陽織、除霊の見学(新婚編)
湊人の元に、神嶋からメールが届いた。
初のリーダー任務だ!
神嶋からくる仕事は、大きく分けて3つある。
1つはすでに事件が起きてしまい、それに対する物理的には解決できない事象の解決。
2つ目は、怪奇的な現象が起こっていて、それを調査していくうちに、事件性につながるもの。
例えば、高校最後に受けた、人魚事件がそのいい例だ。
以前、悠人や和嶺がやった雑居ビルもそうだった。
こういった事件性が明らかな場合は、警察案件になるので、それなりに国から予算が下りて、報酬が支払われる。
特に、雑居ビルなとは、ビルの持ち主が依頼主となるため、報酬は弾む。
3つ目は、全く事件性に結びつかないが、なんとか霊障をなくしてほしい場合。これは、依頼主が全ての報酬を支払うことになる。
神嶋が絡まない、巻き込まれや引き摺られは、無報酬なので、正直関わりたくないが、自然と巻き込まれる。
4人が地下鉄の入り口から、忽然と消えたものは、そのいい例だ。
今回は?
「明王大学医歯薬キャンパス5号館の徹底除霊?」
なんだこりゃ?
しかも、メンバーが神嶋から指定されていて、その中に当然だが、黎人と陽織は入っていない。
術者の報酬は決して安くない。場合によっては命をかけることもある。陽織は、実際に高校2年の時、年収があわや100万円にいきそうになり、父親から扶養の範囲から外れるほど働かせるな、とクレームがあったくらいだ。
実際には、報告書の内容、能力や働きにより、同じ依頼に出かけても、一人一人金額は違う。
陽織の場合は、花嫁という莫大な力を持って解決に導くため、毎回高額な報酬になってしまう。
未成年であること、報告書の作成に関わらないことを抜いても、場合によっては一回で、何十万という価値を生んでしまうこともあるのだ。
中でも、競技場の霊を鎮めた件は、相当だった。
あの時は、依頼料の半分を陽織が持って行った。
で、今回の場合は、個人依頼主だ。
一体どれくらいになるのかが、明らかにされていない。しかし、医歯薬キャンパスというとは、他人事ではない!
そのため、湊人は嫌な予感がしながらも、当日、大学に行った。
6月の日曜日。メンバーは湊人の他に、和嶺、翔太、宏輝、颯斗、羽織と言う理系組と、美織、千織の2人の巫女。高嶺は国家試験が迫っていて、今年は難しい。
「へえー、慣れない田神くんがいるとはいえ、大学生8人は豪勢だね!」
和嶺が笑って言う。
8人が揃うと、その前に 黎人と陽織、そして佳織が現れた。
「え?なんで佳織?」
「黎兄と陽織?」
みんな驚いていると、黎人が手を挙げた。
「おはよう!エライ、エライ!誰一人欠けることなく集まったね!依頼主の、神代黎人です!」
と、挨拶する。
えーっ!
なんで?
はあー?
全員が口をあんぐり開けて、驚く!
「え、と、アシスタントの、笹本佳織です。」
佳織は、なぜか小さくなって頭を下げた。
金持ちめ!
やっぱ黎人さんはお金あるなー!
セレブ!羨ましい!
など、各自が思ったが口にはしない。
「今日の依頼は、ここにある明王大学医歯薬キャンパス5号館の、徹底除霊と三重結界!です。目標は、陽織がこのキャンパスで、怖い思いをせず、楽しく学ぶことができる、そのための環境作りをしてもらうこと!以上。」
湊人と羽織は、原因は先日の解剖実習か、と遠い目になった。
「はい、質問です!」
美織が手を挙げた。
「徹底除霊というのは、どのようなものでしょう?」
「いい質問ですね!徹底、と言ったら徹底です!たとえ、マウスやラット一匹、ゴキブリ一匹の霊も逃さないで下さい!さらに、明日からまた解剖実習などで、動物霊が発生するのも、だめ!とにかく、徹底的に!です。」
「はーい!そんなこと言われても、毎日毎日、あちこちで、実習や実験してるんだから、キリがないと思います!」
翔太がめんどくさそうに言った。
「翔太くん!ならば、あなたの家では、去年ゴキブリが出なかったから、と、今年は全く、ゴキブリ対策をせず、放置しているのですか?」
「すみません、僕はまだ、そんなに小さな霊は気づかないかもしれないのですが。」
と颯斗。
「うん、颯斗くんには、こちらで陽織が見えたものを指示しましょう!」
「報酬は出来高!たくさん除霊したものが、たくさん金額になります!ゲームのダンジョンみたいで、面白いでしょ?」
あ、それは良いかも。と、誰かな声がする。
「最後の三重結界は、どうやって張るんですか?」
「一人でやっても良いですし、3人でやってもかまいません。その場合は、結界一つにつき、報酬を出します。」
「次の陽織の実習の時、何も出ないことが一番てことですよね?」
「そうてますねー。どう?陽織は?」
黎人が陽織に聞く。
「え?え?わたし、そんなの決められない。黎人さんが決めて。」
と、2人、イチャつき始めた。
「コホン、ただ、その日にみなさんの中の1人が、全てを浄霊できますか?」
黎人が改めて聞いた。
「掃除と同じです。今日大掃除をしておき、当日の朝、陽織が歩く5号館の玄関から、実習室に至るまでが、完全に除霊されていれば、良しとしましょう。」
なるほど!と、全員うなづいた。
その間も、陽織の周りには、ワラワラと、小さな動物霊が集まってきていて、彼女は怯えている。にも関わらず、ほとんどのメンバーは気づいてない。
大丈夫なのだろうか?これで。
「それじゃ、笹本さん、あとはよろしくお願いします。」
黎人はそういって、佳織にタブレットを渡した。
陽織は佳織と2人、黎人が立つ位置のすぐ近くのベンチに座る。
佳織は、陽織と羽織が普段みているもの、感じていることを少しでも理解したかった。そのため、今回の手伝いを買って出てくれた。
ただ、彼女は全く見えないし、感じないので、その危険から守るために、黎人は、メンバーが散ると同時に2人の周りに結界を張った。
湊人は除霊の得意な千織の手を引いて、まずは最上階に上がった。
「くっそ、金持ち兄貴め!」
千織は眉を垂らして笑っている。
「ここで陽織たちが解剖実習した日に、泣いたって話をした時から、嫌な予感がしたんだ!」
「陽織ちゃん、そういうの苦手だよねー。」
「そのものも苦手らしいけど、一番は解剖されたマウスやラット、うさぎなんかの霊が、陽織の周りにウジャウジャ集まるらしい。」
「わかる!」
千織が手を叩いて言う。
「だって、わたしの周りにも、ほら、くっついてきてるよ!」
と千織は階段を上がりながら、後ろを指差した。
その途端、湊人は千織にくっついてくるものを、片っ端から除霊した。
(こう言うことか。)
「巫女の霊力は、他の霊にとって、すごく魅力的なんだって。」
「らしいな。中でも陽織は、極上のブランド牛並みだそうだ。」
なんで、牛?
その例えに千織なケラケラ笑い出してしまった。
「ほんと、湊人くん、肉好きだね!」
さすが、千織と美織を連れた、和嶺と湊人は、他を引き離してすでに10体以上を除霊している。
佳織が持つタブレットには、それぞれが持つGPSと連動している。
「黎人さん、あそこにもいる。」
陽織が言うと、徐に黎人がメガホンを出して話し始めた。
「みなさーん!屋上にも何体かいますが、上がれますか?それから、誰も3階に行ってませんが、かなりいますよー!」
メガホン?どこから!
そのうち、校舎から弾き飛ばされた霊が、陽織に惹かれていつのまにか近くまで寄ってきていた。さすが、結界があるにも関わらず、気づく大物だ。
その姿を佳織は初めて自分の目で見て、ひっ、と小さく悲鳴をあげた。しかし、佳織の悲鳴とほぼ同時に、黎人がその霊を祓う。
「おや、こちらの方も、少しはチカラがあると見える。」
突然、後ろから聞き慣れた声がした。
「神嶋、さん。」
神嶋は、黎人に近づくと、状況を聞いていた。
「なるほど、まだ湊人くんには、リーダーは難しそうですねー。和嶺くんも、今回は自分のことで、いっぱい、いっぱいですか。」
などと話していた。
「黎人さんから、今回のお話をいただいた時、とてもありがたかったです。高嶺さんが、国試に受かれば、ほとんどこちらの仕事をお願いするのは無理になります。すでに会社を経営している黎人さんも、同じだ。
となると、この中から、次のリーダー格を見付けないと、困るのは確かにこちらです。こう言った方法で、訓練兼試験ができるなら、願ったり叶ったりですよ。」
陽織はそれを聞いて、なるほどと納得した。
さらにその時!
陽織は、急に立ち上がると、黎人の方へ、チョコチョコ近づく。そして黎人の耳に手を当てて、内緒話をした。それを聞いた黎人は、今日一番の笑顔を見せ、陽織のお腹に優しく触れた。




