陽織、助けられる
黎人と悠人が内と外で手を合わせている。
神林の祝詞で少しずつモヤの色が薄くなっていく。
大神は周囲を伺いながら不測の事態に備えている。
生徒4人は、その様子を見守っていた。
黎人のおかげで、みんな楽になってきた。
それでも暑さと疲れで、熱中症に近い状態になっている。特に、霊の影響を受けた後、大量の氷柱を作った陽織の消耗が激しい。
「黎兄、手伝う。」
湊人が言うと、
「いや、その子たちを見ていて。」
と返された。
湊人は黎人から陽織を受け取り、ずっと支えている。美織の顔色もまだ良くない。
美織はどこからか聞こえる祝詞の声に合わせて、ふらふらと立ち上がった。
「もしかしたら、先生が来たのかも!」
翔太が聴き慣れた声に、少し安堵の表情を浮かべた。
「翔太、くん。手伝って。」
美織に言われ翔太も立ち上がった。
陰陽師の卵の翔太と、巫女の力を持つ美織の二人も、外の祝詞に合わせて、周囲を浄化する力を込め始めた。
時計の針は3時を回った。
と、その途端、白い閃光が結界いっぱいに広がり、湊人たちは腕や出で、目の前を遮った!
人々の声。明るい光。
「たす、かった?」
宏輝が呟いた。
そのまま、美織が倒れた。
「ミオっ!」
羽織が叫ぶ。
陽織は白い光の中を歩いていた。
(わたし、死んじゃったんだ。)
そんな気がする。
(神様の花嫁なんて、絶対やだって、思ってたのに。)
涙が溢れた。
いつもより泣き虫になってる。
ごめんね、ママ、父様。
結界いらないなんて、言って。
白い光の先に手を伸ばすと、誰かが呼んでいる。
「神、様?」
「はい!」
突然聞こえた返事に、陽織は覚醒する。
目の前には、知らない、でも見たことのあるような青年が立っている。
やっぱり死んじゃったんだ!
そう思って陽織はワンワンと泣き出してしまった。
黎人は目の前の陽織が、あまりにも泣くので、どうしたら良いか分からず、ウロウロする。
慰めようとして差し出した手が宙を舞う?
「えっと、あの、陽織さん?ですよね?はじめまして。」
落ち着いた声で言われたら、涙がぴたっととまった。
「?」
「神代黎人と言います。」
「はい?」
「たぶん、あなたは、僕の花嫁、ですよね?」
あの後、5人は神明神社の隣にある、明王大学病院に運ばれた。まずは熱中症の検査と治療。他にも怪我や穢れ、精神的なケアなど、今夜は病院で過ごすように言われた。
明王大学は附属にSクラスのような子どもを抱える教育施設なので、病院にも専門の治療科が存在する。
そして陽織の父が勤めているのも、この病院だった。
湊人、宏輝、翔太は3人部屋に、美織と陽織は、それぞれ個室に入れられた。
湊人たちの部屋にまず来たのは悠人だった。
「あれ?悠兄、黎兄は?」
湊人の第一声がそれだったので、悠人は少しガッカリした。が、弟ももう一人の兄弟を心配しているのだろう。
「黎人は大丈夫だよ。すぐに陽織さんのところへ行った。」
翔太たちは黎人が陽織のところへ行く理由がわからなかったが、湊人はなんとなく、気づいていた。
「やっぱり、そうだったんだ。」
湊人が言うと、悠人はどうして?と言う顔で見返す。
「気づいていたの?」
「えっ?あっ?まあ、なんとなく。」
「知ってたなら、早く教えてあげれば良かったのに。」
悠人が小さくためいきをついた。
「いや、だってまちがってたら、悪いし。それにあいつ、能力いらないって。それに、あいつ馬鹿だし。」
ひどい言われようだ、と悠人は軽く湊人を睨んだ。
陽織は、生きていることは理解したが、目の前の人のことは、全く理解できなかった。
すると、黎人と名乗った人はいきなり、シャツのボタンをはずし出した。
「ちょっ、なに、してるんで、すか?!」
陽織が慌てて止めようとしたが、彼の胸元に見えたのは、陽織と同じ桜の花と、そこに寄り添うような龍の痣。この人が、神龍の生まれ変わり‥。
「わかっていただけましたか?」
黎人はニッコリ笑ってはずしたボタンをまた止めた。
陽織はなにも言わない。
何も話さない。
頭の中で、京都の隆弥が言っていた言葉を思い出す。
「会わなければ。会わなければ、会わな‥。どうしよう!会ってしまった!」
愕然とした陽織は、すぐに布団の中に頭を入れた。
「だっ誰ですか?あなたは?一体何を言って、らっしゃるのです?か?」
陽織は頭の中で何度も何度も、
会ってない会ってない会ってない!
と繰り返す。
やっと助かったのに?やっと助かったのに!
「わたしまた死んじゃう!」
陽織はそう言って枕に顔を埋めて、また泣き出した。
「どうしたんですか?陽織さん。やっと会えたのに。」
「ひっ、人違いっです!」
これではラチがあかない、と黎人が思った時、ノックもなしにガラッと扉が開いた。
「陽織っ!」
入って来たのは陽織の兄、和嶺と高嶺、そして大神だった。
「アレ?黎人、何してるの?」
高嶺たちは、黎人が陽織たちを助けたことを聞いていたので、お見舞い程度にしかみていなかった。
「あ、また来ますね。」
黎人は苦笑いすると、部屋を出て行った。
「さて、陽織さん。体調はどうかな?」
大神が、少しだけ怒気を含んだ声で話しかけて来た。
陽織は布団から顔を出して、疑問を浮かべた顔で大神を見返す。
「?えっと、固まって歩いてしまって、ごめんなさい?」
疑問を浮かべながら謝罪をすると、大神は首を横に振る。
「いや、それは君たちに非がないことはわかったから。それよりも。」
こう言って、大神はカバンの中から、一枚のコピーした解答用紙を取り出した。
古文、神月陽織、46点。
「えっ?わたし46点も取れたんですか?」
陽織は心なしか嬉しそうだ。
その笑顔を見た大神が、クルッと和嶺の方に振り向く。
「和嶺くん。生徒会長として、妹さんの赤点補修と追試の勉強を頼むよー!」
そう言って、和嶺の肩をポンと叩いた。
「え?陽織、古文なんかで赤点補修なの?」
高嶺が言う。
「なんかって言うな!なんかって!そのなんかで、オタクの妹さんは、赤点追試、補修です!」
大神の声が部屋中に響いた。
「赤点?って何?わたし、40点も取ったんだよ?」
陽織は若干涙目だ。
「陽織ー。ウチの学校はね、50点以下は赤点なんだよー。」




