陽織、たっくん一歳(子育て編)
登園開始から初めての金曜日。鷹人一歳の誕生日。
クリスマスに続き、またもやプレゼントラッシュで、とうとう隣の部屋も満杯になった。
陽織は、もう使わないベビーベッドやベビーバス、赤ちゃん用の様々な道具を処分するか、どこかにしまっておくかを考えていた。
「またすぐ使うから、そのままでいいよ。」
と言う黎人に軽くジャブを入れる。
「そんなの何年後になるか、わからないじゃないですか!」
と、陽織は寄付やリサイクルも考えていると言うのに。
金曜日は、鷹人をレイリーに預けると、絵梨花に断って、その日はすぐに帰った。ケーキを焼いたり、ご馳走を作ったり。明日は陽織の両親もお祝いに来る。
その日の午後、珍しく神嶋から連絡が入った。
「何かあったんですか?」
挨拶もなしに、いきなり聞くと、相変わらず食えない声が返ってきた。
「ちょっと、陽織さんに協力してほしい案件がありまして。」
黎人を通さずと言うことは、本当に緊急なのか、それともすでに断られたのか。
神嶋の番号は、以前黎人がブロックしていたのに、どうやって解除したのだろう。
「わたしじゃなくちゃ、ダメなんですか?」
と聞くと、すでに美織たちは、同一の他の場所を依頼したとのこと。高嶺はもうすぐ梓沙に二人目が生まれる。しかし、そのことは、黎人には絶対内緒だ。
「実は、昨年明王大学の結界が強固になりまして。」
あー、あれか。
「その関係で、近隣の病院、帝都大附属や、九段坂、神楽大学附属、新日大学附属に、礼成などが一年前から、急激に霊障が増えているんです。」
それは、申し訳ない、と、陽織は心の中で謝る。明王の結界が強固になったのは、陽織が実習の時に、ワラワラと近寄られて泣いたからだ。
「さらに新日や、礼成では自殺者も出ています。ただでさえ、新日は先日不祥事が発覚して、大変なところに、と言うわけです。」
いや、不祥事は自分たちの責任だろう。
「それで、黎人さんに伺ったら、陽織さんはお二人目が、その、おめでたとか。」
「んなわけあるか!」
と、陽織は思わず答える。すると、神嶋が笑いを堪えたように「ですよねー。」と返してきた。しまった!と思った時には、遅かった。
「すでに、新日と礼成は和嶺さんや彩奈さんたちが対応することに、なりました。」
お疲れ様です。
「で、こちらなんですが、神楽大を湊人くんと千織さんが。ただお2人だけでは、結界と攻撃の両方が難しいので、綾人さん。と、あ、綾人さんってご存知ですよね?」
綾人?綾人って、神柴さん?
「はい、どうしても大掛かりなので、黎人さんにお願いしたら、社長はその日、絶対外せない会議があるとのことで。綾人さんが代わりに受けていただけることに。久しぶりなので、楽しみです。」
神嶋が、そう言い終わらないうちに、陽織は「やります!」と答えていた。ただ、ここで大事な他のメンバーを聞いてなかったことを、あとでちょっと、後悔した。
その夜、黎人と陽織、鷹人の3人で、一歳のお誕生日をお祝いした。
陽織お手製のケーキとご馳走。カタコト話すことができるようになった鷹人は、
「マンマー、パッパっ。」
と言って、ケーキを刺したフォークを振り回す。
「オウ、オウ。」
と言いながら、喜ぶ。
「鷹人、一歳だよー。おめでとう。」
「たっくん、おめでとうー。」
と2人がパチパチすると、真似して手を叩く。
「メメ?」
「そう、おめでとう!」
「た、た。」
鷹人は自分のことを、こう言うようになっている。
「たっくん、たっくん。」
と、陽織は鷹人をギュッと抱きしめた。
翌日、蓮也や美咲、高樹と陽香の両親たちを入れ、改めて、誕生日を祝う。
鷹人が一升餅と呼ばれるお餅を背負い、よちよちと歩く。普通は自分の体重の1割にもなるお餅を背負ったら歩けない。しかし、鷹人はしっかり歩いている。黎人並みの霊力と言い、色々すごい!
そして、鷹人は黎人がいなくても、陽織の霊力を回復させることができる。黎人が生まれてすぐ母親の霊力を回復させたように。
鷹人は陽織に抱きつくと、
「た、た。め、め。」
と言った。
「そうだよー。たっくん、一歳、おめでとう。」
そう、鷹人は素手で陽織に触れるだけで、わずかだけど、陽織のチカラを回復することができる。
だから、陽織は今回の、神嶋の依頼を受けた。
黎人には、内緒で。




