陽織、久々白桃召喚(新婚編)
6月に入ると日本は暑くなる。もう真夏並みだと羽織は思う。そんな暑さの中、爽やかな笑顔を振りまいて、車から降りてきたのは、高校時代からの親友だ。
「羽織ー、羽織ちゃーん、おはようー。」
陽織は、羽織に駆け寄るとギュッと腕を絡めてきた。
「今日も暑いねー。」
暑いと言いながら、陽織は車でエアコン付きだろう!と心の中で突っ込む。
「ね、ね、聞いて羽織ちゃん、わたしね体重43キロになったんだ。人生初の40Over!」
と無邪気に笑う。
そんな2人の前に、1人の男子学生が立ちはだかった。陽織は羽織の背中に隠れる。
「神代さん、僕は工学部2年の山城です。その、もし良かったら。」
と言いかけたところ、羽織の背中に隠れた陽織の左手を羽織がぐいっと、突き出した。
「この子、人妻だから。」
と、結婚指輪を見せた。
残された山城という先輩は、他の学生から、
「だから言ったのに!」
と言われている。
5月に陽織が大学に出るようになり、この手の告白は一体何回あっただろう。羽織は、思わず数えてみる。
「あ、ありが、とう。羽織ちゃん。」
陽織は羽織の背中にくっついたままだ。
朝一番の講義室に入ると、最近一緒にいる、笹本佳織と、実験や実習が一緒の菊池日緒理、小林結菜がいた。
「おはよう、陽織。また告白されてたの?」
結菜が笑いながら声をかけてきた。
「もう、自分からちゃんと、人妻って言いなさい!」
と羽織に怒られる。
あまり怒ると、陽織は泣くのでめんどくさいが。
「だって、恥ずかしい、から。」
ともじもじするが、背中のリュックにはしっかりと、マタニティマークのキーホルダーがついている。
「しかし、男子もいくら可愛くても、妊婦さん口説くって、ちょっと笑えるよね!」
最近慣れてきた佳織が笑う。
陽織は、元々細いので、オーバーブラウスやロングTシャツにスキニーパンツ姿でいると、妊婦さんに見えない。
「これで何人目?」
と聞かれて、羽織が指を折って数えている。
「10人は超えたと思うけど。」
菊池日緒理は、そんな陽織と同じ中学だったが、色々訳ありで、いまだに伝えられていない。しかも、陽織が附属出身ということから、自分もひおりだけど。今その名で呼んでくれる友だちはいなくなった。
「きくり、昨日のレポート、アレで大丈夫だった?」
羽織が声をかけてくる。
そう、今は名前を短くして、みんな、キクリと呼ぶ。それはそれで可愛いので、まあ、良いかと思っている。むしろ可愛い呼び名を付けてくれた羽織には、感謝している。
今日は午前に2コマ、午後が1コマ空いて、そのあと1コマの計3コマの講義がある。
陽織は羽織の後ろをちょこちょこくっつきながら、講義室を移動する姿も可愛い。
午前の授業が終わると、1コマ分空くので、5人は学食でのんびりご飯を食べることにした。
学食の一番奥の窓側。陽織はリュックから、お手製のお弁当を取り出しながら、みんなの分の席とりをしていた。
その時、学食の入り口付近から、すごく嫌な気配を感じる。それは、陽織だけでなく、元S出身の術者なら、誰もが気づくモノだった。
その気配が入ると、入り口付近の学生が騒ぎ出した。
「大神先生、何連れてきたんですか?」
「先生、ここ大学ですよ!」
附属本校の生徒が騒いでいる。
そう、陽織たちの元担任の大神だった。
羽織はラーメンをテーブルに置きながら、嫌な顔をしている。
「何?あれ。」
羽織に言われて、陽織も顔を上げた。
げっ!
元Sでなくても、少し敏感な人なら、この嫌なモノは視えたり感じるのでは?というくらい、元担任の大神は、禍々しいモノを連れている。
「あ、いた!陽織!羽織!」
大神に声をかけられ、陽織と羽織は思い切り他人のフリをしたくなった。
ラーメンを啜りながら、羽織は見なかったことにしよう、と後ろを向く。陽織も羽織に習おう、とした時、大神に見つかった。
「陽織、頼む!コイツ、どうにかしてくれ!」
明王大学は、一応結界が張ってある。
なぜこんなものを!と、言おうとしたら、どうやら大神の銀狼とくっついてしまったらしい。
「先生、神嶋さん絡みですか?」
羽織が目を合わせずに言う。
他の3人は何を言っているのか、わかっていない。
佳織は一応恩師なので、ちゃんと挨拶をして、さらに外部からの2人に高校の時の古文の先生だと、説明していた。
陽織も無視したかったが、銀狼が苦しんでいた。
「美織ちゃんのところには行きましたか?」
陽織が声をかけると、
「美織のところに行ったけど、ダメだった。」
「湊人は?」
「湊人は、祓うの下手くそだ!」
と、大神が答えた。
「昨夜帰ったら、子どもたちに怯えられるし。」
それはそうだろ。
と、羽織と2人、子どもが気の毒になる。
「今の陽織にやらせるつもりですか?黎人さんに怒られますよ?」
と、羽織が冷たく言うが、確かに大神家の子どもも、銀狼もこのままでは可哀想だ。
仕方ない、と陽織は立ち上がり、お弁当の蓋を閉じた。そして
「ハク!」
と一言声をかけると、陽織の中から白桃が現れる。流石に、陽織の体が光り中からウサギが出てきたのには、佳織たちも驚いた。
陽織が白桃を両手で掲げて
「お願い!」
と言うと、陽織の周りからキラキラとした光が放たれて、大神の銀狼から、禍々しいものたちが、取り払われ、そのまま浄霊された。
「ありがとう、陽織!」
と大神が言い終わらないうちに、陽織が倒れる。
「だから!」
と、羽織が両手で支えようとしたら、陽織の後ろにいつのまにか黎人がいた。
「黎人さん?」
羽織は驚いて、大声で叫んでしまった。
「陽織!」
黎人が、陽織を呼ぶ。
「え?え?あれ、黎人先輩?」
「なんで?」
「急に現れたよね?」
周囲から小さい声が聞こえた。おそらく明王の附属出身者たちだ。
黎人は大神を睨んでいる。
「先生、どう言うことですか?なんで、大学にいるんですか?だいたい、どうして、陽織にチカラを使わせているんですか?先生だって、妻帯者なんだから分かりますよね!」
黎人は延々、大神に威圧をかけている。
黎人が怖い。
「悪い!俺もまだ授業だから、詫びと詳しくは後で!」
と言って、大神は逃げた。
その時、大学の方も予鈴が鳴り、午後イチの講義を取る人は、学食をあとにする。
「すみません。わたしがいながら。」
羽織は黎人に謝ったが、黎人は気にしないで、と優しい。
「陽織、今日はもう帰ろう。」
そう言って黎人が陽織を抱き上げようとすると、陽織が目を開けた。
「れ、黎人さん?だ、どうして?わたし、あの。だ、大丈夫、です。あ、あの、お仕事、ですよ、ね?ごめんなさい。そ、の。わたし、まだ講義、あるので。」
陽織が黎人の腕の中で、ジタバタと降りようとしている。
その時、黎人の胸ポケットのスマホが鳴った。黎人が徐に電話にでると、
「社長!会議サボってどこ行ってるんですか!?」
と言う、神柴の声が聞こえた。
「え?あ、会議中、だったの?ごめんなさい、わたし、大丈夫、だから!」
と、やっと陽織を下ろしてくれそうな雰囲気、と思ったら、黎人は人目を気にせず、いきなり陽織の唇を塞いだ。
羽織は、あ、懐かしいー。と遠い目になる。
ここに、いつものメンバーがいないのが、寂しい。
周りの学生も、その様子に顔を赤くしたり、目を逸らしたり。
充分供給できたかな?と思われた頃、やっと黎人が陽織の唇を離した。
「あ、あの、黎人さん。恥ずかしい、です。」
「本当に大丈夫?じゃあ、ハク、陽織の中に戻って。」
と白桃に命じて、そのまま姿を消した。
「はあー。」
と陽織が大きく息を吐き出し、椅子の上にへたり込んだ。
「なんか、久しぶりに黎人さんの、陽織溺愛イチャイチャを見たわー。」
羽織が感心したように笑う。
「それにしても、ますます神がかってきたね。」
と羽織に言われ、陽織は顔を引き攣らせた。そして、後ろで見ていた佳織と目があった瞬間、我に帰った!
ちがうちがう!なんで、いつもの調子で!
もう、大神先生のせいだ!
3人を代表するように、佳織が聞いてきた。
「え、と、今のが、そのSクラスの?」
佳織も、流石に元明王付属の生徒会副会長だ。違うクラスでも、全く視えなくても、多少の知識はあったのだろう。
羽織と陽織は、代わる代わる、わかりやすく説明を始めた。
「なるほど。」
結菜が呟く。
「でも、わたしたちは全くわからないのに、さっきの陽織のは、視えたよ?」
佳織が言うと、
「この子と、黎人さんは特別!」
と羽織が笑った。
「何せ、神様と、神様の花嫁だから!」
翌日の理系キャンパスは、突然の黎人の出現と陽織の浄霊で元明王附属の学生は盛り上がっていた。
大学の規模から考えると、学生数は100分の1程度だが、それでも黎人の存在はやはり大きい。
「昨日黎人先輩来たの知ってる?」
「もう、相変わらずカッコよかったー!」
「和嶺くんもいいけど、黎人様は神々しい!」
「文系に行かれてしまったから、もうお会いできないと、思っていたし。」
「久しぶりの陽織様とのイチャイチャも、眼福でしたー!」
「何それー!」
あはは。
特にSクラス出身の先輩たちの話題はそれ一色といってもよかった。
その話しは昼休みにも続いていて、午後の講義に向かう陽織の背中からも聞こえていた。
(もう、恥ずかしい!)
「和嶺君もカッコ良いけど、次元が違うよねー。」
と言う先輩の声と被るように
「ん?僕がなに?」
と言う声も。
「あ、和嶺君!」
その声に、思わず陽織は振り向いてしまった。
「和、兄様?」
「あ、陽織。よかった会えて。」
「和嶺先輩、お久しぶりです!」
「和嶺先輩、こんにちは。」
「羽織さんと、笹本さんも、久しぶりだね。」
元気に羽織と佳織が挨拶する。佳織は生徒会の引き継ぎの時、数ヶ月一緒に仕事をしていた。
「ちょうど図書館に用があったから、陽織に会えるかな、って思って。」
和嶺は、さりげなく陽織の隣に並んだ。
「大丈夫?昨日、美織から連絡受けて、すっごくびっくりした。父上も、心配してたから。」
和嶺は陽織のおでこを触ったり、脈をとったり。
「もう、高兄様みたいなこと、やめて下さい!」
そう言って、陽織は講義室の入り口まで、兄妹仲睦まじく歩いた。
羽織たちの後ろを歩く日緒理と結菜は、もう言葉も出ない。
「羽織さん、陽織のことよろしくね。」
と別れて、5人は講義室に入った。
「え、と。あのイケメンさんは、陽織の、お兄、さま?」
なぜか結菜が、辿々しく聞いてきた。
「はい、下の兄。和嶺兄様です。医学部の3年生です。」
と陽織が答えた。
「えと?前々から気になっていたんだけど。」
と結菜が口を開く。
「羽織も、お父さんとかお母さんのこと、お父様とか、本当は呼んでるの?」
その瞬間、ペットボトルの水を飲んでいた羽織が、ブハッと吹き出した。
「ないない!確かに、陽織とか、もう1人の友だちの美織とかは、呼んでるけど。」
「確かに、美織ちゃんはそう呼んでるよ。」
と、なぜか陽織がニコニコしてる。
「ハオちゃんも、呼べば良いんだよ。きっと翔太くんのお父様とか、喜ぶよ?住職様でしょ?」
と陽織に言われ、羽織は睨んでくる。
「昨日も、ちょっと話したけど、陽織や友だちの美織、それに黎人さんの家は、同じ十神家と呼ばれる中でも、格が違うの!あとは、陽織の場合はお育ち?」
そう言われて陽織も反撃する。
「そう言う羽織ちゃんの家だった明治以前から続いている、超老舗の旅館じゃない!名家だよー。」
「うちの親たちは、父様なんて呼べって言わないしー!」
と羽織に言われ、流石に陽織は黙った。
「う、だって、マ、ママは、怒らないけど、父様は、怒るんだもん。」
と陽織が膨れると、羽織が、ね!と、3人の方を見た。




