↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/276

陽織、就職への夢(子育て編)

8月最後の金曜日。黎人は陽織が作った書類を持って蓮也に最終確認をしてもらう。

ほぼOKだったが、何箇所かミスを見つけられて、戻って直すことにした。


すでにお風呂に入った鷹人は、絵本を読んでもらい。自分の部屋で眠っていた。

黎人は、直す前に気合いを入れたい、と陽織分の補給をする。

そのあとは「やる気が出た。」と、机に向かい、ミスを直していた。ミスというより、再開発が進む場所のため、隣接する建物が変わったことに気づかなかった。


そのあと、夜遅くまで、黎人は最後の書類を仕上げた。


翌朝、9時に悠人と祈梨がやってきた。しかし、昨夜遅かった黎人は珍しく寝ている。


陽織は2人をダイニングに案内すると、黎人がまだ起きてないことを知らせた。テーブルでは、鷹人がご飯を食べている。

それを見た祈梨が、ちょっとだけ顔を顰めた。


一歳前の乳児の食事といえば、よだれやこぼしたもので口の周りはベタベタ、ぐちゃぐちゃに混ぜたご飯、と相場は決まっている。確かに、子ども嫌いの神経質な人が見たら、嫌悪を表しても不思議ではない。


「ごめんなさい。まだ2人が朝ごはん終わってなくて。」

と陽織がテーブルの上を片付ける。


そこに黎人が起きてきて、「おはよう。」と、陽織にキスをした。その後、鷹人のすごい様子を見て、

「鷹人ー、パパとお顔、洗おうか。」

と、抱き上げた。

もちろん、よだれがついた手で黎人の顔を触ってる。

「あ、黎人さん。悠人さんと祈梨さんが。」

陽織に言われて、初めて黎人は2人に気づいた。


「あ、おはよう。悠人、祈梨さん。悠人、後で10月のドイツ出張の話ししたいから。」

と仕事の話をしながらも、鷹人の方を向いて

「鷹人、手をきれいきれいしないと、おじさんとおばさんにイヤイヤされるぞー。」

と、鷹人の手を握って笑ってた。  


    おじさん

    おばさん

間違いではないが、かなりズシンとくる。


黎人の朝ごはんが終わると、黎人は悠人を連れて、3階の仕事部屋に連れて行った。


陽織は、祈梨と2人きりが久しぶりなので、ちょっと緊張していた。

「祈梨先輩は、2階でいいですか?」

と声をかけて、一瞬、先輩と呼んでしまったことに、アッとなった。でもそれが良かったのか、祈梨が

「懐かしー。」

と笑ってくれた。


陽織はベッドの上に、鷹人を座らせて、

「たっくん、ゴロゴロして良いよ。ママは祈梨お姉さんとお話しあるから。」

と声をかける。鷹人は広い2人のベッドの上をゴロゴロするのが、実は好きだ。怪獣の人形も置いてある。

陽織は、小さな2人がけのテーブルをベッドの近くに寄せ、自分の椅子をベットの脇に、祈梨の椅子を反対側にした。


「本当、陽織ちゃん、すっかりママだね。」

祈梨に言われると、なんか恥ずかしい。

「ちゃんとしていて偉いな。本当に母に言われて、わたし、ちょっと反省してます。」

祈梨の言葉に、陽織は顔を上げる。

「どうしてですか?わたしは、就職するって、ちゃんと社会に出て働くってすごく大切だと思います。先輩の方が、すごいです。わたしだって、わたしも、来年、就活しますよ?」

陽織がそう答えると、祈梨は意外そうな顔をした。

「え?だって陽織ちゃん、就活させてもらえるの?」

「わからないです。でも、わたしは仕事したいです。そのために、資格が取れる学科選んだんです。普通の生活、仕事、したいです。」

この時、陽織はその後のことも考えず、ただ自分の気持ちをしっかり確認するように、話す。


「それに、わたし全然ちゃんとママしてないです。昼間は普段、大学行ってるし、それに、鷹人のこと、忘れちゃったこともあったし。」

悠人と祈梨には、誰も話してない。GWにあったこと。誘拐された女子大生。


「あれ、わたしなんです。」

「え?え?悠人くん、そんなこと。」

「悠人さんには、きっと話さなかったんだと、思います。」

あははと、陽織は笑った。

「わたし助けられた後、一時的に、中学生の頃に戻っちゃって、黎人さんのことも、子どものことも、みんな忘れちやって。本当にダメダメなんです!」

祈梨は驚きで声が出なかった。


「わたしに思い出させてくれたのって、美咲お母様です。それだって、変なおばさん、って。怒られましたよー。礼儀がなってないって!だってホントにわたし中学までは、めちゃくちゃ子どもだったから。」


祈梨が初めて陽織に出会ったのは、高校の委員会。本が好きで比較的おとなしい、同じ図書委員になった後輩だった。


その間も、陽織はゴロンとベッドに横になっては、鷹人をくすぐって相手をしている。

鷹人はキャッキャと笑いながら、またベッドの上を右往左往しながらゴロゴロする。

「子どもって、へんですよね。こんななんでもないこと、なんで楽しいんだろ?」

と言う陽織も、楽しそうだ。

時々「マンマ」と言って、やって来ると、また、陽織がゴロンと転がす。


「その、事件のあとは。大丈夫なの?」

「んー、今は黎人さんが絶賛過保護です。それとは別に喧嘩もしたし。浮気することもある、って、言われたし。でも、わたし黎人さんいないと、霊力足りなくて、死んじゃうからー。困ったもんだ。」

陽織は軽く言ってるが、かなり大変なことだったのは、なんとなく想像がついた。


きっと陽織なりに、大変なことを一つ一つ、乗り越えているんだろう。

「黎人くん、浮気はしないと、思うよ?わたし、初めは黎人くんが好きで、告白したけど振られたし。」

それは初耳。

「全然相手してくれなかったー。そのあと2人が大喧嘩しちゃって、半年くらい口聞いてなかった。今は悠人くんで良かったって、思ってるけど。」

「先輩って、実は罪づくりな女、だったんですね。」

「いや、それは陽織ちゃんもでしよ。湊人くんとのこと、聞いたよ。結婚式のあと。」

「あー、あれは結婚初日で、離婚の危機でしたー。」

陽織は遠い目をする。

今も、時々喧嘩してる。

だから、親友だって、言ってるのに!


「わたし、絶対就職します。だから、先輩は堂々と、わたしの先輩になってください。わたしが就活する時も、色々教えて下さい。あ、でも、美咲お母様には、絶対内緒です!」


その後、4人は一階に降りる。


昼は、陽織が用意しておいたパスタソースを使って、普通のトマトソースと、ミートソースのパスタを出した。

鷹人と陽織はツナと小松菜で和風のパスタと、鷹人はうどん。 

「陽織ちゃんは?」

「あ、陽織はひき肉、特に牛豚はダメだから。鶏肉だけだよね。ひき肉は。」

「牛豚って、何か宗教?」

「いや、ダダの好き嫌い。」

「わたし、キリスト教の教会行ってましたよ?」

「だから、うちは神社だから!」


「祝詞も言えるけど、主の祈りもできます!天にまします我らの父よ!って。」

陽織はニッコリ笑った。


陽織は久しぶりに祈梨と話せて良かった、と、その日思った。悠人との関係を知ってから、ただの先輩後輩でなくなってから、なんかギクシャクしたところがあっただけに、少し嬉しかった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。