陽織、恥ずかしい記憶
陽織の試着が終わり、4人で銀座まで歩き、最近陽織が美咲に連れてもらうお店でランチをした。
美咲との時は特別だけど、今日は普通の一番リーズナブルなランチコース。
「美味しかったねー。」
「羽織ちゃん、食べてもらって、ありがとう。」
陽織はデザートまで入らず、羽織が代わりに食べてくれた。特に今日のデザートは苦手なメロンだった。
「陽織、メロン嫌い?」
「そういえば、子どもの頃から嫌いだったよね?」
美織が初めて会った、法事の時のことを思い出した。
陽織は覚えていない。
?と、陽織が不思議そうな顔をしていると、
「あ、わたしが初めて和嶺様と会った、曽祖母の法事の時。」
美織に言われて、陽織は青くなった。
陽織にとっては、正直今の友人たちには、あまり知られたくない、恥ずかしい記憶だ。
「陽織ちゃん、メロンやだって、泣いてたよね。」
美織がクスクス笑いながら暴露する。
「や、やめて、美織ちゃん!」
今でも、親の前ではあまり変わらないが、あの頃の陽織はめちゃくちゃわがままだった。
その上、親族が集まる法事関係は、絶対出たくないほどの、嫌な行事。
何も見えなかった頃、母は、色々な陰口を叩かれていた。それを見るのが嫌だった。さらに、見えないのに、なぜかお寺とか、霊園とかは、すごく頭が痛くて、気持ちが悪かった。
だから、早く帰りたかった。
お寺の中なんか、絶対入りたくなかった。のに。
しかも、その後のお清めに出たメロンと、酔っ払った親族が、絡む姿。
あー、十神家のお正月、似てるんだ。
そう思った途端、十神家の披露宴が、不安になってきた。
「大丈夫?」
気づくと、羽織と千織が心配そうに覗き込んでいた。
「ごめんなさい、陽織ちゃん、嫌なこと、思い出しちゃった?」
美織が申し訳なさそうな顔をする。
「ち、違うよ!ちょっと、十神家の披露宴、不安になった理由がわかって。」
陽織の顔は、かなり青かったらしい。
「ちょっと、どこかで休もう。」
4人は銀座の百貨店にある、屋上庭園のテラスへ行った。師走なのに、それほど人はいない。
子ども連れのお母さん、職場の昼休憩を取る女性。外国人の親子がサンドイッチを広げている。
自販機で買った飲み物を持って、解放された席に座った。
「へえー、銀座でもこんなところ、あるんだねー。」
美織が、周囲を見回してほっと息を吐く。
「あの頃、陽織ちゃん、力、封印されてたしね。」
美織の言葉に、羽織と千織が、え?と驚く。
陽織も一瞬驚いたが、良く考えれば、美織は和嶺の巫女だった。
「あ、でも納得!そうだよね、あれだけ力がある陽織が無能とか言われるわけないもん。」
と羽織。そえだよねー、と、千織も納得していた。
「でも、なんで?」
と千織が、問い返して来た。
一瞬、沈黙が流れ、陽織と美織が顔を見合わせる。
なんと、言ったら、良いものか。
「え、と、たぶん、黎人さんに、見つからないように、するため、だったと思う。」
なるほど、と2人は納得した。
「親心かー。」
と、羽織は、一人納得していた。
「陽織を神様の花嫁に、したくなかったんだねー。」
羽織の言葉に、3人はしみじみ、同意してしまった。
「でも、それと、あのわがままは、ちょっと関係ない、って言うか。」
美織が遠い目で、思い出すように言った。
「わ、忘れて!美織ちゃん、わたしの、その痛い、記憶は、消して、下さい!」
「確かに、噂だけでも、結構すごかったよね。」
「あー学校行きたくないって、カナダ行っちゃった話は有名、あ、だから、マギーさんたちだったんだ!」
「お兄様2人に、連れられて行った十神家の子どもの集まりで、大泣きしてお母様が慌て連れ帰った、とか。」
「明王の中学入試を受けに来たけど、途中で嫌だ!、って帰った、とか。」
う、事実、です。確かに。
うー、もうやめてー!
陽織は過去の自分を消したくなった。




