陽織、みんなと逸れる
美織はひたすら祈った。
この世界が、清浄になることを。
白い影がもしも魂なら、浄霊されることを。
ただひたすら祈り続けると、白い影が、1つ、2つと、消えて行く。
最後の1つが消えたとき、美織は意識を失った。
陽織が、うーん、と唸っていると、どこからか美織の叫び声が聞こえたような気がした。
「出して!出して!出して!」
陽織はハッとすると
「美織ちゃん!」
と駆け出す。しかし、どこまで走っても、美織らしき声は近づかない。
「もしかしたら、美織がどこかで叫んでいるのを、この世界がわたしたちに聞かせてるんじゃない?」
羽織が叫んだ。
「美織ちゃんは、まだこの中のどこかに、いるってことだよね?」
美織!
しかし、その声は、ふっと聞こえなくなった。
「美織、ちゃん。」
陽織は、愕然として座り込む。
手を繋いでおけば良かった。
いつも、黎人さんがやってくれているのに!
どうして忘れてたんだろう。
わたし、慢心してた!
「陽織ちゃん!はおちゃんが!」
千織が駆け寄って来た、と思ったら、千織の姿が、忽然と消えた。
え?
「千織、ちゃん?」
気づくと、千織も、羽織も、いなかった。
美織が目を覚ますと、どこかのベッドの上だった。
「美織!」
誰かに呼ばれた?
顔を向けると、和嶺がいた。
「美織、美織、良かった!」
「わたし、ココ。」
そこは、病院のベッドだった。
和嶺の他に、湊人と葉鳥、翔太、そして黎人がいた。
「千織は?」
と湊人に聞かれ、葉鳥と翔太が
「羽織、は?」
と聞いて来た。
黎人は誰かと電話で話している。
「はい、え、わかりました。では、すぐに。」
黎人はこちらを向くと、
「羽織さんが見つかった。新橋の駅のホームに倒れていた!」
「しん、ばし?」
美織は、訳がわからない。
葉鳥と翔太が
「迎えに行きます!」
と、部屋を飛び出した。
和嶺が、
「うちの母と美咲さんが、陽織が帰って来ないからって、色々なところに電話したんだ。でも、見つからなくて。」
と、言う。
時計の針は、もう夜の10時近い。
「あとは、千織さんだ。」
と、黎人さんが言う。
「え?陽織ちゃんは?」
と聞くと、
「陽織は、ハクがいるから、大丈夫。たぶん。」
と答えた。しかし、その顔色は青い。決して、大丈夫だと思っている顔じゃない。
そこに彩奈が来て、美織に状況を聞いて来た。
「じゃあ、その白い影を、美織ちゃんが浄霊した、ってことかなー。」
「浄、霊。」
黎人の顔色が変わる。
「え?でも陽織ちゃん、得意、ですよね?」
と美織が言うと。
「んー、その前に、会話し、そう。」
あ、と和嶺と美織は気づいた。
千織がまもなく見つかり、湊人が迎えに行く。今度は日比谷の公園だった。
羽織が救急車で、運ばれて来た。
もう、11時になる。
湊人は移動しながら千織の家に連絡を入れた。
「日を跨ぐとまずいな。」
「やっぱり、あのバカ、会話したのか!?」
和嶺が下を向いて叫んだのを見て、黎人か目の色を変えた。
「白桃!」
黎人が叫ぶ。
すると、黎人の姿が、目の前から、消えた!
まもなく、千織とそれぞれの親もやって来て、美織たち3人は、今晩は入院することになった。
夕暮れの中、陽織は子どもたちと遊んでいた。
「陽織?」
声をかけると、
「あ、黎人さん!」
と陽織が振り向く。
「何をしてるの?」
と聞くと、
「あの子たちがまだ逝きたくない、って言うから、遊んだら、逝くって言うから、遊んであげていたの。」
陽織が無邪気に答えた。
「そっか。でも、そろそろ陽織も帰ろう。」
と言うと、わかったとうなづき、子どもたちに、
「みんなー、もう逝く時間だよー。」
と叫ぶ。すると、子どもたちが、一人、二人と、キラキラ光になって、消えて行った。
「さあ、帰ろう。」
と言うと、
「あ、でも千織ちゃんたちが!」
と言うので、
「みんな、もう帰って来たよ。」
と答えると、陽織は嬉しそうに、笑った。
神鬼が、3人の霊力の状態を調べると、やはり巫女ではない羽織の消耗が一番大きかった。
そのあと黎人がいないことに気づき、白桃のところへ行った、と知る。
「はあ?最近やたらとハクを使いますねー。全く、アレは奥の手なのに!」
と、ちょっとお怒りモードになった。
夜の11時58分。黎人が陽織を連れて戻って来た。黎人に抱かれている陽織の顔は白い。一応眠っている。
「陽織!」
和嶺が駆け寄る。
「やっぱり、会話してた。というか、遊んでた。」
それを聞いて、和嶺だけでなく、湊人も神鬼も、驚いて呆れた。
「神格を得た陽織さんだからできたものの、前なら死んでましたね。確実に。」
神鬼が呆れて言った。
12月27日、美織と千織は退院した。羽織はやはり消耗が大きかったことで、28日になってしまった。
陽織は、と言うと元気に翌朝家に戻り、28日、29日と、それぞれの家にお詫びに伺っていた。
31日、大晦日を黎人と過ごすことにした陽織は、2人で神明神社にいた。年越しを神社でする。
今まで、ちょっと憧れていたことだ。
「陽織、寒くない?」
「うん、黎人さんにもらった手袋があるから!」
2人は昼間、黎人の祖父と、挙式の打ち合わせをしていた。2人の式は祖父が執り行うことになる。
「来年の年越しは3人でここに来ようね。」
黎人が言う。
「3人?」
陽織が不思議そうに聞くと、
「うん、今度は2人の赤ちゃんも、一緒に来れるようにしよう。」
と、陽織を抱きしめた。
陽織はうん、と小さくうなづいた。




