陽織、黎人と出会う
助けて!
声がする方に黎人と悠人は走った。
5人が消えた橋の上には大神たちの姿がある。
平日とはいえ、5月の昼下がり、駅横の橋の上は大勢の人が行き交う。
黒いモヤの前で、3人の教師と4人の高校生が立ちすくむ。通行人は、邪魔だと言わんばかりにわざとぶつかる人もいれば、何事か、と睨む人もいる。
事件か?と橋の上から下を覗き込んでいる野次馬もいる。
氷が完全に溶けると、湊人、宏輝、美織の3人にも限界が来た。
氷の柱を押し除けるように、炎に包まれた腕や脚が5人に伸びてくる。
腕は半分焼けこげて、ドロドロに溶けていた。このままでは、赤黒い腕に捕まれてしまう。
炎が身体にうつる!
(ヤダヤダヤダ、来ないで!)
(このまま、わたし死んじゃう?)
(ごめん、無力だ。)
(お腹、空いた。)
(熱、い。)
それぞれが遠のく意識の中で、ぼーっとする頭が何かを考えていた。
黎人と悠人は、野次馬を避けるために結界を張った。先生たちはモヤの中に入る方法で、そこまで頭が回っていないのか?
「助け、て。」
声が聞こえた!
黎人の身体が白く光る。
「黎人っ!」
悠人がダメだ、と言わんばかりに腕を取ろうとしたが遅かった。
黎人の身体が吸い込まれるようにモヤの中に入って行く。
「悠人っ!」
大神の声がした。あちらも2人のことに気づいたようだ。
「黎人が中に!」
悠人が叫ぶと、大神がうなづいた。そして一言「できるか?」
と問う。悠人は「やってみます。」と、大きくうなづいた。
気がつくと誰かが陽織を抱き上げていた。ひんやりとした腕が気持ち良い。焼けたような腕の痛みがなくなっている?
その人は、陽織の呼吸が落ち着くと隣の美織の頭の上に手をかざす。次は湊人、宏輝、翔太。
5人はうっすらと目を開けた。
(コレってよく言う回復魔法?)
陽織は好きな小説のシーンを思い出していた。
「良かった。間に合って。」
青年が言うと、湊人がガバッと起き上がった。
「黎兄っ!」
「黎人さん!」
湊人と宏輝が叫んだ。
黎人はぼんやりしている陽織を抱きしめたまま、
「気がついた?」
と問う。
陽織は黎人の顔を見て、どこかで会った?と。
「湊人、状況、話せる?」
湊人は小さくうなづくと、コレまでわかったことを話した。周りには小さく結界が張られて、外から腕を伸ばす炎を遮っていた。
それでも外側はまだ大量の炎と焼けた腕や脚が見える。陽織はその姿を見た途端に、顔が引き攣る。
「黎人、黎人聞こえる?」
大神たちの前で、悠人が叫ぶ。
「あ、聞こえたみたい。みんな無事?」
知らない人が見たら、悠人がインカムか何かで誰かと話をしているように見える。でも、コレは双子ならではの力だと、羽織たちは知っている。
同じ双子の術士として、有名な神代兄弟。羽織と葉鳥の憧れでもあった。
2人は彼らから何か学べるものがあるのではないか、と真剣に悠人の様子を見ていた。
「うん、うん、わかった。」
悠人は中の状況を黎人から確認すると、大神たちに伝えた。大人3人はなるほど、と納得しながら話合っている。
「とりあえず、君たちは下がってね。」
神林に言われ、4人は少し後ろに下がった。
「まずは、ここにとらわれちゃったモノを祓わないと。急だから、あとでちゃんとやってあげよう。」
そう言って神林が祝詞を始める。
祝詞に合わせて悠人がモヤに向けて手をかざす。
山神は、生徒4人を守るようにさらに薄い結界を張り背を向けている。




