陽織、橋の上から消える
中間試験最終日、学校は半日で終わり。陽織と美織が学校を出ようとすると、湊人たちが神明神社に行くと言うので、一緒になった。
部活動がない生徒はみんな下校するし、2人の自宅と神明神社が駅の向こう側になるので、必然的に道が混み合う。
駅前の道をクラスメイト9人が揃ってゾロゾロと歩く。
今日の試験のことを話す人。明日からの予定を話す人。行き交う人は、同じ制服の高校生がゾロゾロあるくと、どうしても嫌な顔をする。
そのため学校側は、できる限り、いくつかのパターンの通学路を確保して、おしゃべりをせず、静かに通るように指導している。しかし、集まればどうしてもおしゃべりしたくなるのが高校生だ。一般の人はそんな高校生の集団に白い目を向けていた。
ただ、陽織たち1学年は失念していた。大勢でゾロゾロ歩く本当に危険な理由。大神先生から言われていたことに。
9人が駅を通り過ぎて、大学病院の手前の橋を渡った時にそれは起こった。
9人全員ではなかったが、陽織、美織、湊人の他男子2人の計5人が忽然と消えた。
そして5人とすれ違った通行人は、誰もそのことに気づかなかった。
陽織たち5人は、急に周りの景色が変わったことに足を止める。湊人はしまった、と思ったがもう遅かった。
(散々、親や兄たちからも言われていたのに!学校でも、言われていたのに‥。)
「わたしたち、引き寄せてしまったのかしら。」
「いや、引きずられた、と言うのが正しいかな。」
「話に夢中になりすぎた。」
美織と湊人、そして菅原翔太が言った。
強い力は悪いモノを引き寄せる。だから、結界のないところでは、できるだけ固まらないように!
そう言われていたのに。
先ほどまで、大勢の人が歩く橋の上、左手には大学病院の塀があったはずだった。しかし今いるのは、足元には何もなく、目の前にはただ薄暗闇が広がるだけ。
遠くからは、人とも獣とも思えない、唸るような声が複数聞こえてくる。しかし、その距離感が掴めない。
周囲も薄暗く、一体ここがどこなのかわからない。
陽織と美織は、手を繋いで互いの体をギュッと引き寄せた。さらに、どこからか鐘の鳴る音や、踏み切りの警報器、ガラスを引っ掻くような音まで聞こえ始めた。
「くそっ。」
男子の誰かのつぶやきが聞こえた。
9人が歩いていた駅周辺には、大学病院が3箇所と、総合病院が何箇所かある。大きな病院は常に死と隣り合わせの場所。だから社があったり、教会のある場所が多い。
誰かの命が消える時、寿命が来て、満足に逝くのは良い。しかし、納得の終わりを迎える人ばかりではない。悲しみや未練、心残り、突然の死を迎えた人にとって、魂が行き場を失うこともあると言う。事故に事件、病死でも無念を抱えるものは多い。
ここは、そんな魂がたくさん集まっていた。
橋を渡れば神明神社があり、そこは清浄な空気に満ちている。
しかし駅から反対側へ渡るには橋があり、その下には地下鉄が走り、お堀の水も流れていた。
普通に通るには問題がないはずなのに、霊力の強い9人が歩いていたのが不味かった。
「くそッ、しくじった。」
湊人はそう思って、銀を呼び出そうとした。しかし銀の気配がない。
「おい宏輝。お前呼び出せるか?」
湊人に声をかけられた神岡宏輝は、首を横に振る。宏輝の烏、九郎も弾かれたらしい。
「おれ、式神なら出せるかも。」
答えたのは、翔太だった。翔太は陰陽師の家系のため、常に式神を呼び出すための形代を懐に入れている。そして今も、複数枚入っていることは確認した。しかし、状況がわからない限り、下手に使えない。
「あの、わたしもハクがポケットの中にいる。」
ずっと黙っていた陽織が一番後ろからそう言うと、男子3人は揃って陽織の方を向いた。
「白兎様が?でも、ここの空気悪すぎる。」
「苦しくて出られないんじゃないか?」
湊人と宏輝は白桃の心配をしてくれる。陽織も白桃が外に出たがらないので、言うだけ言ってみたが、2人はそれを察していたらしい。
「白兎様は神様の使いだ。力は強いけど、ここは相性が悪い。」
陽織は明らかに自分よりも詳しい湊人が言うので、黙ってうなづいた。そしてポケットの中で怯えている白桃を上からそっと撫でた。
どれくらい時間が経ったのだろう。美織が腕時計を見るが、薄暗くてよく見えない。
「この空間を作った主を探すしかないか。」
翔太が女子2人を気遣い、解決策を出した。
「主と言われても、状況がわからない。」
みんな迷っていた。この中のは誰も彼もがここまでの経験をしたことがなかった。
大人たちは依頼を受けて、状況を調べて準備をし、対応している。今までは、親や経験のある大人が必ずいた。しかも、もっと簡単な現場や案件だった。それが、陽織を除く4人の常識だった。
そして、陽織は未経験である。ただ怖くて、一体何が起こっているのかもわからない。
自分がいる場所が、このまま出られなかったら。そう思って後ろずさると、何かが足に当たる。
「ひいっ!」
陽織の悲鳴で、また男子3人が振り向く。陽織の足元にあったのは、たくさんの骨だった。
陽織の様子を見た湊人は、まずい!と思って陽織を引き寄せる。しかし湊人の機転は間に合わず、陽織は気を失っていた。
神坂千織と神澤羽織、葉鳥の双子の兄妹、藤原克哉の4人は、5人が消えたことではじめは呆然とし、しばらくはオロオロしていた。
先に行ってしまっただけ、と信じたかった。
しかし、1人2人ではない。
克哉はとりあえず大神先生に知らせることを提案する。
「そうだね。とりあえず学校に知らせなくては。」
葉鳥も同意した。
4人は二手に分かれ、一方は学校に戻り先生に知らせる。もう一方は、みんなが戻ることを考えて、近くで様子を見ることにした。




