陽織、車の練習に付き合う
一月最後の日曜日。千織のスマホに、朝9時半、マンションの前で待っているように、と言う湊人からのメッセージが入った。
とりあえず、出かける支度をしてマンションのエントランスを出る。
すると、マンションの車止めに、見たことのある車が入ってきた。しかも、運転しているのは、湊人!?
「千織、お待たせ!」
爽やかに?湊人が手を降り、助手席に千織を乗せようとすると、後ろから黎人が出てきて
「湊人、助手席は一番危険なんだ!俺が座る!」
と座り、後部座席のドアの中から、陽織がこっちこっち、と手招きする。
そして10分後。
車はスタートした。
「湊人、車線変更はもっとさっさとやる!」
「ウインカー、もっと早く出せ!」
「今の黄色はアウトだ!」
「ブレーキは、しっかり踏め!」
と、助手席からの叱咤を延々30分以上聴きながら、湊人が運転する車は、黎人たちの披露宴になるホテルの駐車場に入った。
「もう、黎兄、うるさすぎ!落ち着いて運転できないだろう!」
「俺の車だ!事故起こしたら、どうするんだ!」
と、車を止めたあとも言いあってる。
「あ、あの湊人くん、免許取ったんだね。」
千織が、苦笑しながら言った。それに対して湊人は自信満々に
「おう!一昨日な!本当は、今日千織とドライブするつもりだったんだ!」
と、黎人たちを睨んだ。
その返事を聞いて、千織はちょっと青くなった。
免許取りたてで、ドライブ。
「ごめんね、千織ちゃん。湊人の練習付き合わせちゃって。」
陽織が黎人に代わって謝った。
「は?陽織は俺のオカンか!?黎兄はうるさいし!」
「だったら、レンタカーでも借りろ!」
と兄弟で言い争いながら、4人は中へ入った。
これ以上喧嘩になると困るので、2時間後にホテルのフロント前と約束して別行動にした。
ことの発端は金曜日。湊人が新しく取得した自動車免許を持って、帰ってきたところから始まった。
免許は取ったら、なるべく早く運転の練習をした方が良い。そう教習所で言われて、湊人は日曜日に練習したいと言い出した。
しかし、父の車は外車のセダンタイプと、これまた外車のコンパクトカー、そして大きなワゴン車。悠人は特に自分の車はなく、父の車を使っている。母は運転手付き外車でいつも移動。とにかく左ハンドルの外車は、免許取りたての湊人には、ハードルが高い。
そして、一番に狙われたのが、黎人の国産SUV、HONDAのZR-Vだった。これだって、国産とは言えアクセサリー諸々で500万以上の高級車だ。下手な外車より高い。
その上、日曜日は陽織と披露宴をするホテルでの打ち合わせが入っていた。当日の料理と座席表の確認だ。
そこで美咲は、それなら湊人の運転で行って、ダブルデートをしてくれば良い。隣に黎人が乗れば、安全だ、と言い出したのだ。
しかし、湊人も陽織も黎人の鬼教官を知っているので、すごーく嫌な予感がした。
で、今に至る。
黎人はホテルのブライダルの人に案内されながら、すごーく疲れた顔をしていた。
「お仕事、大変なんですね。」
と、言われたが、陽織は笑うしかなかった。
湊人と千織は、ホテルを出て近くの美術館や博物館に行ったり、ウインドウショッピングを楽しむ。
2時間後、4人はホテルのレストランで、ランチを取ることにした。
「え?ウチのスイート空いてたのに、部屋には行かなかったの?」
2人が外にいたことを知って、黎人が少し驚いた。
そう、ここにはいつも悠人が使う、神代家専用の部屋がある。
湊人と千織はそう言われて、はじめは何を言われたのかわからなかった。が、
「れ、黎人さん。あの、千織ちゃんたちは、たぶん、その、まだ。」
と陽織の一言で、何を言われたのか理解した。
そして、黎人もごめん、と赤くなっていた。
「俺も車が欲しい!」
食事をしながら湊人が言った。
「でも、父上は医学部の湊人に、ウチの仕事はさせないって言ってたよ。単位落としたら困るから。」
「当然だよねー。和兄様は医学部に行きたい高校生の家庭教師してるよ?バイト代はそこそこになるって言ってた。」
うっ、と湊人が青くなる。
確かに医学部はバカスカバイトするわけにはいかない。経営をするわけでもないから、兄たちのような仕事は当然、やらせてもらえない。
「湊人くん、別に車かわなくても、良いと思うよ。悠人さんも、おウチの車お借りしているんでしょ?」
と千織に言われて、湊人は、うーん、と唸っていた。
「それに、高嶺兄様も、和嶺兄様も、自分の車はまだ持ってないよ。家の車を使っているよ?和兄様も、運転怖いけど。」
「確かに、神嶋さんの依頼がある時は、車あると便利だけど。」
と黎人に言われた途端、湊人は車はまだいいや、と言った。
食事の後、まだ湊人に運転させるかどうか、3人は話し合い、結局黎人の運転で、お台場へ行くことになった。千織が行ってみたい場所があるらしい。
黎人は以前仕事で来たとき、陽織に見せたいと思った場所があるらしく、そこからは別に行動することになった。
「俺と、千織は地下鉄で帰るから、あとはいいや!」
と湊人が言うので、黎人は近くのコインパーキングに車を止めた。
夕暮れ時、夢の大橋と呼ばれる橋の袂に立つと、夕焼けと橋の上の街灯と、その向こうのビル群が、幻想的な景色を生み出す。
「綺麗。」
陽織は、その景色に見惚れているが、黎人は抱きしめて離さないようにする。
夕暮れ、橋、水、海。
霊が好む陽織を一人で立たせる危険性を理解してはいた。それでも一度見せたかった。陽織が好きな、ビル群と夕暮れのコントラストが美しい景色。
だから、細心の注意をし、陽織の周りに結界を張り、後ろから抱きしめ、寄ってきそうなモノは、小龍に任せた。
「黎人さん、凄く綺麗。」
「うん、以前見た時、写メ撮ったけど、やっぱり実物の方がいいかな、と思って。」
「ありがとう。景色も、黎人さんも、大好き!」
陽織は陽が沈むまで、その景色を堪能していた。
2人が車で帰ると、湊人はまだ帰ってなかった。
その頃、湊人と千織は、ホテルに戻り、黎人が教えてくれた、神代家のスイートにいた。




