陽織、拗れる(子育て編)
チャイムが鳴ったが、これは母屋の方なので、基本陽織はでなくていい。
しかし、その5分後くらいに、黎人が2人の黒スーツの女性を連れて入ってきた。
2人ともすらっとしていてパンツスーツが似合っている。
「あ、良かった。みんなにもちゃんと顔覚えてもらおうと思って。」
黎人はそう言って、陽織の前に2人を連れてきた。
「明日から大学内の陽織のボディガードをする人です。神柴さんと、白神さん。」
え?ボディガード?
「僕のお守りは、基本霊的な敵に効果があるけど、物理的には万全じゃないことがわかったので。」
陽織はとりあえず立ち上がって頭を下げた。
「神代陽織です。よろしくお願いします。?」
すると、
「神柴真凛です。神柴綾人の従妹です。まあ、兄みたいなものですね。綾兄がお世話になっています。」
と、絵梨花と同じ歳くらいの女性が頭を下げた。
「白神菖蒲です。今年大学を卒業したばかりの新人ですが、社長に呼んでいただき光栄です。」
と、ボブカットの女性が頭を下げる。
「2人には明日から、大学内の陽織のボディガードをしてもらうから。大学にも許可とってあるので、大丈夫だからね。」
と、黎人が笑った。
大丈夫って、何が大丈夫?
「え?すごい、ボディガード!カッコいいです。」
千織が叫ぶ。
「陽織のってことは、わたしが一番、近くなるよね!陽織と同じ管理栄養選考の、神澤羽織です!」
と、羽織も立ち上がって、挨拶をしている。
「さすが、黎人様。」
美織一人、遠い目をしていた。
そのあと、陽織は2人の前にもお茶を用意して、ダイニングに座ってもらった。
ケーキはみんな食べ終わって、もうない。
鷹人が1人、プリンを食べていた。
「え?お茶なんて、よろしいなですか?」
2人は恐縮しながら、椅子に座ってくれた。
「え、と、たぶん、みんな色々聞きたいようなので。」
陽織が興味津々という顔の、千織と羽織の心の要望に応える。
黎人は、女性の席は遠慮します、と2階に上がって行った。
一応黎人から契約の時点で聞いたことと、齟齬がないか、真凛が確認したいと、手帳を出した。
う、大人だ!カッコいい!
「まずは陽織様が大学へ行くスケジュールの確認をさせてください。」
陽織は、自分の手帳を取り出して、羽織と一緒に間違いがないよう、説明をする。
「なんで、ハオちゃんの方が詳しいのよ!」
「だって、陽織、1人だと平気でダブルブッキングするんだもん。」
そのあと、2人は神代の警備会社の社員で、それぞれ武道の有段者だと分かった。それを聞いた羽織が
「わたしも、合気道2段です!わたしもボディガード、なれますか?アルバイトしてみたいです。」
と言い出す。
「それにしても、神柴さんの従妹さんだなんて。」
陽織が安心して言うと、
「綾人さんはわたしより強いですよ!だからずっと社長の秘書ができるんです。」
と答えてくれた。
「綾人さん、強いですよね!わたしも、ずっと剣道一緒にやってましたけど、手を抜いてもらっても、勝ったことありません!」
と菖蒲も話に乗ってきた。
「剣道。すごいです。」
そんな感じで、2人は30分ほどお話をして、それでは明日から、と帰って行った。
3人も、陽織が夕飯を作る前にと、帰って行った。
「たっくん、みんな帰っちゃったねー。ママご飯作るから、ちょっとねんねしてくれるかなー。」
陽織はそう言って鷹人に授乳して寝かせると、キッチンに立った。
夕飯のあと、鷹人と黎人がお風呂に入り、いよいよ明日からまた大学生活だ。
美咲は、陽織が中学生の時に出会ってなくて良かったと思った。
(あんな、礼儀もなってない子だったら、わたし絶対花嫁認めてなかったわ!)
しかし、よくよく考えると、例の、黎人浮気事件で陽織が拗ねていた時は、まさに、あの姿だったことを思い出す。
泣いて、バタバタして。あ、アレかー!
夜、美咲は陽香に電話をしていた。陽織がまだ、黎人に怯えていること。1人だと食事をしても、戻してしまうこと。陽香は娘が心配だけど、そばにいられない。
「もし、黎人さんが大変なら、しばらく陽織と鷹人をウチで預かるけど。」
そう陽香は言ったけど、美咲にピシャリと、断られた。
「そんなんだから、温室育ちの子になるのよ!知ってた?鷹人の性格、陽織ちゃんそっくりよ!気に入らないことがあると、泣いて、手足バタバタさせて。」
そう言われて、陽香は青くなる。
「あの子、お嫁に言った先でも、そんなことしてるの?」
陽織は朝、黎人を送り出すと、鷹人を美咲に預けて大学へ行く。
最近は、行きも帰りも、笹神のことが多い。
その日、陽織は一番最後の講義があり、少し遅くなっていた。正門に急ぐと、ちょうど湊人も帰るところだ。
どうせなら、と、陽織は湊人に声をかけて、2人で笹神の車に乗った。湊人は、助手席で、陽織1人が後ろ。
陽織は窓の外を見ながら、ふと話をする。こんな風に2人きりは久しぶりだ。
「ねえ、湊人。花嫁が神様の相手をするのは責務って、知ってた?」
「相手?」
「うん。子どもたくさん作るんだって。」
あー。
「わたしは、黎人さんの相手をするのが責務なんだって。」
「誰がそんなこと?」
「んー。お母様。でも、もう、無理かも。」
しばらく陽織は黙っていた。
湊人も、なんと声をかけていいかわからない。
「わたしね、霊力無くなると、たぶん、死んじゃうんだ。だから、このまま、なるべく早く、いなくなって。わたしが死んじゃうと、新しい花嫁が生まれるから。」
湊人は、思わず後ろを振り返りそうになったが、バックミラーの陽織の姿を見てやめた。
(こんな陽織のこと、黎兄は知ってんのか??)
「わたし、傷物だし、新しい花嫁の方が、きっと、黎人さん、いいよね。」
その晩、黎人が帰宅して、夕飯を食べていると、湊人がやってきた。
「黎兄、ちょっと、後で良い?」
何か怒ってる。
黎人と陽織は顔を見合わせる。
黎人は鷹人のお風呂が終わると、母屋に行った。
湊人はリビングで待っていた。
「お前、勉強忙しいんじゃないのか?」
黎人は、湊人を睨みつける。
それを見て、湊人も黎人に怒りをぶつけた。
「黎兄は、陽織の話、ちゃんと聞いてんのか!?」
「何を突然!」
「陽織が、いなくなったら、新しい花嫁生まれるって、どう言うことだ!」
「また、その話。」
「またって。知ってたの?」
2人の怒鳴り声が、美咲のところに聞こえてきた。
「だいたい、花嫁の責務ってなんだよ!黎兄は、そんなんで、陽織のこと!陽織、自分は傷物だって言ってんだそ!」
「それも、何回も違うって言ったよ!言ったけど、全然聞いてくれないんだ!」
「だって、陽織、もう、無理かもって。」
湊人の声が震えた。
黎人は、頭を抱えて座り込んだ。
「あーもう!なんで、いつも肝心なことは、湊人なんだ!なんで、俺じゃないんだ!」
そこに慌てて美咲が入ってきた。
「ごめんなさい。わたしが陽織ちゃんに、余計なこと言ったから。」
「そういえば、母上が、陽織に責務って言ったんだよね。」
湊人が睨む。
「陽織、変に真面目なところあるから、たぶんその言葉で、余計に拗らせたのかもしれない。でも、また湊人に話すなんて。」
黎人は、膝を抱えて動かず、大きなため息を吐く。
すると、突然立ち上がり
「なんで、湊人なんだ!湊人、湊人、湊人!夫は俺なのに!」
と、大声で叫んだ。
「なんか、黎兄も拗らせてた。」




