陽織、報道再び(子育て編)
神代グループ100周年パーティーの様子はメディアでも取り上げられていた。
それが過去の出来事からつながる、大事件になるとは。誰も、予測しなかった。
天神の影響で、さまざまな報道番組に取り上げられたが、その大半はパーティー全体の流れや、会長、社長の挨拶などで締め括られていた。
しかし一社だけ、陽織や鷹人の姿を含め黎人の私生活にふれたものがあり、その番組には、以前陽織をパパラッチした新聞関係者がいた。
報道が始まった後、陽織の姿が映し出されると、ほとんどのコメンテーターはただ、綺麗な奥様ですね、と言った、ありきたりなコメントだった。しかし、その中の1人今度というコメンテーターが、陽織の過去に触れ始めた。
スケーターだったこと。
以前、まだ高校生だった陽織と黎人の交際が報道された過去。
その途端、スタジオの空気は固まった。
その話は、今や報道の現場では禁句とされていたから。
当時、その記事は神代蓮也の手によって握りつぶされた。ありとあらゆるメディアだけでなく、個人が発信するSNSからも、陽織の名と写真は消された。
さらに、最初の記事そのものが、偽造、偽報道、と揶揄され関わったカメラマンや記者は仕事先を追われた。実際に、報道された写真は加工してあり、事実とは異なるものだったことは確かだ。
しかし、追われた方からすれば、2人が夫婦になっている姿は、アレは完全なフェイクではなかった、と言いたくなるのもわかる。
番組収録後、むかし近藤に恩がある番組のプロデューサーが声をかけて来た。
「近藤さん、あなたには恩があるから今回使ってあげましたが、次はありません。この世界で、神代を敵に回すことがどう言うことか。」
近藤ははじめは顔を青くしていたが、プロデューサーが部屋を出ると、その悔しさを隠しきれず拳を壁に叩きつけた。
「くっそ、あの女!」
テレビに陽織の姿が出たことを知ると、黎人たちは陽織をなるべく外に出さないようにしていた。
ちょうど大学の春休みでもあったため、陽織は大人しく、毎日子育てに勤しんでいた。
鷹人も6ヶ月を過ぎて、お座りをしたり、ハイハイをしたり、と、陽織も毎日家にいても、退屈はしなかった。むしろ、離乳食が始まり忙しいくらいだ。
年度末で忙しい黎人にとって、陽織が家にいてくれることは、一番ホッとすることだ。
神代の屋敷は徹底した警備システムが組み込まれている。対霊の結界は、明王大や附属校以上だ。
外出は最低限。しかも、常に黎人が一緒か、運転手と美咲がいる。
しかしその数週間が過ぎれば、陽織は大学に復学する。
(本当は大学を完全に通信にして、家に閉じ込めたいのだけど。)
それが黎人の本音だった。
そして4月。陽織は単位が不足しながらも、なんとか2年生に進級した。
1年生の後期にほとんど単位が取れてない陽織は、今年度は、どうしても休むという選択ができない。なんとしても、単位を取りまくって、羽織たちに追いつきたい。
そう考えて講義と、実験実習をいれると、ほぼ毎日、休みなしになる。それを美咲に話し、どうしてもの時は、陽香にも協力してもらうことにした。
朝7時、鷹人を美咲に預ける。7時半、黎人の車で一緒に大学へ行く。夕方5時、笹神が迎えに来て、陽織は帰宅。
講義の半分ほどは、羽織たちと一緒だが、1人のものも多かった。
後期にしか取れないものもあるので、それを考えて、どちらでも取れるものは、できるだけ前期に入れた。
英語など、TOEICなどの成績が良いと、履修しなくても単位をもらえるものがある。陽織は英語全てをTOEICの結果で。選択体育の単位を、スケートの実績で免除してもらった。
とにかく毎日が、まるで高校3年の時のような忙しさだ。美咲に用事がある時は、大学へ行く途中で実家により陽香にお願いした。
どちらに預ける時も、離乳食と母乳を搾乳したものを冷凍した状態で、持っていく。鷹人は陽織の味ではない粉ミルクは、時折ぺっと吐き出して飲まないこともあった。しかし、冷凍したものはどうなんだろう。
そんなある金曜日の夕方。知人がいない講義の後、正門に向かう陽織を、なんとなくつけているような影が見えた。陽織は急ぎ足で正門に向かい、わざと大きな声で、羽織とスマホで話しをさせてもらった。
そして、それは翌週も、あった。
陽織は帰宅すると、その話を羽織に電話した。黎人には知られたくない。もし言ったら、大学を休むか辞めるか、どちらにしても、陽織の思惑ではない結論を出されることは必須だ。
とはいえ、知った以上、羽織も黙ってはいられなかった。羽織は湊人を通して、陽織には知られないよう、黎人にさりげなく知らせていた。
陽織に、ストーカーがいるようだ、と。
しかし、陽織のその判断が間違っていたことを、その数週間後、身をもって知ることになる。




