陽織、喧嘩をする(子育て編)
黎人が家に戻ると、もう鷹人も、陽織も寝ていた。
と言うか、陽織は布団を頭から被っている。
(なんでこうなった!まあ、陽織を誘拐した犯人が悪いんだけど!でも、どうしたら良いのか、わからない!父上にも、あれ、そうだ!)
黎人は一度戻ってベッドに入ろうとしたのに、なぜかまた出て行った。
陽織は、被ってた布団を避けて起き上がった。
?どこに行ったんだろう?
その夜、黎人はいつになっても帰ってこなかった。
朝起きた時には、ベッドの中にいたので、かなり遅くに帰ってきたのかも、しれない。
昨夜は雨だったのに。
そういえば、昨夜は雷がうるさかったような‥。
朝大学に行くと、陽織に声をかけた学生の処分についての配信が来た。
退学処分だった。
本人は、ただ陽織に声をかけた、だけなのに。
噂では、内定をもらっていた会社からも、取り消しが来たらしい。
そして、衝撃的なニュースはそれだけではなかった。
スマホを見ていたら、東京近郊で時折ニュースでも名を聞く暴力団の事務所に落雷があり、火災に発展しそこの組員が大怪我をしたり、その際に持ち出した帳簿が警察に押収されたりと、壊滅状態という。死人だけは出なかったらしい。
さらに、そこが持っていた倉庫やビル、すべてに同様の落雷事故があり、近所の人たちは、天罰が降った、と言っているらしい。
昼休み、佳織と羽織、日緒理がそのニュースを見て、
「やっぱり、悪いことはするもんじゃないわよね!」
と話していた。
陽織はそのニュースを覗き込んだ時、1つの倉庫に目が行った。そこは、たぶん陽織が先日捉えられていた場所だ!
まさか!
陽織は顔が青くなる。
昨夜の雨。
落雷。
黎人は、いなかった。
陽織は、大学から帰ると、鷹人を迎えに行かず、黎人を待った。鷹人がいたら誤魔化されるかもしれない。だから、少しだけ美咲にお願いして。
夜7時過ぎに黎人が帰ってきた。
「ただいま。あれ?鷹人は?」
黎人が聞くが、陽織は答えない。
「黎人さん。」
「ん?」
「昨夜、どこにいたの?」
「家にいたけど。湊人に呼ばれて、ちょっと話したから、遅くなったけど。」
「うそ。ずっと、帰って、来なかったよね。」
黎人はしばらく、答えに悩む。
「なんで、そう思うの?」
「わたし、待ってた、から。」
え?
「だから?」
黎人の様子が少し変わった。
黎人は普段あまり怒らない。
でも、怒ると怖い。
結婚式の時も、そうだった。
今は、何か、怒って、る?
「なんで、そんなこと気にするの?」
「だって、その、昨夜、雨だったし、その、風邪ひいたら。」
「だから?僕がどこに行ってたか、気になってるの?」
「それは。」
どこ?どこかにいってたの?
「浮気してたとか?」
黎人の言葉に、陽織の肩がはピクンと跳ねた。
「ぼくだって、男だよ?陽織が何もさせてくれないなら、そういうことだってある。だいたい、結婚したらすぐ子どもができて、ずっと我慢させられて!何もないと思ってたの?」
え?
陽織は、目を丸くして黎人を見た。
「知ってるでしょ?僕が、高校時代遊んでたって。」
それは、聞いている。
でも、そんなこともう、ないって。
「だって、アレは黎人さんからじゃないって。」
「今だって、同じって、思わない?」
陽織の頭が真っ白になる。
「僕は、社長だよ。お金もあるし権力もある。いくらでも、声をかけてくる女性はいる。」
な、にを、言ってるの?
「陽織は、自分は汚いっていうけど、僕がそんなに、清廉潔白に見えた?」
それ、は。
陽織は声が出ない。
「奈緒さん。って覚えてる?まえ、大阪に仕事行ったこと、あったよね。陽織が電話出てくれなかった時。あの時会ってた人。ほら、あの後、日本橋で、陽織に紹介した。」
陽織は綺麗な年上の女性を思い出す。
「あの人だよ。僕の初めての人。」
陽織は、息が止まりそうになった。
知らなかった。悠人は変な顔してた。
彩奈も、嫌そうな顔して。
なんで、気づかなかったんだろう。
「陽織が何も気づかないから、まあ良いかなって。」
「みんな、知ってた、の?」
陽織がやっと、声を出す。
「ん?まあ、和嶺くらいじゃないかな、知らなかったの。」
「なんで?」
「ん?」
「だって、あのとき、お姉さんみたいなって。」
「それ言ったの、陽織の方だよね?僕は一言も言ってない。それとも元カノです、っていえば良かった?」
陽織は、知らないうちに体が震えていた。
「黎人さんは、大人で、わたしは。」
「うん、そうだよね。まだ子どもだったし。」
陽織は知らないうちに涙が溢れている。
「でも、陽織だって、いつも湊人と何やってんの?前も、僕の部屋で2人で何してたの?お腹に、僕の子がいたんだよね?」
陽織は、あ、と思い出す。
「でも、アレは!」
「昨日だって、湊人と一緒だったんでしょ?いつだって、陽織は、湊人のことばかり!そんなに、僕より湊人の方がいいの?」
「違う!」
「とこが?」
黎人がどんどん陽織を追い詰める。
「僕に言えないことも、湊人には話してるよね?」
「そんなこと、ない!」
「なんで、傷物なの?陽織のこと、全然汚くないって、何回言っても、全然、聞いてくれないじゃないか!」
黎人が怒鳴って、陽織を壁に追い詰めていた。
「それをなんで、湊人なんだ!」
「ごめん、なさい。」
「勝手に、いつまでも、僕をきれいな王子様みたいに決めつけるな!」
その時、バァーン、という音がして、裏のドアが開いた。
「何、喧嘩してるの!いつまで経っても、鷹人を迎えに来ないで!」
美咲が泣く鷹人を抱いて、立っていた。
黎人はそのまま、元の自分の部屋へ行った。
陽織は、鷹人を抱いて、
「お風呂、入れなくちゃ。」と立ち上がった。
美咲が手伝って、鷹人をお風呂に入れると、授乳をして、絵本を読んで、寝かせた。
黎人は帰ってこなかった。
「なんで、陽織に本当のこと、言わなかったんだよ。」
母屋の2階に上がると、湊人がいた。
やられた!
たぶん、美咲がのぞいていたんだ!
「お前に、関係ないだろ!」
湊人の手を振り払う。
「関係あるよ!勝手に名前バンバン出されてんだから!」
「うるさいなー!お前が入ると、余計ややこしくなるんだよ!」
「ややこしくしてんの、黎兄じゃないか!」
湊人が黎人の胸ぐらを掴んだ!
「それに、陽織は大事な親友だ!親友なら、話を聞くのは普通じゃないか!」
「何が親友だ!お前、自分のスマホの画像、千織ちゃんに全部見せられるか?陽織と2人で写ってるの、一体何枚あるんだ!」
「はあ?ヤキモチ妬いてんのか?陽織は、俺と話すこと、勉強以外は全部黎兄のことばっか!いつだって、陽織の頭ん中、黎兄のことだけなのに、何言ってんだよ!ばっかじゃん!」
そこに美咲が帰ってきた。
「ちょっと、黎人!さっきから、何回喧嘩してるの!いい加減にしなさい!それより、お父さんが呼んでるわよ!」
黎人は、父の書斎に入った。
父は、机の上で仕事をしていた。おそらく今回の後始末だろう。
「黎人、確かに徹底的にだが、少し、派手すぎだぞ。まあ、よくやった。」
黎人は、はいと返事だけをして、部屋を出た。
翌朝、仕事のための着替えをとりに行くと、ベッドに陽織の姿がなかった。鷹人は、まだ部屋でスヤスヤ寝ている。
リビングに行くと、そこに陽織が倒れていた。
寝てる?
いや、違う!
慌てて、黎人は陽織の頬を叩く。
反応がない!
身体が冷たい?
脈が触れない?
息は、してる?
『もし、わたしの霊力がなくなったままなら。』
(もう、どうしてこんなことばっかり!)
どうしていつも陽織なんだ!
息を吹き込むように、口を開ける。
呼吸は、わずかだけどある。
「陽織!」
呼びかけるが、答えない。
黎人は母屋の湊人に式を放った。
「なに?」
湊人と美咲が一緒に来た。
「湊人!陽織の心音、確認してくれ!」
「はあ?」
湊人が、心臓に耳を寄せる。
「な?なんで?昨日、喧嘩してたじゃん!」
再度、息を吹き込む。
「救急車!」
美咲が叫ぶが、黎人は息と一緒に霊力を吹き込みながら、神鬼に連絡をするように伝えた。
しばらくすると、陽織の呼吸が聞こえるようになる。
「いつから霊力が枯れてたんだ。」
そこに、蓮也が立っていた。
「たぶん、あの事件の直後から。」
と美咲が答えた。
「10日以上か。通常は3日から5日と言われてるが。」
「確か、悪阻の時は一週間くらいだった?」
両親が深刻な顔で話していた。
神鬼から着信がある。
「すみません。父上、神柴に連絡してください。これから、家に結界を張ります。鷹人のことを、お願いします。」
黎人はそういうと、陽織を抱き上げて2階へと上がって行った。
『陽織さんを助けられるのは、あなただけですよ。黎人さん。』
意識のない陽織を抱くのは、嫌だった。まるで強姦しているようだから。ちゃんと、2人で目を合わせて、しっかりと気持ちも一緒に受け止めたかった。
『今は、そんなこと言ってる場合じゃない。』
神鬼に怒られた。
『自分では死なないんです。』
どこかで、その言葉を信じてた。
でも、こうやって命を消していくことができるんだ。
「陽織!陽織!」
何度も声をかけながら、陽織をだきしめる。キスをする。前は当たり前にやってたこと。
どうしてこうなったんだ!
何度も陽織を抱きしめて、キスをして。
(疲れた。考えてみたら、前の晩に全開で雷落としてた。回復、して、なかった。)




