陽織、決意をする
わたしがなくしたモノ。それはフィギュアスケートで、オリンピックへ行く夢。わたしが諦めたくないモノ。それは、好きでもない、会ったこともない人のお嫁さんなんかには、絶対にならないと言うこと!
紗香に京都を案内してもらった日の夜、陽織は両親と一緒に新幹線で東京に戻った。
新幹線の中で、陽織は紗香に教えてもらったことを話し、自分なりの決意をする。それは、結界でただ守られるのではなく、自分の力で諦めないということだった。
「だから父様、わたしのことをもう結界で守らないで大丈夫です!」
そんな陽織の決意に渋る父だったが、陽織から昨日のことを言われて仕方なくうなづいてくれた。
「こちらでも、色々と収穫はあった。陽織とは違う対策は打っておこう。」
「わたしは、神龍の花嫁なんかは断固拒否します!その決意で、頑張るのです!」
家に戻った陽織は、2人の兄にも握り拳で決意を伝えた。
GWが開け、入学から色々な意味で悶々としていた気持ちも落ち着き、陽織は車ではなく、普通に歩いて登校した。
陽織が徒歩で学校の門をくぐると、クラスメイトが驚いた目で見ている。
「陽織ちゃん、おはようございます。」
教室に入ると美織が、声をかけてきた。
「今朝は車ではなかったのですか?」
「美織ちゃんおはよう。そう。今日から歩いてくることにしたの。最近運動不足だし。」
それは嘘ではない。以前はずっとトレーニングをしていたし、体重のコントロールもしていた。しかし、ここ最近は、何もしていない。
京都から帰って体重計に乗った時のショックと言ったら!
「地下鉄は?」
「ウチから学校まで調べたら、徒歩15分、地下鉄で16分だったの。それなら、電車待つより歩いた方がいいって、お兄様たちに言われて。」
(ママも交通費が浮くって言ってたし。)
美織はなるほど、と思ったものの、もっと学校に近い自分が車、と思ったら少し後ろめたく思ってしまった。さらに少しだけ、羨ましく思った。
「わたしも、歩いて学校こようかな。」
と美織がつぶやいていたのを、陽織は気づかなかった。
席に着くと、陽織はカバンの中から美織へのお土産があったことを思い出す。
「あのね、わたし京都に行ってきたの。それで、親戚のお姉さんに京都を案内してもらって。」
陽織は縮緬で作られたウサギのキーホルダーを差し出す。
「あの、お土産。匂い袋になっているんだよ。」
美織に手渡すと、美織はすごく喜んだ。
「可愛い!すっごく可愛い。ありがとうございます。」
「良かった。わたし美織ちゃん、何が好きかわからなくて、わたしとお揃いなんだけど。あ、でも手作りで、一つ一つ、布が違うから、全く同じモノはないんだって。」
陽織は美織が袋の上から頬擦りして喜ぶ姿に、ほっとした。
美織はGW中、家族で那須の別荘に行っていたらしい。お土産がないことを気にしていたが、陽織はいつもお世話になっているから、と笑った。それに、お土産代にと両親からもらったお金の大半を本につぎ込んでしまい、お茶やお昼は紗香にご馳走になってしまったことなどを話した。
「陽織ちゃん、そんなに本好きなの?」
「う、うん。」
本以外の趣味も友だちもなかったことに、今更ながら気がついてしまった。
美織は紗香に会ったことはないが、名前だけは知っていた。美織の中では、自分の前に和嶺の婚約者候補だった人、という存在だったが、陽織の話を聞いて少しイメージが変わった。
(なんか、京都の人ってよくイケズっていうから、お琴とかが趣味の、美人だけど冷たくて意地悪で高飛車な人だと思っていた。)
美織は、心の中で紗香に謝って、反省反省、繰り返す。
一年生の社会は公共と日本史。
今までは大嫌いで、見るのも嫌な日本史の教科書だったが、京都で紗香に色々教えてもらい、少しだけ楽しくなった。特に今回連れて行ってもらった神社仏閣は、カッコいいと思ってしまった。
京都御所は良くわからなかったが。
まだまだ日本史は初心者マークだ。
翌週開けから始まる中間試験のために、先生のピッチが急に早くなる。日本史も古文も急に進む。せっかく好きになりかけたのに〜。
そして中間試験最終日、入学後初めての事件が起こった。




