↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/279

陽織、黎人の懇親会(新婚編)

陽織がまだ入院中の、4月の金曜の夕方、黎人は会社で新入社員との懇親会を開いていた。

来週には陽織が無事退院できると知り、正直早く病院へ行きたい。

でも、明日の土曜日はオフにしてもらえたので、朝から陽織のそばにいるつもりだ。だから、今日は我慢して、このくだらないイベントに付き合っている。


新入社員は今年28名。研究職が5名、薬剤師としての採用が8名、それ以外は総合職の15名だ。

研究職には、マスター、ドクターと言った院卒もいるし、薬剤師は全員6年制を卒業しているので、はっきり言うと、みんな黎人よりも年上だ。

中には、神柴より年上もいる。


年下と侮られないために、初めの挨拶で、自分が飛び級で今年の3月に卒業したこと、本来なら、ロースクールを出てから受けられる司法試験も、予備試験から3年早く本試験に挑み、合格していることを自己紹介に盛り込んだ。



見た目とコネだけではない、自分の努力と能力を認めてもらった上で、新しく社長職に就任したことでの、会社の方針や意気込みなどを話した。


今回の懇親会は、強制ではなくした。

あくまでも、自由意志。

そのうえで、どれくらい集まるか、はある意味賭けでもあった。


入社した途端、社長が代わり、自分たちより年下になる。今の世代の若い人なら、それを理由にすぐに辞めてしまうかもしれない。

それでも、この会社にいたい、と願ってくれる人がどれくらいいるかを知りたかった。


それだけではない。今日、黎人は結婚指輪をはずしている。首から、チェーンで下げていた。

(コレは陽織が出産間近になった時、指輪をはずした方が良いと言われる、と言う母のアドバイスで、その時用に2人で揃えたチェーンだ。)


本当に会社の情報を真剣に入手しているなら、どこかで黎人の結婚を耳にしているに違いない。

また、黎人の見た目や経歴目当てで、擦り寄ってくるような、女性は身近におきたくない。こう言ったことを知るためでもあった。


そんな意気込みで始まった懇親会だが、意外にも、今年の新入社員は全員参加していた。もちろん、この他に、各地方事業所の採用もあるから、全国では200名強にはなる。


年齢が近い社長、と言うこともあり、比較的フレンドリーな堅苦しくない雰囲気で会は進んでいた。

「あ、あの僕は明王大学薬学部卒の、町永です。よろしくお願いします!」

と普通に挨拶に来る者もいれば、

「社長!俺たちより3つも下なのに、すごいですねー!」

と、本当に無礼講の者もいる。

中には

「神代社長、会長と同じ苗字なので、黎人社長とお呼びして良いですか?」

と言ったものもあり、それなりに楽しい。


その中で、今年ワンツーと言われる美人と前評判が高いのが、秘書課の白石由利子と広報課の渡部沙羅の2人。この2人は大卒なので、黎人より1つ上になるが、沙羅の目は黎人が以前遊びで相手した先輩たちのような目だった。


それに、一瞬黎人が顔を顰めたのを見逃さない神柴に、渡部はもう、チェックされている。

気の毒に。

一方、その2人の陰に隠れてはいるが、今回黎人が期待している弁理士を目指す、法学部の一つ上の先輩、神岡梢絵は、ちょっと違っていた。


凛とした出たちと、決して目立たないが、綺麗な目鼻立ち。どちらかと言うと、絵梨花に近い。それに梢絵は、宏輝の姉でもあった。


「あちらは、神岡氏の。」

神柴も気づいたようだ。

「まあ、わざわざ親とは無縁の会社に入ってくるくらいだから、何か思うところはあると思うよ。様子見と、期待かな。」

黎人は、神柴に小声で囁いた。


2時間ほどの懇親会も終わりに近づき、黎人の周りだけでなく、色々なところにグループができて、それぞれが楽しんでいた。


去年は勉強に追われていたこともあり、あまり会社の人間と付き合うことはなかった。しかし、コレからは、きちんと自分の責務を果たすよう、父からも言われた。


まだまだ駆け出しの社長職。お開きになる頃には、二次会を約束している姿も見えた。

「え?社長、二次会だめなんですか?」

と、今回比較的リーダー格で、社員をまとめていた、院卒総合職の、林田に言われた。

「うん。すまない。妻が今入院中なので、早く病院に行きたいんだ。」

黎人がそう言って手を上げると、一斉に

「妻!」

「ツマ?」

「妻帯者?」

「えーっ?」

と、声が上がっていた。


神柴はそんなふうに、残されて唖然とする社員たちに頭を下げて、黎人の車のキーを預かった。


夜9時、もうすぐ病院は消灯時間で、見舞いは入れない。家族だけは特別に入れる部屋に、陽織はいる。


黎人がドアをノックすると、

「ハイ。」

と小さな声。

「陽織、遅くなってごめんね。」

黎人がスーツ姿で入ると、陽織が最初はニッコリしていたが、すぐに

「う、お酒くさーい、」

と顔を顰める。


「ハハ、ごめん、ごめん。」

そう言って洗面所で歯を磨くが、なんとも言えない。

   んー、今日は嫌がられるかなー。

そう思いながら、もう一度、近くに寄る。

「どう?」

と聞くと

「ビミョー。」

と陽織が答えた。

「じゃあ、今日はコレだけね。」

と言って、ギュッと抱き寄せる。

すると、なぜかウーっと怒っている。

そこで、ちょっと唇を触れるだけのキスをしたら、久しぶりに陽織が、頭をクリクリしてきた。

「え?お酒の匂い嫌なんじゃないの?」

と聞いたら、ちょっと拗ねた。


もうすぐ、来週からはまた毎日一緒にいられる。

「明日は、朝から来るよ。月曜日も、午前中お休み、もらえたし。」

そう言ったら、陽織がニッコリした。


ーーーーーー

ある日の昼休み。

今年神代製薬に入社したわたし、神岡梢絵は、知的財産部の新人として採用され、少し舞い上がっていた。

しかし、知財は忙しいのに、会社では影の力もちで、花形ではない。

同期の社員もいない。

社食で一人、ご飯を食べていたら、社長と秘書の人が近くの席に座った。


「あ、神岡さん。」

他の女子社員もいるのに、急に社長が声をかけてきた。

「は、ハイ、」

と、声が裏返る。

「宏輝って薬学部なんだね。」

と急に言われた。

「宏輝?あの、弟の、宏輝、ですか?」

間抜けな返事をすると、

「あれ?宏輝から、なにも聞いてない?うちの弟の友だちなのに。ほら、湊人。僕も時々仕事してるよ?」

いえ、いえ、知っております!

結婚式にも、弟は呼んでいただいております!

と言いたいが、ここで言ったら、他の女子たちに何を言われるかわからない!

わたしは、固まった。


社長は、ちょっと首を傾げている。

隣で、秘書の神柴さんが、クスクス笑っている。

「社長、湊人君よりも、奥様の名前をおっしゃった方が。」

と言われて、ポンと手を叩く。

「そっか!宏輝、結婚式に来てたよね?陽織の友だちの一人として。」

と言われて、ますますなんと返事をしたら良いのか。

「あ、ハイ。陽織さんですよね。いつも、お世話になっております。」

と渋々答えた。すると満面の笑みで

「こちらこそ!宏輝がこの前、陽織を医歯薬キャンパスに連れて行ってくれた、って感謝してたよ。いつもありがとう。」

と言われてしまった。

やっぱり神々しい!黎人様!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。