陽織、イチャイチャ
1月8日、最後の始業式。
陽織は黎人の車で学校の中まで送ってもらう。
以前、陽織は学校の正門でパパラッチに絡まれたことがあったので、黎人は中まで車を入れた。
運転席から一度おりると、手を出して助手席の陽織を降ろした。そして、そのまま、陽織と互いにいってらっしゃいのキスを落とした。
もちろん、その様子は登校してきた、他の生徒の目にも留まり、きゃーっ、と言う黄色い悲鳴が上がる。
「い、今の、黎人様と、陽織様!」
「すてきーっ!」
「わたしも、あんな素敵な伴侶が欲しい!」
後輩の女の子たちが、皆2人に注目していた。
すでに、Sクラスの後輩たちは、2人が今の神様と花嫁であることを知っている。そして、十神家の子どもの間では、もうすぐ婚姻の儀が行われることも、すでに周知の事実になっていた。
「陽織先輩、おはようございます。」
「おはようございます。」
「陽織先輩!もうすぐ、ご卒業ですね。」
以前では考えられなかった、後輩たちの憧れの女の子。医学部合格、と、その辞退と言った流れ。それを知った後輩たち。後輩たちから、陽織はすっかり憧れの存在になっていた。
「陽織様は、ご結婚のために医学部をご辞退されたのですって。」
「素敵ですわ!医学部に合格されたのも素晴らしいですが、花嫁としての責務を果たすことを優先されるなんて。」
一般の学生には理解できないことも、Sクラスならではの反応に、正直陽織は驚いていた。
「だからと言って、校舎の入り口でイチャつくんじゃない!」
教室に入るなり、大神に怒られた。
始業式の日、3年Sクラスは全員大学への合格を決めているので、大神も気持ちが楽だ。
あとは、色々な進学への確認や、卒業式の練習。湊人には、高校卒業式の代表挨拶と、新入生代表で、大学の入学式の挨拶文のチェックなどもあった。
「面倒い。陽織、どっちかやってくんない?」
湊人に言われたが、陽織は生徒会役員ではない。
「副会長の笹本さんに、お願いすれば?」
と陽織に言われた。笹本はあれから湊人たちにちょっかいを出すのはやめていた。
あくまでも、ただの同じ生徒会役員。同じ学年の友人になった。そうしないと、同じ農学部に行く、陽織にも迷惑をかける。
「いや、頑張る。黎人兄上に色々とアドバイスしてもらっているし。」
黎人は3年前、新入生代表で大学の入学式に挨拶をしていた。ちなみに、高校の卒業式は悠人だった。
「俺も、双子だったらなー!」
とわけのわからないことを、湊人が言いだしたので、
「和兄様も、湊人と同じ、両方やったよ。」
と言われて、ちょっとやる気が出た。和嶺はなんといっても、湊人の憧れだ。
2人が話していると、美織たちが登校してきた。
今年の十神家の新年会、美織たちは暮れにあった事件の疲れもあり、欠席していた。
陽織は、もちろん欠席できなかった。それどころが、結婚の前祝いと、黎人がお酒をガンガンに勧められて、酔ったあと介抱するので、大変だった。
それでも、毎日2人でいられる。
それだけで陽織は幸せで、楽しくて、元気になれた。
まだ受験生もいるため、高3は始業式が終わるとさっさと帰らされる。今まで色々あったので、9人は一緒にいても良いが、学校の結界の近くのカフェか、ファミレスで過ごすことだけは強要されていた。
そこに、今日は珍しく、田神がいた。
「あ、颯斗!こっちこっち!」
カフェに入ってきた田神颯斗に、宏輝が手を振った。同じ薬学部、と言うこともあり、最近は一緒にいることが多くなったらしい。大学生になれば、今までのように、子ども扱いではなく、本格的に神嶋からの依頼も来る。颯斗も慣れないと、と言うのもあった。
「そう言えば、暮れに大変だったんだって?」
宏輝たちが翔太に聞いてきた。翔太は、あ、忘れてた、と言う顔で、あの時の説明を始めた。
「姉貴から、伝えて欲しいって言われてたんだ。」
と話し出す。
あの時、陽織たちが連れて行かれたのは、関東大震災の後。震災で、大勢の子どもが亡くなった、小学校跡だったのではないか、とのことだ。
子どもたちは、学校にいたときに命を失った。
そのまま、浮かばれず、戦争が起こり、戦後の復興があり、時代が流れ、街も変わりずっとそのまま、忘れ去られてしまった。
そしてあの時、ちょうど、自分たちを送ってくれそうな人たちが現れた。それを知った子どもたちが、4人を引き摺り込んだのでは、と言うのが、黎人が調べ、それを彩奈に報告した内容だった。
発見された場所が違ったのは、おそらく、送られた子どもの中にあった記憶の場所だったのでは?
「だから、お前らは絶対に、一緒の時は、結果張れ!どんな時も、どんなところでも!」
と、湊人が苦い顔で言い放つ。
「本当に、大変だったんだから!」
と、翔太と葉鳥までうなづく。
「そうだよねー。お正月の黎人さんの酔っ払いも見られなかったし。」
と、羽織は楽しそうに言った。すると、湊人がなぜか凄く嫌な顔になり、目を逸らす。
「とにかく、陽織は黎人兄上にも、酒を飲ませるな!絶対。黎人兄上は悠兄より、酒弱いんだから!」
お昼過ぎ、みんなが解散した後、千織は湊人にちょっと、と呼ばれカフェに残った。
2人で奥の席に移動して座ると、湊人がそっと防音結界を張った。
そして、気まずそうに話を切り出す。
「あ、あのさ、千織は、その、胸。」
そこで湊人が、言葉を切る。
「胸?」
ちょっと考えたあと、千織はあっ、と顔が赤くなる。
胸ってあの胸?バストのこと?
「そ、その。それで、もし、俺が千織の、その、胸、触ったら、嬉しい?」
千織は、飲みかけた水をブッと吹き出した。
「あ、あ、ご、ごめんなさ!」
「い、いや、俺と悠兄も、その、え、と、同じ反応だった、から。」
湊人の顔は耳まで真っ赤。
「その、さっき正月のとき、黎人兄上が、酔っ払ってって話。」
「陽織ちゃんが、介抱するのに大変だった、って。」
湊人は小さくうなづく。
「まだ、陽織はまだうち来てなかったから、その日は帰ってもらったんだ。とりあえず、俺と悠兄で、黎兄を家まで抱えて連れて帰ったんだ。まじ、大変だった。」
千織は何が言いたいのかよくわからないながらも、黙って聞く。
「で、紋付着てだから脱がせて、俺たちも着替えて、ソファーに寝転がって、悠兄は本読んでて、俺はゲームしてて、そしたら、急に、黎兄が陽織のこと話し始めて。」
?
「まだ、なんかボケーっとしてたから、酔ったまんまって感じで。いきなり、惚気って言うか。とにかく、陽織が可愛い、可愛いって。」
千織はクスッと笑った。
「最初は、悠兄も俺も、ただの惚気だーっ、て、てきとーに聞いてたんだけど、そのうち、ちょっと、待て、って話しで。」
?
「そ、その2人が、その、やってる、時の話。」
「え、えと、それって、もう美織ちゃんも、ハオちゃんも、経験した、だよ、ね?」
と、千織が赤くなりながら答えると、
「はあ!?ちょっと待て!俺は翔太から、聞いてないぞ!あいつ、抜け駆け!」
と、話が逸れた。
「あ、ごめん。で、その時、陽織の胸凄く、可愛いって、だんだん、俺たち、どうしたら良いかわからなくなって、で、その、最中に、胸、その、触ったり、キスすると、すっごく幸せそうな、顔、して、って。その顔も可愛い、声も可愛いって。とにかく、可愛いって。まあ、惚気なんだけど。」
湊人はいきなり顔を覆って下を向いた。
千織も、下を向きたい!
「だ、だから、その、女の子って、その、嬉しいの、かな?って。」
もう、聞くのも辛い。
「と、途中で、俺たち黎兄の口押さえて、2階の、前黎兄が使って部屋に、連れてって、とにかく、ベッド、放り込んで。」
千織も耳を塞ぎたい!
「そしたら、母上も、途中から聞こえたみたいで、さっき聞いたこと、忘れろって!でも、おれ、誰かにどうしても、聞いて欲しくて、とてもじやないけど、自分だけで、抱えきれない!」
「あ、あの、黎人、さんは、そのこと。」
「それが、ぜんぜん、覚えてないっぽい。」
でも、聞かされた千織も、抱え切れるか。
「なんか、黎兄と話してる時とか、ちょっと陽織見てる時とか、急に思い出しちゃって。」
湊人は顔が赤いまま、少し涙目になっていた。




