陽織、特別なお風呂?(子育て編)
6月、事件からまだ1ヶ月ちよっと。
陽織の気持ちはまだ落ち着かないが、それでも少しずつ周りのおかげで、日常を取り戻そうとしている。
そんなある日、美咲が陽織に質問して来た。
「陽織ちゃんて、男の人、苦手なのよね?」
う、痛いところをつかれた。
「え、と、はい。」
陽織は俯いた。
「お父様とかは?」
陽織は顔を挙げると、
「神代のお義父様や、父様は家族ですから。兄様も。」
と答えた。
「悠人は?」
陽織は、目をちょっと泳がせる。
「え、と、黎人さんが、いれば。その、2人きりは、ちょっと、こわい、というか。」
あらあら。
美咲は苦笑いする。
「湊人は?」
?
「湊人は、友だちですよ?親友。」
「でも、男の子よね?」
その質問に、陽織はちょっと悩む。
「んー、確かに。手を引いてくれたり、抱き上げられると、あー、チカラあるなーって思うけど。でも、あ、男の子、すごいなーくらいな?」
?
「でも、男の人、よね?」
「え?ああ、男の人、なんですかねー?」
陽織は苦笑いした。
湊人を男性認定したことは、正直なかったかも。
「でも、やっぱり、湊人は友だちです!」
と笑った。
(やっぱり、湊人は男性認定、してないのね。)
美咲も、苦笑した。
「じゃあ、黎人のことは、最初、どうだったの?」
そう聞かれると、陽織はキョトン、とした。
「?神様?」
「はじめから?」
「あ、え、と。わたし神様の花嫁なりたくない!って思ってたから。」
(なるほど、男性以前の問題があったから。)
「でも、黎人さんは、特別です。その、最初は、やだなーって、思ってたけど。あ、そう言われると、黎人さんも、男性ってあまり、思ったことないかも。なんか、特別?」
「特別?」
「でも、初めて、その、抱かれた時、全然嫌じゃなかったんです。他の人なら、絶対無理!」
「やっぱり、顔?」
美咲が聞く。いやいや、自分の息子を顔って。
「あはは、そりゃカッコいいとは思いますけど、でも二卵性とはいえ、悠人さんだってイケメンですよ!でも、嫌ですから。」
陽織が笑った。祈梨さんには悪いけど。
「なんでだろう。わからないけど、でも、黎人さんは違うんです。怒ると怖いし、時々鬼になるし、でも、ずっとその、ギューッとされていたい、とか?」
と陽織は言って赤くなった。
「あ、ちょうど良い、お風呂みたいな感じです!」
と、最適解を見つけた!とばかりに答えた。
が、その答えは、黎人的にはお気に召さなかったらしい。
美咲からその話を聞かされた黎人は、湊人が気の毒になる。
「そっかー、男性認定されてなかったのか。」
「でも、陽織ちゃん、黎人も違うって言ったわよ?」
「え?」
黎人は複雑な顔をした。
「それじゃ、なんて?」
「んー、神様?」
「はあ。」
まあ、それは当たっているので、否定はできない。
「あー、お風呂って言っていた。」
??
「お風呂?」
「んー、ずっとギュッとされていたいから?お風呂、だって。」
??
「それで、母上は、納得したんですか?」
「よくわかんないわよねー。」
結局、美咲にも理解できなかったらしい。
その晩、黎人は陽織を抱きながら
「ねえ、陽織はお風呂好きなの?」
と聞いてみた。
え?なんで?今?
一瞬、陽織は聞かれた意味がよくわからなかった。が、とりあえず答える。
「ん?好きだよ?カナダって、お風呂ないんだよね。シャワーばっかりで。でも、やっぱりお風呂入りたいよねー。安心するっていうか、気持ち良いっていうか。日本の唯一いいところかなー。」
と、陽織がうっとりしたような顔をする。
その顔を見て、黎人はなるほどと渋々納得した。
「そうなんだー。だから、僕はお風呂なんだ。」
陽織は、黎人のセリフの意味がわからない。
「ん?なんで黎人さんがお風呂なの?」
「陽織が言ったって。」
「え?そんなこと言った?」
「うん、母上に、僕のこと男性って思ったことないって。お風呂みたいって。」
陽織はなぜか不思議そうな顔をしている。
「なんで、お風呂って、思ったんだろー。」
いや、それはこっちが聞きたい!
それからしばらくして、6月末から、黎人は仕事でアメリカに10日ほど出張することになった。神柴も同行する。
その間、陽織は1人でと不安に思っていたが、美咲がたまにはと、実家に戻ることを提案してくれた。
この10日間、陽織は実家から大学へ通う。
はじめは色々な心配をしていた黎人だったけど、大学の送迎を今まで通り笹神に、構内は真凛と菖蒲が付いてるから、と渋々渡航してくれた。
実家での初日、いつものように早く起きてしまった陽織は、仕方ないので、みんなの朝ごはんを作った。鷹人を母に預けるので、幼児食も一緒に作っておく。
和嶺は陽織が記憶を戻してからずっと会ってなかったため、老けた、と言われたことを、いまだに根に持っている。
鷹人にご飯を食べさせている陽織に向かって、和嶺がいきなり
「陽織も、老けたねー。」
と笑って言った。その途端、
「和兄様、まだ、そんなこと根に持ってたの?子どもみたい。」
と返され、逆に落ち込んだ。
陽織は大学へ行く支度をすると、鷹人を陽香に預けて、笹神の車に乗る。同じ大学なのに、歩いて通う和嶺はなんか差がつけられた気がして、余計に腹がたった。
10日後、昼頃羽田に到着した黎人と神柴は、そのまま会社からの迎えの車で本社へ急いだ。
到着後荷物を置くと、すぐ報告をするため会長室へ行く。
「ご苦労様。今日はもう帰宅して、明日の土日はゆっくり休みなさい。」
そう言われて、2人は一度社長室に戻ると、荷物を持ってそれぞれの車で会社を出た。




