり、あいつ、一緒にいたんだ!
「ねえ、黙っていたことと、階段飛び降りたことを心配させた、お仕置きって、していい?」
「え?やだー。」
「とりあえず、神嶋に僕が嘘言ったことにしたくないし。やっぱり、ほんとは2人目いました、って。」
「だって、陽織、階段かけあがったり、飛び降りたりしたから、たぶん無理。」
こいつー!もう、ほんと確信犯だ。
「僕が嘘つきになっちゃうなー。」
「もう、寝る。」
ちょ!
陽織は、抱いてる途中で、後ろを向こうとする。
コラコラ!
陽織の肩を引っ張って、元に戻す。
死ぬかと思った。
ブーっと膨れている。
「でも、陽織、別に嘘ついてないもん。黙ってただけだもん。」
「黙ってたのは、悪いことしてるって、わかってたからじゃないの?」
「悪いことしてないよ。ただ、忙しいのに、余計なこと話したくないな、って思っただけだよ?」
「余計なことって?余計な心配ってこと?じゃあ、僕が心配するってわかってたってこと?」
陽織は黙る。
そして、また、後ろを向こうとするから、それはダメと、動かないように抑え込む。身体を捻らないで!お願いだから。
「わたしのプライバシーです。」
んー、最近プライバシー、って言葉で誤魔化そうとするよね。
「わかった。それは認める。」
「じゃあ、その、お仕置きは無しで。」
「いやいやいや、それはそれ。」
「なんで?」
「だって、この体制、そろそろ限界だから。」
!?
「陽織のこと、押しつぶしちゃうよ?」
「重い、です。」
「だよね?ちょっとだけ、付き合って。」
と言って、やることだけやって、陽織を解放してくれた。
「ん、もう!」
「いいじゃない、夫婦なんだから。」
「それ、なんか都合のいい言葉ですよね。」
(あれ?怒ってたのは、こっちなのに。)
まあ、明日は神柴を責めるか、と諦めて、その晩は陽織を解放して寝た。




