↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/279

陽織、母になる!(新婚編)

8月後半。予定日まであと一か月。

陽織が産科にいる間、黎人は神鬼に呼び出された。


「いよいよなので、再度確認しますよ。」

神鬼がいつも以上に真剣な声で話を始めた。

「そろそろ、仕事を休む準備をしていただきたいので。」

わかっている。

わかっているが、9月は四半期の決算期だ。


「黎人さんは、これから先も、2つの選択を迫られることがあります。一つ目は、陽織さんとの間に子を設けて、いずれは彼女を連れて天界へ戻ること。もう一つは、陽織さんは命の最後を迎えて、あなたは他の新しい花嫁がまた18になるのを待ち、婚姻し子を残すこと。です。」


黎人は、え?と顔を上げる。

「神様は100年から300年に一人の、替えのない存在です。ましてあなたは、わたしが知る限りでも何千年に一人の龍神。しかし、花嫁は亡くなれば、新しい花嫁が生まれます。替え、が効くのです。もし、陽織さんが今回命を落とせば、あなたは、また18年後新しい花嫁を迎えることになる。それは、あなたに課せられた決め事で、運命です。」

黎人は、話の途中から、首を横に振り続けていた。

握った拳がさらに強くなる。


   替え?新しい花嫁?


「嫌、です。絶対に、イヤだ!」

「わかりましたか?わたしが仕事か陽織さんか?と聞いた理由が。」

黎人は、血の気が引くのを感じた。


帰りの車の中、陽織は黎人の様子が少しおかしいことに気づいた。しかし、聞いても、大丈夫、という返事があるだけだった。


その日、黎人は陽織を家に送り会社に戻ると、父がいる会長室へ向かった。


翌朝、陽織が目を覚ますと、黎人が朝ごはんを作っていた。

「れ、黎人さん!わたしやります。お仕事は?」

「ん?今日から産前休暇だよ!」

は、い?


黎人は昨日、会長に頭を下げて、陽織の出産が終わり落ち着くまでの数ヶ月、休みを申し出た。

会長も、初孫のためと、快く受けてくれた。

会社は、元々3月まで社長だった会長が兼任する。


「そんな。申し訳、ないです。」

気にする陽織を黎人が抱きしめる。

「大丈夫。その代わり、陽織はちゃんと食べて、ちゃんと健康な赤ちゃんを産むことだけに、専念すること!いいね?」


黎人は時間が許す限り、陽織に毎日霊力を流し、赤ちゃんに奪われた分以上の補給をする。

陽織は、お腹が胃を圧迫して、一度にたくさん食べられない。

ちょっと食べては休み、そして2人で手をつないで、庭を散歩して。


そんな一週間が続き、9月に入ってすぐのこと。

黎人が掃除機をかけていると、突然陽織が破水した!

まだ、予定日まで数週間あるのに!


黎人は慌てて、病院と神鬼に連絡して、美咲を呼び出す。

「黎人、そんなに慌てない!陽織ちゃんが不安になるでしょう!」

「え?でも。まだ3週間もあるのに!」

黎人の車に美咲と陽織が乗り、病院へと向かった。


破水が先に起こったので、陽織には強制的に陣痛を起こさせる薬が投与される。

黎人は陽織の手をずっと握り、時折口付けをして、陽織を励ますことしかできない!

こんなことは、初めてだ!


「泣くと、赤ちゃんが苦しくなります。泣いちゃダメです。」

泣き虫な陽織は医師の東山から厳しく注意されていた。


痛いのをひたすら我慢しているのがわかる。

すごく痛くなると、陽織の手がギュッと黎人を握って、息が上がる。泣きたいのを我慢しているが、涙は溢れている。


「そろそろですね。」

と、助産師の人が陽織に声をかけ、移動する。

黎人も割烹着みたいな服を着せられ、帽子をつけられた。部屋に入ると、同じ格好の神鬼がいた。


「懐かしいですねー。黎人さんの時は、美咲さんが双子だったから、もっと大変だったんです。」

神鬼が言うと、陽織がちょっとだけ笑った。

「先月も神柴さんの奥様に、立ち会いましたので。」

神鬼は術者の出産は霊力が関わるため、毎回立ち会うという。


「美咲さんも、黎人さんが神様の生まれ変わりと知って、霊力が半端なくて、出産後気を失っていました。でも、赤ちゃんの黎人さんは優秀でねー、生まれてすぐ、母親の霊力を回復させたんですよ!あの時は、びっくりしましたねー。」


「赤ちゃんが、優秀って。」

と、黎人も笑ってしまった。

「お母様、もっと、大変、だったんです、ね。」

そう言って、陽織は黎人の手をさらに握った。

心なしか陽織の顔が和らいだ。

「陽織さんの時は、本当に黎人さんには、申し訳ないと思ってます。わたしは、陽織さんが花嫁と、知ってたので。」


確かにそうだ。陽織が生まれた時、神鬼が立ち会っていれば、知っていたはずだ。

しかし、今はそんな場合ではない!


それから、どれくらい時間が過ぎただろう。

周りから聞いた話では、ものの1時間弱だったらしいが。黎人には何時間にも思えた。


ほん、ぎゃわーっ!

という、声と共に陽織の身体から、1人の赤ちゃんが出てきた。

陽織が、ホッとしたような顔をする。

黎人はすぐに

「陽織、ありがとう。」

と、口付けをした。神鬼に言われなくても、自然としたくなった。


陽織が望んでいた、男の子だった。


身体を綺麗にしてもらった赤ちゃんが、陽織の腕に運ばれてきた。

「う、うえっ。かわ、いい。」

もう、我慢しなくて良い、と陽織が泣き出す。

陽織が泣きながら、我が子を抱く。

「はい、オッパイ、あげられるかな?」

と、看護師に言われ、陽織が自分の胸元に子どもの小さな口を近づけた。

赤ちゃんは、クリクリと陽織の胸の上に顔をこすりつけ、チュパチュパと、飲んでいる。

陽織は、花嫁になった日依頼の、幸せな顔を浮かべていた。

「う、うえん、黎人さん。可愛い!」

「うん。陽織はもっと可愛い!」

黎人はそう言って、2人を抱きしめた。


「黎人さん、母乳も霊力取られますので、注意してあげてください。」


子どもを抱いた陽織を車椅子に乗せ、黎人が部屋の外に出ると、陽織の両親と美咲がいた。母2人は感極まって泣いている。

「頑張ったわね、陽織ちゃん。」

「偉いぞ!陽織。」

「陽織、本当におめでとう!」

と、陽織に声をかけた。

   え?僕には?

と美咲母の方に向くと、あんたはいただけでしょ!と言われた。

確かにそうだが。


数時間すると、子どもは新生児室、というところに預けられ、黎人と陽織は2人きりになる。

親たちは、そちらに行ったらしい。

陽織がうつらうつらしてきたので、黎人は手を握りキスをすると、

「少し休んだほうがいいよ。」

と言って、陽織を休ませた。


夕方に、病院の人がエキストラベッドを持ってきてくれた。

陽織と黎人が、夕飯にしていると、2人の兄弟4人が、揃ってやってきた。

よく考えると、全員大学生で夏休みだ。

    暇人どもめ!

「陽織、お疲れ様。」

高嶺が妹に優しく声をかける。

「陽織、赤ちゃん見てきたよ。すっごくイケメンだね!」 

と和嶺が笑う。

「陽織さん、これ祈梨と僕から。」

と悠人が花かごのアレンジをくれた。

湊人は黙っている。

??

「明日、千織たちと、また、来るから。赤ちゃん、千織が写真撮りたいって。」

なぜか照れている。


「そういえば、高嶺さんのところも、もうすぐ、ですよね。」

そう。高嶺と梓沙も結婚し、12月頃生まれるらしい。

「悠人は?」

と高嶺に聞かれると、悠人が苦い顔を浮かべた。

「うちは、祈梨がキャリアウーマン志望だから、まだまだ先だなー。湊人にも先越されそう。」

「いや、湊人も僕も医学部だから、まだまだでしょ。」

と和嶺が答えた。確かに。


「そういえば、黎兄と陽織のせいで、俺と千織、めちゃくちゃ忙しいんだけど!」

どうやら神嶋からの依頼が大変らしい。

「じゃあ、ウチのバイト辞める?」

と聞くと、それは続けたいらしい。

今は父が社長代理だが、父は黎人よりも湊人に甘いので、少し心配だが。


「え?それは僕と美織も一緒だよ?もう、週末がほとんど依頼。」

和嶺が苦笑した。

あれから、和嶺は、少し成長したのだろうか?


「それって、僕たちだけじゃないでしょ!高嶺さんだって、同じじゃないですか!結婚されたし、来年は国家試験だし。」

と、黎人が言い返した。


そんな会話と笑い声が、面会時間ギリギリまで、陽織の部屋に響いた。仲の良い兄弟たちだ。


翌日、美織や千織たち、高校の仲間が8人全員来た。

あまりの大人数に、陽織はびっくりしたが、嬉しかった。


陽織の部屋が広いので、10人くらいなら余裕だが、それにしても、座る場所がない。

「えーっ、見たかっただけだから、大丈夫だよ!」

と翔太たちは、陽織の隣にあるベビーベッドの中の赤ちゃんを除きこむ。すると、黎人に、接近禁止!とばかり、両手で前を立ち塞がれた。

「えーっケチ!黎人さんは毎日見られるんだから、いいじゃん!」

と宏輝や克哉まで言い出す。


しばらくすると、この赤ちゃん、神代鷹人がフニフニと泣き出した。そう、赤ちゃんは鷹人と名付けられた。


陽織は鷹人をベッドから抱き上げて、看護師に教えてもらった通り、まずはオムツを変えて、抱き直す。そして、口元をちょんちょんとつつくと、指に吸いつこうとした。

その様子に、黎人が男子5人を外へ放り投げた。

お腹が空いて泣いたらしい。

陽織が、眉を下げて笑い自分の母乳を与え始める。

「え?陽織、母乳あげてるの?」

羽織が驚きの声を上げる。

「うん、だってちゃんとあげられるなら、あげたいし。」

「か、可愛い!」

「いやーん、可愛い!」

千織と美織の声が揃う。

まだ、たくさんは飲めないのか、ちょっと飲むとゲップをして、フニャフニャと握った手で顔を擦る。

でも、まだ欲しいのか、逆に抱くとまた、違う方の胸に顔を擦り付けている。

「まだ飲みたいのかなー。」

千織が可愛いと、覗き込む。

陽織が、片方の胸を出して、また口元に寄せると、パクんと吸い付いた。

「もう、陽織ちゃん、可愛すぎる!」

美織も、両手を握って興奮している。


写真を撮りたい、と言うと、誰にも見せない約束で、陽織が撮らせてくれた。

そりゃあ、男子なんかにみせたら、黎人さんに殺されるわよ!


そのあと、男子がまた入って来て、みんなで何回も写真を撮った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。