陽織、知らない場所で話題にされる(子育て編)
いつのまにか、逃げ回らないうちに新婚編、子育て編になってました
すみません
9月最後の金曜日。バイトももうすぐ終わる。
その日はバイト仲間5人で、夕飯でも食べよう。と、言うことになった。
バイトの中で、今年初めては湊人と宏輝だけ。
あとは、みんな2年目3年目だった。夏休みだけ、と言う条件もあるため、ほとんどの学生は、他でもバイトしているか、普段は学業に専念するか。
そう言うことからも、全員が医学部か薬学部だった。
「湊人くんは、社長の弟だよね。バイトなんてしなくても、お小遣いとか、いいんじゃない?」
T大学2年医学部の橋本が聞いて来た。飲み会で、2人を連れに来た1人だ。
「あ、いえ、うちは高校生の時から、お小遣いないんです。」
湊人が答えると、宏輝を含め、全員がえっ?と言う顔で湊人を見た。
「え?だってお父さんも、お兄さんも、年収何億、何十億でしょ?」
明王薬学部3年の雨宮が、びっくりする。
いや、湊人の方が、父や兄の年収を知って、びっくりした。
「おれ、高校の時も、今も、とりあえずもらってるよ?二、三万万だけど。」
隣の宏輝の言葉にも、橋本は驚く。
「お小遣い、三万。」
「あ、こいつの親も、社長。ほら、ドラッグストアケイオーの。」
「バイトする必要、ないのでは。」
と、もう1人の先輩、橋本の同級生宮下が言った。
「でも、大学生って結構色々金かかるじゃないですか。しかも、普段そんなにバイトできないし。」
「僕は、週一家庭教師やってる。」
「おれも、とりあえず塾講師。」
「俺だって、小遣いないから、病院の雑用、2日だけやってるぞ!もう、父上、ずるいんだもん!兄上の時は、会社任せてたのに!」
湊人がそう言って不貞腐れた。
「有名だよね。今の社長って、大学生の時、神代の中では小規模だった健康食品部門の子会社を、今や大会社にしたって。それで、こっちに引っ張られたんだよね。」
雨宮は三年生とあって、さすがよく知っている。
「ウチはドクターまで行くほどの余裕はないから、大学出たら、こっちも受けるけど、そっちの会社も受けるつもり。薬学部って、ドクター出ないと、ほとんど採用ないみたいだし。あ、ケイオーも受けるよ。その時は、よろしく!」
雨宮はしっかり売り込みもしていた。
湊人はいつも同じ仲間だけでずっと連んでた。全く違う価値観の人と、こう言った繋がりができるのは、嬉しい。
「今、陽織はどうしてるの?ほら、高校の時、お小遣い5,000円で、ありえないよね、っていつも怒ってたじゃん。」
宏輝が笑いながら、湊人に聞く。
「黎兄が買ってあげてるんじゃない?高校の時から、そうだったし。それに、あの家、陽織には甘いから、欲しいものは買ってもらえる?みたいな。」
「陽織、って、社長の奥さん?2人は友だちなの?」
2人は、またやらかした、と言う気まずい顔になる。
「えと、その。黎兄に怒られるから、その、陽織の話はご内密に。」
湊人が言うと、宏輝が吹き出した。
「良いじゃん、今更。湊人も黎人さんも知らないけど、この前大神先生、会長に呼び出された後、会社の廊下で、なんで俺が、黎人と陽織のバカップルのために!って叫んでたぜ!慌てて、ちょうど通りかかった姉貴と俺で、口塞いだ。」
宏輝が遠い目をした。
「知財の神岡さんも、みんな、仲良いよね。」
宮下に言われ、2人は顔を見合わせる。
「仲良いか?」
「俺たち、ガキの頃からこうだから、麻痺してるかも。だって湊人と千織なんて、幼稚園の時いきなり、この子が許嫁者って言われたんだろ?」
「確かに。陽織なんて生まれた時だもんな。黎兄のお嫁さんって。なんか、笑える。」
2人はあははと空笑いしてるが、周りの3人は顔が引き攣っている。
どう言う世界なんだろう。
「でも、陽織さんって可愛いんだよね?」
と橋本に言われ、もういまさら感があった湊人は、大学合格の時、2人で掲示板の前で撮った写真を見せた。
この写真は黎人も持っていない。
「うわ、まじ可愛い。」
「これ、社長隠したくなるわー。
「え。奥さん医学部なの?」
「いや、辞退した。一応、違う学部には行ってる。あ、休んでるけど。」
「え?辞退って、有り得なくない?」
「ん、そのやりとり、おれ何百回もした、色々な人と。もう説明するのも、疲れた。」
そう言われたら、流石に聞けない。
「この女の子かー、僕の友だち告ってたの。」
雨宮の言葉に、2人は思わず吹き出した。
「GW開けくらいかな、一年の理系に、めちゃくちゃ可愛い子いる、って。10人くらい告白して、玉砕されたって、理系では、結構噂だよ?最近は聞かなかったけど。」
そりゃそうだ。妊婦だぞ!なんで、みんな気づかないんだ!
「高校の時は大丈夫だったの?」
宮下が気になったのか、聞いて来た。
「高校は、初めはみんな湊人の彼女だと思ってたしね!それに、いつも俺たちと一緒だったから。」
「はあ?なんで、俺の彼女なんだよ!」
「知らなかったの、本人たちだけだよ!ほら、湊人ファンが、陽織を階段から突き落とした、事件あったじゃん!バク宙事件!」
「突き落とした?」
「バク宙?」
湊人は思い出して、頭を抱えた。あれかー!
「うん、湊人のファンに囲まれて、階段の踊り場から、陽織落ちちゃったんだよね。でも、アイツめちゃくちゃ運動神経良くて、バク宙して、着地した。」
黙れ!と、湊人は宏輝を目だけで睨む。
「なんか、すごい、子なんだね。」
「うん。だから、社長ふくめ、関わらないほうが、いいよ。たぶん。」
宏輝はそう、閉めくった。




