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陽織、たっくん笑う(子育て編)

土曜日、栄養教育論、社会環境と健康、そしてうっかり取ってしまった一般教養の民法学。

その三科目の講義を聞いて、陽織はレポートを打っていた。


とりあえず、一番簡単そうな民法学から、と取り組んだのが間違いの元だった。そう、なぜ、法律なんて!社会科学の中から2つ選べと言われ、歴史や心理学なんて論外の陽織には、法律や政治経済を選ぶしかない。経済学をとっても良かったが、どうしても時間が合わなかった。


と、言うことで、授乳した後、黎人が鷹人の面倒を見てくれると言うので、陽織は講義を見ながら、レポートをカタカタと打っていた。

すると、いつのまにか、黎人が後ろに立っていて

「陽織、そこちゃんと教授の話、聞いてた?」

と声をかけてきた。

ん?

「黎人さん、ながら作業はダメなんだよ!たっくん抱いてるんだから、子育て集中!」

と、言い返した。

すると、黎人は鷹人をベッドに寝かせて、また戻ってきた。

「だから、そこは違うでしょ!法律って、同じ条文の中でも、何項かちゃんと理解しないと!」

と、うるさい。伊達に法学部を飛び級して司法試験までは受かっていない。

   民法学なんて、取るんじゃなかった!


「黎人さんわたし先に、栄養教育論やるね!」

と言って、パソコンの画面を変えた。

しかし、教育論にも精通していた。


「陽織、あちこちやらないで、ちゃんと1つ終わらせてから、次に取り組まないと、逆に混乱するから、時間の無駄になる。」

いつのまにか、家庭教師口調になってる。

   う、土曜日まで残さなければ良かった!

しかも、あまり間違うと、お仕置きされる!


昼に美咲がご飯をもってきた時には、陽織はすっかり疲れて果てていた。


その後も、陽織の役割は授乳だけで、それ以外は黎人がやってくれるが、その間に口出しをして来る。

レポート、手伝ってあげる、なんて、すっごく良い夫、って思えるが実際には鬼だ!


夕飯を親子3人母屋でいただいていると、湊人に

「陽織、それ前にやって、一度懲りてたじゃん。」

と笑われた。


その後、

「そういえば、千織と美織がなんか相談したいことがあるから、来て良いか?って聞いてきたけど、連絡してもらって良い?」

と、湊人から言われた。

なんで湊人経由?と思ったら、2人とも陽織の時間のタイミングがわからなくて、連絡しづらいと言うことだった。


その晩、2人のお風呂と2つ目のレポートを仕上げ、千織にチャットした。

すると、千織と美織から、11月の大学の学祭休みに来る、と言う連絡があった。


   大学祭‥、どんなだろう。


2人が黎人の家に来た11月の初め、鷹人は二ヶ月に入り、笑うようになった。

今までは、抱っこやお風呂のあと、気持ちよさそう、と言うのはわかったが、笑う、と言う表情が始まると、途端に可愛さが増す。


「たっくん、オテテ、キレイキレイ!」

と陽織が言いながら、授乳の前に手を拭いてあげると、気持ちいいのか、ニコニコする。それが可愛くて、陽織もたくさん話しかける。


それを見た千織たちも、可愛い!と色々話しかけたり、あやしたりする。

キャッキャと笑うので、また2人は写真をメチャメチャ撮っていた。

「え?と、何しに来たの?」

いつまで経っても話を始めない2人に、陽織が疑問を投げかけた。


「あのね、陽織ちゃん!わたし、わかんなくなっちゃって!」

突然美織が言う。

何を?

「ねえ、巫女って何?」

美織の質問に陽織は理解が追いつかない。

何と聞かれても、なに?

最近、2人は以前以上に、依頼をこなしている。

先日は二組で、群馬の山の方まで行き、廃村にある墓地の浄霊に行った。


その前は行方不明者が続出すると言う、トンネル。

そしてその前は。

と言う感じで、夏休み中の二ヶ月間、ほぼ土日になると、和嶺か湊人の運転で行っていたらしい。


「お疲れ様でした。」

と陽織は労った。が、2人には

「お疲れ様じゃない!」

と怒られる。


「わたしたち、陽織ちゃんほどチカラないし、黎人さん来ないから、青龍も銀龍も、ベストでチカラ出せないしで。」

「本当、毎回ボロボロだったよね!」

2人は愚痴を言いに来たのかな?


その間も、陽織は鷹人のことを見なければならないので、オムツを変えたり、授乳したり。


「陽織ちゃん、その、いつ、戻れる?」

‥‥…?

「その、戻ってきて、欲しいの。2人で。」


はあ?

陽織は、いやいやいや、無理でしょ!と

思わず心の中で叫ぶ!


陽織だって鷹人にゴッソリ持っていかれるので、毎日ギリギリなのに!何言ってんの?この人たち。

それに、黎人は現在、依頼主になっても、痛くも痒くもないくらい、お金持ちだ。

年収10億と聞いて、もう、空いた口が塞がらなかった。

10月のペナルティも、ボーナス半減も、普通のサラリーマンが聞いたら、何それ?だ。

わざわざ神嶋の仕事を受ける必要なんて、今は全くない。その妻になってしまった陽織も、そんなことをわざわざする必要性を感じない。


「たぶん、もう、黎人さんは、その、やらないと思う。よほどの理由がないと。例えば、わたしが巻き込まれる、とかなければ。」

と、陽織は答えた。

その時の2人は、やっぱりと言う顔だが、あまり元気ではない。


「ただ、そっかー、小龍いないと、青龍も銀龍も違うんだー。知らなかった。」

陽織は、んー、と唸る。でも、父のような鬼や大神のような狼の場合は?もともと、小龍のような存在がない使役獣はどうしているのだろう。

やはり、弱いのだろうか?そうは、見えないけど。

「とりあえず、その話は黎人さんに相談してみる。」

と、陽織は答えた。


さらに、美織は真剣な顔で

「でね、その。霊力の回復のことなのだけど。」

と話を続けた。

「陽織ちゃんのご両親や、黎人さんのご両親って、その、お母様の方が、学生結婚って知ってた?」


ん?話のつながりがよくわからない。


確かに、父同士は友人で、母同士は親友だったと聞いている。たぶん同級生だけど、どちらも父と母は5歳くらい歳が離れていた。

確か、父が研修医の時に結婚したと聞いたことがある。陽織は、指で数えてみる。

「あ、確かに。ママは20歳の時結婚したの、かな?あれ?えっ?」

陽織は数えてから、ちょっと赤くなった。

(やだ、父様たちって、できちゃった婚?)


「ほら、高嶺様もだけど、どうしてもわたしたちは、チカラの共有をするために、その、必要でしょ?だから、やっぱり、できやすいらしいの。」


高嶺は陽織たちが結婚してすぐ、梓沙の卒業を待って結婚している。しかし高嶺自身はまだ学生だ。梓沙の父が、孫の1人を天神の跡取りに欲しくて、急がせていると聞いている。

1人目は12月に生まれる。


しかし、聞いてる陽織の方が、なんか恥ずかしい。

「その、もしかして、これ?」

と、陽織は鷹人を指差す。

すると、2人はコクコクとうなづいた。


「でも、そのわたしたちは、あまり歳離れてないから、いざとなったら責任取れない、って。そこのところは、ちゃんと和嶺様が考えてくれていて。」

「さすが、和兄様。湊人も?」

「んー、なんかね、湊人、お母さんに釘刺されたみたいなこと、言ってた。絶対、絶対、責任取れないうちは、ダメよ!って。」

陽織は、乾いた笑いを浮かべる。


「その、和嶺様も。でも、仕事の後、このままじゃまずいんじゃない?ってこと、増えていて。この頃。だから、その2人に、復帰して、もらえたらって。」

「そう、そうなれば少しは、楽かな?って。」


「ちよ、さっきの話は、わたしはちゃんと黎人さんからプロポーズされて、2年待ってもらって結婚したからね!勢いとかじゃないからね!その、できちゃった婚、じゃないよ!」

と陽織は否定したが、なんか変な空気が流れる。

ま、確かにお式の前には、いたけど。


「知ってるよ、それくらい。だから、それはいいんだけど、湊人くんが、疲れてるのに、わたし助けてあげられないの!それが嫌なの!ちゃんと巫女の役割、果たしたいの!わかる?」

と千織が珍しく熱く語った。


「それ、湊人に言った?ちゃんと、話した?美織も。それに、もう成人なんだから、お互いで決めていいんじゃないの?羽織ちゃんなんて、すっごく自由だよ?」

「羽織はねー、巫女じゃないから。事情違うよねー。」

そうなの?

「わたしたちに近いのは、陽織ちゃんの方だよ。」

「だから、できないようにするって、どうしたら良いの?」

「あれ?前に美織ちゃん、お薬って言ってたじゃない。あれ、ダメなの?」

陽織は、美織の方に話を向けた。

「だって、あれって一応、ホルモンに影響ある薬だよ。そんなしょっちゅう頼らないよ。病気になったら、怖いもの。」

そうなの?と陽織は首を傾げた。


「だって陽織ちゃん、ちゃんと。その。」

さらに陽織は首を傾げる。

「わたし、お薬とか、使ったこと、ないよ?」

持ってたけど。

千織はブハッとお茶を吹き出した。

「だ、大丈夫だった、の?」

「大丈夫って?」

「だから、その、にん、しん、とか。」

陽織はますます、意味がわからない。


「ん?でも、赤ちゃんってちゃんと産まれても大丈夫って言う人にしかお腹の中にできない、って言われたよ。だからきっと、結婚するまで、赤ちゃんできないよ!赤ちゃんって結婚決まったらできるんだよ!きっと。できちゃった婚だって、もう結婚しても大丈夫ってなったから、神様が良いよーって、くれるんだよ。高兄様も、そうだし。ねー、たっくん!」

陽織はニコニコしながら、腕の中の鷹人に笑いかける。2人は目が点になった。


陽織はやばい!わかってない!

なんでそう思う!?

「だから、2人だって、和兄様や湊人が、ちゃんと結婚とかしても大丈夫です、準備ができました、って言う時まで赤ちゃんできないんじゃないの?」

大丈夫だよ!

と、陽織は笑った。


天然?

この子天然なの?

2人は相談相手を間違った、と気づくのだった。

















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