陽織、最後のお仕事
皆さーん、高校最後のお仕事です!
と言うメッセージが来たのは、卒業試験の5日後だった。
9人は2つのメンバーに分けられて、2つの依頼に行くことになった。さらに、プラス1として、巻き込まれ体質の颯斗が羽織たちのグループに入れられている。
陽織は、湊人、千織、翔太、美織と和嶺がリーダー。
羽織、葉鳥、宏輝、克哉、颯斗、そしてこちらは悠人がリーダーを務める。
使役龍と巫女が2組いる陽織たちの方が、重いと言われたが、場所は同じ温泉地だった。
湊人たちが卒業旅行に行きたかったのに!と文句を言ったら、ぜひそこの温泉地を楽しんでくれ、とお仕事含め、三泊分の宿泊準備がされていた。だがお仕事次第で、自由時間がどれくらい取れるかわからない。
大学は後期試験が終わったが、黎人は論文提出と、今いるグループ会社から、親会社への移転の引き継ぎで忙しい。
神代家の御大、黎人たちの祖父が引退することで、神代製薬は父の蓮也が会長に、黎人が社長職に就くことになってしまった。
そのため、結婚式を前に、黎人は今まで以上に忙しくなってしまったのだ。
陽織は黎人をサポートしたいのに、こちらの案件を聞いた結果、同行することにした。
卒業して大学生になると、リーダーとして報告書の作成なども必要になる。
それを学べと言うことも含まれていた。
「同じ市内で片方が山で、片方が海です!」
と神嶋が言う。
黎人は文句を言いたいが、文句の電話をかける時間もなかった。
「陽織、本当に気をつけてね!困った時は、すぐに白桃を発動して!いざとなったら、湊人を盾にし逃げて!」
悠人の車に乗る時、黎人が何度も何度も、そう言った。陽織は神代家の大型ワゴン車に、悠人、湊人、千織と一緒に乗り込んだ。
人形供養の寺と言い、ここのところ、黎人が手を出せない場所で陽織がお仕事している。それが黎人には不安だった。
「ウー。ジシイめ!こんな時に退任なんてして!」
と最後に悠人に怒ってた。
悠人は黎人に
「仕方ないよ、陽織ちゃんのことは、任せて。」
と言って、車は走り出した。
途中で、陽織たちは和嶺の車に乗り換える。
陽織は最後まで、悠人の車が良い、と言っていたが、一応グループ上、現地での移動場所が違ってくる。
「うっうっ、和兄様の車ー、怖い〜!」
と言ったら、湊人が運転する、と言ったので、すぐさま却下した。論外!
ホテルに着くと、それぞれのリーダーが、今回の依頼について説明する。山組は近年増えている、熊や猪などの害獣案件。
「俺たち、マタギじゃないんだけど。」
と宏輝たちがなぜ?と言う顔をしていた。
海組は人魚騒ぎ。
「神様がいるくらいだから、人魚いても良いじゃん!」
と言う湊人の意見に、みんな同意だ。
ただ、本当に今回神嶋が用意してくれたホテルは、なかなかなもので、3泊4日温泉と豪華料理付きだった。
海と山に分かれたものの、陽織たち4人は一緒、残りの4人部屋も、男性8人が2組に分かれた。
「僕と和嶺は打ち合わせもあるから一緒で、湊人と翔太くんも一緒がいいよね。和嶺に大学のこと、色々教えてもらうと良い。」
最年長の悠人さんが男子組を仕切っていた。
部屋割が決まると荷物置いて、早速現場に行く。
羽織は、わたしだけ別ー!と泣いていたが、宏輝たちに引きずられて連れて行かれた。
「海は歩けるんだ!良かったー!和兄様も、湊人も絶対運転しないでよね!」
陽織は2人に釘を指す。
「おれ、あれから練習したのに!」
と、湊人は文句を言っていた。
山がすぐ近くまで迫る冬の海岸には、人がほとんどいない。2月、と言う時期もあるのだろう。これなら、何があっても一般の人は巻き込まれない。
それだけが陽織たちにとって一番の安心材料だった。
たぶん、このメンバーは以前の海案件の経験者を集めたのだ。
美織の言葉に、陽織も千織も納得した。
「陽織ちゃん、絶対に引きずられないでね!あまり海の方に、近づきすぎないように!」
美織が拳を握って力説した。
海岸に着くと、自然湊人と千織、和嶺と美織が寄り添うように立つ。
翔太は陽織の横に立って、この前湊人が話していた続きのようなことを話し始めた。
「俺たちってさ、一年生の頃、めっちゃおバカ組だったじゃん!」
いきなりの発言に陽織は顔を顰める。
「でもさ、俺も補欠でったけど、医学部だぜ!陽織も、俺も、すっごく頑張ったよね!」
翔太がニカっと笑って陽織を見た。
そして、ちょっと嬉しかった陽織も笑って、思わず2人でハイタッチした。
それを見ていた湊人が
「何やってんだ?あの2人。」
と呆れた声で言う。
「まあ、最後は陽織に救われたって言うか、あ、でも泣いてる陽織を学校まで運んだの、俺と湊人だからね!」
と余計なことまで、思い出させる。
うー!と、陽織は
「翔太のばかっ!」
とポカスカやり始めた。
知らない人が見たら、仲の良い高校生カップルのようだが、翔太は湊人ほどじゃないけど、陽織にとってやっぱりチームメイトだったんだ!と思った。
「羽織ちゃん、泣かせたら許さないんだから!」
陽織が海を見ながらちょっときつめに言うと、翔太はアハハと笑った。
しかしその時、海の中に何がが見えた。
そして、ぽちゃんと水が跳ねた。
人魚?
自然と6人が陽織たちの方へ集まってきた。
一番気づきやすい陽織が頼りなのだろう。
「陽織、あれは?」
と和嶺に聞かれ、陽織は目を凝らす。
「んー。あれはダイバー?人間っぽいって言うか、スーツ着てるっぽい。」
それを聞いて、みんなガッカリする。
「人魚かー。本当にいるのかー?」
「でもロマンだよねー!」
「いたらどうするんだ?」
「神嶋の話だと、悪さをしなければ放置だけど、例えば海を荒らして船を難破させる、なんてことがあれば、考えるって。」
和嶺の言葉に、ほか5人は顔色を変えた。
「イヤイヤイヤ!生きてるモノを退治しろとかなら、俺パス!」
「わたしもちょっと。」
「だいたい、物理的に無理でしょ。」
「無理無理!いくら悪さするって言ったって、そんな怪獣退治じゃないんだから!」
と口々に言う。
そして、想像した陽織が
「き、きぼぢ悪、い。」
と、うずくまる。
「まあ、夕方まで待って、何も起こらなければ、今日は一旦情報集めで終わろ。むしろ、夕暮れ時になったら、他のモノの方がやばい。」
そこで、和嶺と翔太、湊人と女子3人に分かれ、周辺の事情聴取をすることになった。
湊人を女子と一緒にしたのは、女子3人の安全のためだ。
初めて和嶺と2人きりになった翔太は、すごく緊張していた。憧れの先輩!
「翔太くんは、医学部なんだよね?」
「は、はい!」
声が裏返りそうになる。
「湊人と、翔太くんには、色々感謝してるんだ。」
和嶺がいきなり、そう言った。翔太は?という顔を浮かべる。
「美織たちはもちろんだけど、陽織が高校、すごく楽しそうだったのは、きっと翔太くんたちのおかげです。ありがとう。」
和嶺の笑顔に翔太は顔が赤くなった。
「陽織ね、中学までは友だちいなくて、学校行かなかった。不登校ってやつになるのかな。高校も初めは、イヤイヤで。」
和嶺は、思い出すような声で語る。
「家で学校のこと話すなんて、初めてだった。湊人のこともよく言ってたけど、翔太くんの名前も、良く出てたよ。」
ウワーッ、何言われてたんだ?
と一気に恥ずかしくなる。
あ、でもこの話はないしよね、と和嶺に言われ、コクコクとうなづいた。
すると、この海岸沿いにある商店が見えてきた。
湊人は、女子3人がワイワイやる後ろを歩いてる。前だと気づかない時があるから。
時々千織が後ろを振り向くが、なんとなく恥ずかしくて顔を逸らす。
陽織は美織と2人で楽しそうに話している。
誰よりも一番近い人と、誰よりも一番大切な人が違うことってあるんだな。
3人の姿を後ろで見ながらそんなことを考える。
3人がしばらく歩くと、民家が見えてきた。
洗車をする若い男性が見えた。
声をかけてみようか、と3人の話し声が聞こえた。が、待て!このメンバーが声をかけたら、守れる自信はない!と湊人はかけだして、横に並んだ。
「どうしたの?」
千織に聞かれたが、湊人は黙って、その青年の方に近づく。
「すみません。地元の方ですか?」
湊人は青年に声をかけた。
「ぼくたち、明王大学の学生なんですが。」
学生証見せろって言われたらどうするんだ!
と、3人は湊人の後ろでハラハラしながら見守った。




