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陽織、大学生活開始(新婚編)

ゴールデンウィークが開け、陽織はやっと大学に行けるようになった。

「陽織、無理はしないで。帰りも迎えに来るから。」

黎人がそう言って、大学の正門で陽織を降ろした。


すると、

「陽織、おはよう!」

と後ろから声がかかる。羽織だ!

「陽織、今日から学校来られるって聞いてたから、迎えにきちゃった!」

羽織が、腕を掴んで笑う。

「羽織ちゃん、休んでる間、色々ありがとう!履修登録もしてくれたんだよね。」

任せて!と羽織がポーズする。

陽織と羽織が並んで歩くと、男子学生が振り向く。

特に、陽織は可愛い。

本人の自覚はないが、めちゃくちゃ可愛いと羽織は思っている。



「今更だよ!高二の時から3年目だもん!」

それを言われると、陽織には返す言葉がない。

そう、志望学科が同じと知った時から、陽織は羽織に頼りっぱなしだった。

「面目ない。」

でも、こんなに可愛い陽織に頼られるのは、親友の一人として嬉しい!


陽織たち農学部のキャンパスでは、理学部、工学部、医歯薬学部の1、2年の一般教養や共通科目などの授業が行われる。

羽織の他にも、Aクラスにいた笹本佳織が同じ学部だった。

湊人と翔太は医学部、宏輝と颯斗は薬学部だ。


今日の朝一の生命化学は、湊人たちもいる一般教養の一つ。大きな講義室で行われる。

陽織が羽織に連れられて、はじめて講義室に入ると、翔太と宏輝が寄ってきた。

「本当だ、湊人が言ってた通りだ!」

湊人?

陽織が不思議そうな顔をすると、

「おはよう、湊人が今日から陽織も来るって言ってたから。」


「おはよう、その節はご心配をおかけしました。」

陽織がぺこっとお辞儀をする。

「でも、無理しないでね。湊人も心配してたんだから。」

「湊人が?」

少し離れたところで聞いていた湊人が不機嫌そうに、こちらを見た。

「おはよう、少し待ってくれれば、一緒に車で来られたのに。」

陽織が声をかける。すると、

「はあ?陽織と一緒なんて、朝からバカップルの、嫌なもん見せられるじゃん!」

と湊人がちょっと大きな声で言ってきた。

もう大学生だと言うのに、全然変わらないなー。と、陽織は思いながら

「ん?湊人くん。今、なんて言ったかな?昨日、約束したよね?わたしのことは''お姉さん"って呼んでね!って。」

羽織たち3人は、あっと思った後、大爆笑した。


「は?してねーし。だいたい無理に決まってんじゃん!俺はもう19だけど、お前18じゃん!」

子どもかお前は?と、2人の友人は呆れて湊人を見ていた。


「相変わらず仲良いね。」

と、5人に声をかけてきたのは、同じ元Sクラスの、田神颯斗だった。

「あれ?神月さん、もう学校来ても大丈夫なの?」

「ありがとう、田神くん。あと、わたし神月じゃなくて、神代だから。」


そこに佳織もやってきた。

「おはよう。あれ?神月さん、入院してたんでしょ?大丈夫?」

と声をかけてくる。

「ありがとう。あと、わたし神月じゃなくて、神代だから。」


   神月?ひおり?

陽織たちから、少し離れた机にいた女子大生が、陽織の顔を見て驚いた。


颯斗と佳織の2人は不思議顔をする。

そして、神代湊人を見る。

「お、俺じゃねーからな!俺とは関係!なくもないかと。と、とにかく、こいつは、卒業して速攻で、ウチの兄貴と結婚したんだ!」

そして、速攻で子どもを作ったと言いたかったが、そこは我慢した。

と、2人から目を背けて、言い放った。


そんなこんなで騒いでいるうちに、先生が講義室に入ってきた。

陽織は、毎時間教室が違うことや、講義の初めに、机の右上に学生証を置くと出席、はずすと退席になることを、羽織から教えてもらった。


その日は、その後に栄養基礎学、食品衛生学、一般教養の法学があり、授業が終わる。


1コマ1コマが90分は、初めての陽織には少し疲れる。でも、ずっと寝たきりだった4月のことを思うと、すごく楽しい。


1日の授業がおわり、陽織と羽織が大学の門まで歩いていると、後ろから声をかける人がいた。

「神月さん?陽織さ、ん?」

陽織が振り向くと、見知らぬ人が立っていた。

「え、と。わたし菊池、菊池日緒理、覚えてる?」

その人は、陽織にそう言った。


同じ''ひおり"と言う名前だから気になっていた。

三年間ずっとトップの日緒理に、一度だけ土をつけた人。忘れるはずがない!

日緒理はそう思って声をかけた。


しかし陽織は首を傾げている。

「あ、菊池さん!陽織、紹介するね、実験や実習班が一緒の菊池さん。そう言えば、同じひおり、なんだね。あと、笹本さんもね。」

実験?実習班?と、陽織が聞くと名前の順、と羽織が答える。

 かんざわ、きくち、こうしろ、ささもと、なるほど。

陽織には、残念ながら菊池日緒理の記憶はなかった。


5月中旬に黎人の誕生日があり、周囲の人のおかげで、陽織は順調に日々を過ごすことができた。

それでも、毎日霊力がお腹の中の子に、奪われていくのは変わらない。

黎人がその分を補給するが無理のできない今、徐々に減っていることに、陽織自身は気づいていた。


そんな黎人の誕生日に神鬼が、たまには、と言ってくれたので、とにかく陽織の霊力を満タンにしてもらった。神鬼は、気をつければ大丈夫、と色々黎人にアドバイスをしているらしい。

それでも、神力を完全に得た陽織には、正確な満タンには程遠かった。


そんなある日、陽織のお腹が目立つ前に、と、神代家で久々の女子会を開かせてもらうことになった。

土曜日、理系は午前中に授業があるので、美織と千織が、理系の学食で2人を待っていた。


「美織、千織、お待たせ!」

羽織は陽織の他にも、湊人や翔太も連れて学食にやってきた。

「ま、湊人、くん。その、久しぶり。」

千織が顔を赤らめて挨拶をする。


   ハハーン!これは何かあったな!

   絶対に聞かねば!

と、友人たちはニヤニヤしている。


「湊人ー、今日千織も泊まるけど、湊人の部屋に連れ込んじゃ、ダメだよー!」

「は?んなことしねー!って、母屋に泊まるの?」

「うん。わたしたちの家は、和室がないから。」

「黎兄は?」

「しょうがないよー、今夜は1人だよー!」


などと、久しぶり揃った4人でキャッキャと騒いでいると、学食に黎人が入ってきた。


黎人がはいってくると、学食にいた、一般の女子が一斉にふり向く。

「誰?あの人。」「なんか、かっこいいんだけど。」

「あ、わたしテレビのビジネ情報のコーナーで見たことある!」

そう。最近は神代製薬の若き社長としても、メディアから注目されているので、余計だ。


さらに、明王附属の元Sクラスで、黎人を知らない人はいない。

「あれ?黎人先輩?」

「文系じゃなかったっけ?」

「黎人先輩、飛び級で去年卒業したんだよ!」

と口々に騒いでいる。


「お待たせ。あれ?湊人もいたんだ。んー、でも5人は乗れないなー。」

「オウ、俺は午後も授業だから、気にしないで帰ってくれ。」

湊人は手を挙げて、学食を出て行った。


黎人が陽織たちに声をかけただけでも、周りから注目されているのがわかる。

(やっぱり、黎人さんは誰が見てもカッコいいんだなー。)

と陽織は、少しだけヤキモチをやいて。


黎人は、陽織に腕を貸すと、3人を連れて学食を後にした。すでに周囲の女の子の羨望の眼差しが痛い。


黎人の家、と言うより、今日は母屋にお世話になる。

女の子がいない神代家では、4人も女の子が集まるのは、はじめてのこと。

夕飯の時も、食後も、本当に賑やかだった。


今夜、陽織は母屋で寝る。

黎人だけは、渋々家に帰って行った。

その夜は神代家の客間に布団を敷いて、大学生活や好きな人との恋の進展を互いに報告しあう。

特に、陽織が初めて産科に行って、入院となる前の話は、大爆笑ものだった。

12時近くなり、また明日と言って4人は寝た。


夜中の一時頃、陽織はトイレに行くため部屋を出た。廊下を歩くと、キッチンに灯りがついているのに気づき除くと、湊人が水を飲んでいた。

「あれ?眠れないの?」

と声をかけると、喉乾いた。と答える。

「そうだ、黎兄の部屋見たくない?」

といたずらっ子のように湊人が言う。

見たいと、陽織が答えると2階に案内された。


階段を上がると左右に分かれていて、左手が3人息子の部屋だった。そして、一番奥が今は使われていない黎人の部屋。


湊人は黎人の部屋に入ると、椅子に座り、陽織は黎人が使っていたベッドに腰掛ける。

本がすごい。本好きの陽織でも、見たことない難しい本ばかりだ。

本棚、カラーボックス、ちょっとした隙間にも本がある。黎人らしい。陽織はクスッと笑った。


すると、突然、湊人が軽井沢の時の、兄弟会議の後の話をし出した。

陽織のことが好きだと、2人の兄に見透かされていたこと。千織も気づいていたこと。

黎人に睨まれて牽制されたこと。

あの時の告白は冗談じゃなかったこと。

結婚式の披露宴の後、自分の名前を呼んで倒れた陽織を見たとき、もしかして、と思ったこと。

(どうして、今さら?)

陽織の頭が警鐘を鳴らす。その時


(い、いや!やめて!)

湊人の顔が陽織に近づく。

(な、なんで!)

もう少しで、唇がつきそうになった時、部屋の扉がバン、と開く。

「何やってるんだ!夜中に2人で!」

黎人だった。


陽織は慌てて立ち上がり

「れ、黎人さんの、部屋をみせて、もらってたの。」

と、笑う。動揺して胸が苦しい。

湊人も

「ほ、本人来たから、じゃ、おやすみ。」

と慌て出て行った。


陽織の顔は真っ青だった。

「陽織?湊人に何かされた?」

陽織は首を大きく横に振る。黎人が陽織の肩を強く掴んで揺らす。

「陽織!」

「だ、大丈夫。ちょっと、階段あがったから、少し、息、上がった、だけ。」


湊人が部屋に戻ると、扉の前に千織がいた。

湊人はただ黙って、千織を抱きしめるとそのまま部屋の中へと2人で入って行った。


「湊人、時にはね、恋と結婚は別になることもあるんだ。」

あの日、悠人に言われたことを思い出す。


黎人は陽織をもう一度座らせて落ち着かせる。

陽織は口元を押さえて真っ青な顔をしていた。


黎人はしばらく陽織を抱きしめて黙っていた。

「大丈夫。」

陽織が、小さな声で答えた。まだ、少し震えている。

「黎人さ、ん。大好き。」

陽織が黎人の胸に甘えてきた。今日は友だちがいるから。と、さっき別れたばかりなのに。と思いながら

黎人は陽織に口付けをする。何度も何度も。


「陽織、美織ちゃんたちが心配するから。」

黎人はそう言って陽織を客間に送った。

「陽織、お腹、気をつけて。」

「うん。」

そうだ、ここには2人にとって、かけがえのない大切な命がいるのだから。

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