陽織、離婚の危機!(新婚編)
目が覚めると、見慣れないベッドの上だった。
??
陽織は昨日、披露宴が終わったと同時に、意識がなくなったことを思い出した。
ここは披露宴会場となったホテルのスイート。
陽織が目を覚ますと、隣にちょっと不機嫌な黎人の顔があった。
なせ?
どうして?
新婚初日に、そんな不機嫌な顔をされるなんて!
陽織は意味がわからず涙目になる。
すると、黎人がはあー、と大きくため息をついた。
もしかしたら、寝ちゃったから?
「あ、の、黎人、さん?おはよう、ございます。」
陽織は恐る恐る、黎人に挨拶をした。
「ねえ、陽織?結婚式の日の最後に、何を言ったか覚えている?」
?
黎人に、いきなりそう言われて、意味が全くわからない。
わたし、最後に何やらかしたのだろう?
「ねえ、陽織は誰と結婚したか知ってる?」
「?黎人、さん?」
正解、と黎人がキスをした。
「なら、どうして、僕じゃない人の名前を口にしたのかなー?しかも、倒れる前に!」
と言った後、
「誰の名前を言ったか、覚えてる?」
と、追いうちをかける。
え?え?誰?わたし、誰の名前を?
と考えて、もしかして、と目を逸らした。
たぶん言ったら、一番やばい名前を。
「え、と?みな、と?」
と答えると、黎人の声と顔が怖い。
「そう。正解。」
なんでだーっ!?
陽織は頭を抱えたくなった。
訳がわからない!
とにかく疲れていたのは、覚えている。
陽織は黎人が不機嫌な理由がわかり、涙目から、本当に涙が溢れた。
「ご、ごめんな、さい。ごめんなさい。わたし。もしかして、みんなの前で。」
それはそうだ。結婚式の最後に、花婿ではない男の名前を言って、倒れるなんて!
しかも、陽織自身が仲良しの弟の名前!
色々誤解されても、仕方がない。
しかも、黎人の会社関係の人がまだ残っていたかもしれないのに!両親だっていたのに!
「わたし、どうしたら。」
陽織が本格的に泣き出した。
「まあ、理由が英語のノートだから、いいけど。」
黎人がそっぽを向いて、ぼそっと言った。
??
「とにかく、もしまた、僕と一緒の時に無闇矢鱈と、湊人や他の人の名前を言ったら、次は許さない!」
黎人は怖い顔でそう言って、陽織を押し倒してきた。
「は、はい。」
黎人は陽織には優しい。
基本、甘々なくらい優しい。
でも、怒ると怖い。
一年前にも、3回の披露宴が嫌で、結婚辞めたいと言った時は、すごく怖かった。
ただ、今はその比ではない!
結婚初日で、離婚の危機だ!
11時には2人も家族も、みんな宿泊していた人はチェックアウトになる。
黎人は明日から、また仕事。新婚旅行どころではなかった。
それに陽織も、もしかしたら、ということになったので、どちらにしても旅行どころではない。
チェックアウト後、新しく親族になった神代家と神月家、全員でランチを取る。
その時、陽織は全員の前で、謝罪をした。
「す、すみません。昨夜、疲れていたとは言え、わたし、皆さんにご迷惑をかけるようなことを、言ってしまったみたいで。」
立ち上がって頭を下げると、みんなポカンとした後、ワハハと笑い始めた。
「まあ、最初は正直固まったよね。倒れた、と思ったら、いきなり“湊人"だもん!」
悠人が笑いながら言う。笑いすぎて涙が出てる。
美咲も涙を流しながら笑っている。
陽織の家族は知らなかったらしく、唖然としていた。
正直、両親は何やらかしてるのだ!と言う顔で、
兄2人は、やっちやった、と言う顔で苦笑している。
当の湊人は、と言うと、こちらも不機嫌極まりない顔で、睨んでいる。
「なんでお前、披露宴あげながら、勉強のことなんて考えてたんだよ!」
と、怒鳴られた。
勉強?
「ほら、学年末の最後の前の日、ノート交換したじゃん!英語と古文の。」
ノート?交換?
そう言えば、あったような?
笑い尽くしたのか、そろそろ収めたかったのか
「いいじゃない、それだけ陽織ちゃんは、勉強も、昨日も、一生懸命頑張った、ってことよ!それより、ほらほら食べましょう!」
と、美咲が場を収めてくれた。
陽織の反対側に座っている悠人が
「黎人、新妻にいきなり威圧かけて怒ったら、可哀想だよ。」
と苦笑しながら、釘を刺していた。
でも、それだけ黎人には我慢ならないことだったのだと思うと、本当に申し訳ない。
黎人はまだ、ちょっと怒っているのか、今朝から一度も笑ってくれない。
もう本当、泣きたい!
そのあと、解散になって、美咲たち親子は運転手が迎えに来た車に、陽織は黎人の車で、神代家の屋敷に戻った。
家の中に入って、とりあえず、と陽織が荷物を置いてお茶の準備をしていると、黎人が後ろから抱きしめてきた。
「ごめん。大人気なかった。」
と。そして、そのまま、2階に上がってしまった。
陽織は火を止めると、その場に泣き崩れてしまった。
自分でやらかしたことなのに、もう本当におバカ過ぎて、どうしたら良いのかわからない。
辺りが暗くなっても、下から何も聞こえない。
不思議に思って階下に降りると、陽織がキッチンの床の上で泣いたまま、倒れていた。
やり過ぎた、と思った黎人は駆け寄って陽織に声をかけた。
「陽織?陽織!」
陽織は、気づくと真っ赤な目をこすりながら、さらに赤くして起き上がる。
「あ、夕飯、作らなきゃ。」
ヨロヨロ立ち上がると、フラフラしながら
「簡単なもので、ごめんなさい。」
と言いながら、大きな鍋にお湯を入れて蓋をし火にかけ始めた。徐にパスタを取り出している。
まだ、昨日の疲れが残っているのに。
貴重な一日だったのに!
自分が不機嫌になったせいで、2人の大切な時間を無駄にしてしまった、と黎人は猛省する。
「陽織、昨日頑張ったんだから、座って。僕が作るから。」
と陽織に声をかけるが、聞いているのか、フラフラしながら、パスタを鍋に入れている。
しかも、一袋まるまる!?
「ちよ、ちょっと!茹ですぎ!陽織、座ってて!」
黎人は陽織を抱き上げて、ソファーに座らせた。
陽織と違い、簡単なものしか作れないので、レトルトのソースを探した。
陽織が好きな海鮮がない!
仕方ないので、和風ソースを取り出すと、茹で上がったパスタを皿に盛り付けて、温めたソースに絡めた。
フォークとパスタが乗った皿、そして小皿をリビングのテーブルに並べた。
小皿に取り分けて、陽織の前に置く。
「いただきます。」
と黎人が食べ始めると、陽織も、もぐもぐと、少しずつ食べることは食べていた。
ほぼ無意識で。
そのまま、小皿一皿分を食べると、そのままコテンと、倒れる。
「ちよ、このまま寝ちゃだめだよ!お風呂、お風呂入ろう!陽織は昨夜も入ってないんだから!」
そう言われて、陽織は急に覚醒した。
(お風呂、入ってなかったの?昨日の朝からずっと?そう言われてみれば!お風呂も入らず、今朝、わたし黎人さんに抱かれてたの?!?!)
ウワーッと、一気に恥ずかしくなった。




