陽織、ブレ新婚生活スタート!
お正月が終わり、陽織は自分の荷物を持って、両親と一緒に神代の家を訪れた。
母屋では美咲が出迎えてくれた。が。
「ごめんなさいね。急に黎人が午後仕事に行くことになって。」
陽織はそれを聞くと、すぐに立ち上がり、2人の家に向かう。
陽織の両親は、そのあとに続いた。
陽織は裏玄関から入ると、荷物をリビングに置き、両親にソファーに座って待つように伝えた。
2階に上がると、黎人は部屋で出かける準備をしていた。
「ごめん。急に月曜日来るはずの取引先の人が、午後来ることになって。全く、土曜日だっていうのに!」
陽織は黎人のクローゼットからワイシャツとネクタイ、ベルトを出して手渡した。
黎人はセーターを脱ぐと、陽織が出したワイシャツに着替える。その間に、陽織は黎人のスーツを出した。新年最初のお客様なら、と青みがかったチャコールグレーの上下にする。
黎人はそれを受け取ると、陽織に軽くキスをした。
「早く帰ってくるから。」
そう言ってバタバタと着替え、玄関に急ぐ。
「今日は電車?」
と聞くと、うなづいたので、玄関のクローゼットからビジネスコートを出した。
靴を履いてコートを受け取り、また
「行ってきます!」
と、陽織にキスを落とした。
「うー、早く帰るからねー!」
そう、手を振って出かけて行った。
しまった!お昼のことを聞くの忘れた!
その様子を、両親はずっと後ろから見ていた。
ひ、陽織が、奥さんしてる…。
陽織は、ホッと息を吐くと振り向き、そこに両親がいたのを、初めて気づいた。
「え?や、なんで、座って待っててくれないのー!」
「いや、陽織がなんかちゃんとしている。」
ちゃんとってなに!
「もう!覗き見しないで!」
陽織は改めて両親をリビングに案内し、ソファーに腰掛けてもらうと、お茶の用意をし始めた。
「て慣れてるわねー。」
陽香が感心している。
そこに。美咲が茶菓子を持って現れて、
「あら?黎人、もう行っちゃった?」
と、聞いてきた。
「それが、お昼のことを聞くの忘れて。」
陽織が、しょぼんとすると
「大丈夫でしょ、大人なんだから!」
と、笑ってくれた。
「それにしても、こんな大きな家、黎人くん一人で住んでいたのか?」
と父が感嘆の声を上げた。
「それにしても、綺麗にしてるわね。さすが黎人くんだわー。」
と陽香。
すると、美咲がケラケラと笑い出した。
「あなたたち、本当に自分の娘のこと、わかってないのねー。」
と、ため息まじりに言う。
その時、陽織はあっと何かを思い出して立ち上がり、部屋を出てしまった。
「この家は、ほとんど陽織ちゃんが綺麗にしてるのよ。ちゃんと、掃除と洗濯して。なんか、すごいわよね。お手伝いさん、雇う?って聞いたけど、自分の場所だからって。」
廊下では陽織がパタパタ走る音がした。
「んもー!黎人さん、脱ぎっぱなしー!」
と、何か怒ってる。
そのあと、機械音がし、陽織が戻ってきた。
「すみません。中座、して?」
両親は、陽織の顔を見て、何か言いたげだが、何も言わない。
しばらく、3人が黙っている。
「えと?お昼、どうしますか?」
無言に耐えられず、陽織が聞いてきた。
「せっかくだから、出前でも取りましょ!たまには!いつも陽織ちゃんが作ってるけど。」
美咲がそう言って、立ち上がった。
「主人も、呼んでくるわ!」
美咲が出て行くと、ますます沈黙が流れた。
「え、と、あの。」
陽織は両親が何を考えているのか、よくわからない。
「陽織の作ったお料理、食べてみたかった。」
と、突然母が言った。
陽織は、目を見開いて驚く。
「あ、え、と。」
陽織は返事に困った。
「どうして、家では、何もしなかったんだ?」
と、父が聞いてくる。
陽織は、んーと悩む。
どうして、と言われても、特に理由はなかった。
ただ、あそこは母の場所、と思っていた。
だから、自分は入らない!
と、なんとなく決めていた、ようなー。
んー、とまた悩む。
まあ、簡潔に言うと
「やりたくなかったから?」
そう、答えられて、2人は呆気に取られた。
やっぱり、自分勝手な娘だ。
と、だけ思った。
お昼、美咲はお寿司をとった。
寿司‥。
陽織は、ハハと笑いながら、卵焼きとカッパ巻き、えびを食べて、あとはひたすらお茶を飲む。
「ん?遠慮しなくて、良いのよ?」
と美咲に言われて青くなる。
見かねた母が、
「ごめんなさい、美咲!陽織、お魚ダメ。なの。」
「?鮭とか、食べてたけど?」
「マグロとか。生のお魚?あ、アジとかさんま、みたいな焼き魚も。」
と言いかけた陽香の口を、ママ!と言って、慌てて陽織が塞ぐ。
「だ、大丈夫、で、す。ちょっと、もうお腹、いっぱい、で。」
と肩で息をしてた。
「本当に、こんな娘で良いんですか?」
と、今度は父が訴えている。
蓮也はアハハと、笑い出して、美咲と顔を合わせる。
「良いのよー、ちゃんと作ってるわよ、アジフライとか、上手よー!」
陽織は恥ずかしくて下を向いている。
「すみま、せん。」
「でもねー、陽織ちゃん。もし、あなたがお母さんになるときは、ちゃんと食べなくちゃダメよ!好き嫌いしたら、赤ちゃんがかわいそうだから。」
陽香はハッとした。自分は母親として、陽織を甘やかしたり守ることはした。でも、こんなふうに、ちゃんと向き合って、話すこと、してなかったかも、しれない。
夕方、陽織を置いて家に戻る。
もう、あのわがままな娘は、我が家に戻って来ない。
本当に、カナダに行っている時とは違う。
今度こそ、まだ早いのに、本当なら、大学に行って、就職して、それから。
そう思うと、陽香は少しだけ、寂しくなった。
別れる時、陽織はあっけらかんとした顔で、あ、黎人さんの夕飯!とか言って、さっさと中に入ってしまった。本当に、どこまでも、自分勝手なんだから!
早く一緒に住みたい!と言っていたのを、やはり許さなければ良かった。と、高樹も思った。
大切に育てたつもりだった。大切すぎて、結局、見えないことだらけだった。次に会うのは、結婚式か。
2人は、家に入る時、わざと大きな声で、ただいま、と言った。




