陽織、ナンパされる
湊人は黎人たちの真似をして声をかけた。
ただ、確かに学生証がない4人にとって、これは下手したら詐称になる。
やばいやばいやばい!
しかし、声をかけた青年は、感じの良い人だった。
「あの、サークルで、その、人魚とか、龍とか、河童とか、その怪奇現象みたいなモノを調べてるんですが。この辺で、人魚が出るって聞いて。」
湊人ははじめしどろもどろで話を始めたが、途中から度胸が座ったらしい。
青年は、ニカっと笑うと
「あはは、あんな噂信じてるの?」
と、噂の域と考えていた。
「そうなんですね、残念。海の事故とかも、あまりないんですか?」
と、陽織が湊人の横から声をかける。
すると、ちょっと青年の顔が変わった。
「へえー、きみ、可愛いーね。」
と。
すると、湊人が陽織を後ろに隠すようにするが、陽織は気にしない。
「えー、わたしたち人魚が、何かしてるって噂聞いてきたんですー!」
と、気にせず話を続けた。左手の薬指の指輪をさりげなく見せながら。
「え?もしかしたらこの子の彼氏?」
「えー、違いますー!わたしの彼氏じゃないですよお!タイプじやないしー。」
陽織はニッコリと微笑む。
青年は、さっきまでと少し違う。いかにも陽織に下心がありそうな感じに変わった。
「まあ、ひと月前くらいに、何度か釣船が難破した、って言う事故が続いたことはあったけど、そんなの台風が来れば、珍しくないしね。ねえ、それより、夏にまた来ない?案内するよ。」
青年がさりげなく、陽織の右手を握って引っ張ろうとした。すると、バチッと静電気のようなものが走り、青年は手を放す。
その隙に、陽織は
「ありがとうございましたー!じゃあ。」
と言って、美織たちを引っ張り早足で、移動する。
青年の姿が見えなくなると、美織がアルコールスプレーを出して、陽織の右手にシュッシュとかけ始めた。
陽織は肩で息をして、下を向いていた。
「だ、大丈夫か、無理すんなよ。」
「う、う、美織ちや、ーん。」
陽織が泣いて美織に縋る。
怖かったー!
「もう、陽織に何かあったら、黎兄に怒られんの俺なんだから!もう、黎兄に殺される。泣くならやるなよ!」
湊人が頭をガシガシやりながらぶつくさ言った。
「だって、湊人じゃ何も聞き出せないじゃない!」
「あ、わ、りー。」
しばらく民家はあるが、人の姿は見えない。冬だから、みんな家の中にいるのだろう。
「それにしても、さっきの静電気みたいなのは、何?」
千織が陽織の右手を見る。
「んー、たぶん黎人兄上が、陽織に色々結界みたいなもの、お守りとか?張ったり付けたりしてるんだと思う。」
「でも、翔太くんと、ハイタッチしてたよね?」
「翔太は、下心ないからじゃね?陽織は好みのタイプじゃないって、言ってたし。」
あー、と3人は羽織を思い出して納得した。
夕方、和嶺たちと合流すると、商店街でも釣り船の事故はちょっとした噂になっていた。しかも、その時必ず、海に人影のようなものが見える、と。
そのため、今年の秋から釣り客がめっきり減って、土産物や釣具、釣船などで生計を立てている家が、少々厳しいらしい。
しかし、そこに人魚の噂が出たので、陽織たちのような、物好きな観光客が、徐々に現れている、と言うことだった。
「人魚は観光客を寄せるための、フェイクとも考えられるね。」
「でも、事故が起きた船には人影が見えたんだよな。」
「それを人魚って言う噂に変えたのかな。」
「もし人魚ではなく、霊的なものが原因なら、こちらの仕事だけど、前の時より人数少ないよね。大丈夫かなー。」
ホテルの一室に集まって、情報整理をしていると、山組が帰ってきた。
「悠人さん、おかえりなさい。」
和嶺が声をかけ、それぞれの状況を話す。
山組はもうすでに、解決したとのこと。
「え?早い。」
「こっちは、誰かが山の祠を壊して、それが原因だったから。ちゃんと直して、祓って、ほぼ完了、だったよ。海は?」
悠人に聞かれ、和嶺は去年のGWの依頼にちかいかも、と答えていた。
「アレに近い、ってなったら、大事だね。陽織ちゃんがまた溺れたら大変だ。」
「もしかしたら、神嶋、それ知っていて、最終的に全員で当たれ、って考えてたのかなー。」
翔太が良いように捉えているのに、誰も賛同してあげない。
「イヤイヤ、何も考えてないよー。」
「どうせ、適当に、近くのものが二つあったから、くらいなもんだよ。」
旧成人2人と湊人と翔太が話をしていると、もう一つのグループで、先ほど別れた青年の話が出ていた。
「え。陽織ちゃん、ナンパされたの?」
「大丈夫?」
ナンパの言葉に、悠人はもちろん和嶺も、そちらに顔を向けた。さっきまでの話では、聞いてない!
「大丈夫だったか?」
和嶺がいつのまにか隣に来ていた。
「わ、和兄様。」
「何もされなかった?」
「だ、大丈夫だよ!ちょっと手を握られたけど、黎人さんの結界が弾いてたから。」
その言葉に和嶺がちょっと顔色を変えた。
「大丈夫じゃない!もう、陽織に何かあったら、黎人さんに殺される。」
なぜか、兄までもが湊人と同じことを言ってる。
夕食後、色々と整理して、海は全員で当たることになった。
「陽織は、明日からお留守しようね。」
と和嶺に言われ、ぶーッと陽織が膨れた。
「大丈夫だってば!」




