陽織、お泊りデートって?(新婚編)
金曜日の夕方。前期試験も半分が終わり、結菜は急いでバイトに行った。
今日は黎人が夜の7時頃迎えに来る。たまには外で夕食を食べよう、と言ったので、陽織は大学で待つことにした。初めは図書館で、と思っていたが図書館は6時閉館だった。
そこで、陽織は理系キャンパスの3階にある、ラウンジで待つことにした。
普段黎人と時間が合わない時、陽織の送迎は美咲の運転手、佐々神がやってくれる。結婚前から美咲と出かける時は、いつも佐々神だったので、よく知っているし安心だ。ただ最近、陽織を若奥様と呼ぶのだけは、恥ずかしかった。
その日は羽織も、この後翔太とお泊まりデートなので、医学部の試験が終わる6時過ぎまで待つ。そこで2人は一緒に待つことにし、ラウンジに向かっていた。
「良いなー良いなー、お泊まりデート!わたしもやってみたかった!」
「あなたたちは、毎日お泊りデートでしょ!」
2人は笑いながらラウンジの入り口に入って行った。
ラウンジには、まばらながらも学生たちが談笑していた。その奥に、なぜか先に講義室を出た日緒理と、佳織の姿があった。
何やら真剣に話している様子。陽織たちは邪魔してはいけない、と反対側の席を取ろうとしたら、気づいた佳織が手を振って来た。
「ほら、先輩たちが来たよ。」
2人が佳織たちの方に近づくと、日緒理が顔を上げた。
羽織は隣の席を、佳織たちの席にくっつけて、陽織と座る。
「珍しいね、こんな遅くまで陽織たちがいるの。」
「今日ね、ハオちゃん翔太くんと、お泊まりデート、なんだって!」
と、陽織が笑いながら言うと
「陽織!あんただって、今日は外でお夕飯なんでしょ!」
と羽織が言い返す。
そして、先輩って何?と佳織の方を向いた。
「で?佳織のほうこそ、田神とはどうなの?付き合ってるんでしょ?」
巻き込まれ体質の田神颯斗は、卒業式の日、翔太と宏樹に押されて、佳織に告白した。
どうやら、春休みからお付き合いを始めたらしい。
「颯斗くん、優しいからいいよねー。」
と陽織が言ったが
「んー、それがね。田神くん忙しすぎて、あんまり会ってないんだよねー。本当に付き合ってるのかなー。」
と思案顔だ。
颯斗は薬学部の上に、術者だ。徐々にチカラもつけてきて、現在、全くの戦力外となった陽織の代わりに、あちらこちらに引っ張りれているらしい。相変わらず気の毒に。その点、佳織は一般人なので、時間も合わないのかもしれない。
やっと、先日5号館の案件で、一緒に関わったが、あれからどうなのだろう?
「と、わたしの話はいいのよ!この際おいといて!」
と、佳織が話を切った。
日緒理は、初めから話をする。
日緒理には、高校の時からの彼がいるらしい。
明王大理学部3年大野友樹と言う。日緒理が、頑張って明王に入ったのも彼を追ってのことだった。
ただ大学の2年の差は意外と大きい。
陽織や美織のように、最初から決められていて、互いに理解している相手ならともかく。
それでも3歳以上離れた黎人は、陽織との結婚を焦ったくらいだ。
普通の関係なら、20歳を過ぎた大学生と、高校生では、考え方や生活、時間にもズレがあっただろう。
「その、去年は本当に会えないことが多くて。一応家庭教師をしてあげようか?って言われたけど、その、やっぱり落ち着かないじゃない。」
日緒理の話に、陽織自身も去年のことを色々思い出して、頭を抱えて下を向いた。その結果が、実はお腹の中にいることも。
「んー。同級生なら、一緒に頑張ろーだけど、そうだよねー。」
羽織は翔太だったので、お互いに頑張ろう!と言う感じだった。
「うん。わたしも湊人とは、本当に死ぬほど一緒に勉強した。」
陽織は現実を逃避したくて、違う話を思い出す。
「ちょっと陽織、湊人は黎人さんの弟でしょ!色々怒られるよ!」
特に千織に!
「陽織って、変わってるよね。そんなに勉強して受かった医学部辞退するなんて。」
佳織が蒸し返す。
「話、逸れてる!」
羽織が怒る。
「で、彼が、その。大学合格した時に、その、求めて来たんだよね。もう、良いよね?って。」
あ、わかる!と羽織がうなづく。そう、確か羽織と翔太はそうだった。で、今は芋づるのようだ。
「でも、わたし怖くて、ダメって。」
陽織はポカンとした。
「で?佳織たちは?」
急に聞かれた佳織が
「ほとんど会ってないのに、そんなわけないでしょ!」
と、返して来た。
んー、と陽織は頭を抱えて思い出す。
わたしは?わたしは、なんでだっけ?
「陽織は?」
と聞かれて、驚いた。
「わたし、その、もしかしたらお付き合いって、したこと、ないかも。」
と答えた。というか、お付き合いって、何がお付き合い?どれがお付き合い?
羽織が、え?と驚く。
「?クリスマスの時は?」
「んー、急に、拉致られた?」
「は?」
思い出すと、陽織は何の話もないまま、いきなり美咲と蓮也に紹介された。
「クリスマスイブの日、学校の帰り、黎人さんの車に乗せられて、日本橋のデパートで、全身コーデされて、そのままお家に連れて行かれて、お父様とお母様に挨拶して、黎人さんの家に連れて行かれて‥。身ぐるみ剥がされた。ような?あれ?」
3人はただ唖然としている。
「で、んー、泣いてたら、お母様が慌て黎人さんの家に来て、わたしの髪を綺麗にしてくれた?ような。」
「黎人さんの家?」
「今、陽織たちが住んでる家。知り合った頃に、親が建ててくれたんだって。」
「知り合ってすぐ?」
「家?」
「すごい豪邸!3階建て!」
「ん、わたし、結婚するの、やだって黎人さんから逃げてたから。なんでそうなったんだっけ?花嫁なんて嫌って言ったのに。」
と思い出して、陽織は膨れてる。
「?ちょっと待って?それって、陽織の意志とは関係なく、もう、外堀埋められてた感?」
だねー。と羽織がうなづいた。
「で、黎人さんと黎人さんのご両親の間で話が進んでいて、親族の方とかにも紹介されて、気づいたら婚約してた!」
陽織は呑気にニパッと笑う。
「それって、陽織何歳?」
「んー、まだ誕生日前だから、15?」
「それ、犯罪、じゃ、ない?」
と三人はただ驚いた。
「びっくりだよねー。だから、陽織の話は一般例にはならないから。未だによく覚えてないんだよね?しょうがないよー。黎人さんに15年も、待ってたなんて言われたら、そりゃ普通の女の子なら、メロメロだよねー。」
と羽織が笑う。
「また話、逸れてる。」
あ!
「で?その彼と?」
そのあと日緒理の顔が暗くなる。
「その、わたしがココに入るまでの間に、他に彼女なのか、ただの友だちなのかわからないけど、その、そういうお付き合いしてる人がいたみたいで。」
まあ、普通の大学生なら、わからなくもない。
彼女が受験生で、手も出せなくて、会えなければ、そばにいる人にひかれることも、あるだろう。
「それは、浮気?なのかな?それとも、二股とか?」
「先輩は、出来心だとか、真面目に付き合っていたわけじゃない、ただの友だちって言ったけど、結局、わたしが断ったのが、悪いみたいなこと言われて。」
陽織と羽織は、すごく嫌な顔をする。
「黎人さんに、そんな人いたら、どうしよう。」
陽織は泣き出した。
「ちょっと、絶対ないから!黎人さん、陽織に溺愛してるの、見てればわかるから!」
羽織が陽織の頭をコツンとやる。
「ほら、またそれる!」
「でも、浮気してたのは向こうでしょ?それをこっちのせいにするなんて!」
羽織はちょっと怒ってる。
「で、今度の休みに、仲直りのデートをしようって。」
「?良かったんじゃない?」
「それが、そのお泊まり。で。」
それを聞き、三人三様の顔をした。
(そういえば、わたし黎人さんとのデートって、必ず最後は‥‥だった?て、言うかデートって何?)
(まあ、お互いにその気になればいいけど‥‥。ウチも、結構、翔太が先走ってるような。)
(本当は、そっちが目的なんじやないの?やだなー、田神くんは、真面目なのかも。)
3人が黙って考えこんでるので、日緒理も不安になる。
「その、どうしたら良いのわからなくて。」
「まあ、下心ない男なんて、いないとは、思うけど。」
と羽織。
「え?そうなの?」
「でも、わたしたちその、大野って先輩、知らないから、なんとも言えないよね。」
と佳織。
「やっはり、その。自分で決めるのが1番かと。」
と陽織が言った。
と3人は答えた。
でも内心は、そんな男、嫌かも。
と思っている。
そして、最後に
「え、とね。キクリちゃん。その、本当に先輩が、他の女性とは、もう関係ない!って証明できて、で、キクリのことだけ、本当に、好きなら、良いとは思うけど。でも、そ、そうじゃない、って、わたしはわからない、けど。他にも好きな人がいる、とか、一番に大事にしてくれないなら、それは、あまり、おすすめ、しない、かも。あ、でもね、そのキクリが良いなら、一度抱いてもらうとわかるよ。わたし、黎人さんに抱いてもらうと、すごく、幸せだから。」
陽織の答えに、羽織と佳織は、なるほどと思った。
「そうだねー。一番わかりやすいのは、アレかな?」
その時、ちょうど、黎人が入り口から飛び込んできた。
「陽織、お待たせ!あ、羽織さんに佳織さんと、おともだち?」
そう言いながら、黎人は陽織を抱きしめて、相変わらず人目を憚らずにキスをする。
「ね?アレよ?」
羽織が陽織たちを指した。
「ん?じゃあ、陽織行こう!もう、早く会いたくて急いで走って来ちゃった。」
と肩で息をしていた。
「はい。ごめんね、みんな。大したアドバイスもできなくて。じや、また月曜日に。」
と言って、陽織は帰って行った。
陽織はいつものリュックを背負おうとして、黎人に取り上げられた。
黎人は、陽織のバッグを肩にかけ、陽織を抱き上げようとして、恥ずかしいからやめて、と言われて、諦めて手を繋いで、ラウンジを出て行った。
「一番に大事にしてくれる。」
日緒理はポツリと呟いた。
「彼は、違うかも。」




