陽織、ブレ新婚さん
クリスマスイブ。去年のクリスマスイブ、陽織は中学時代の同級生に会って、結局色々と黎人に迷惑をかけてしまった。
今年は、2人でいつもとは違う街に行った。
2人があまり行くことのない青山から神宮周辺。
この近くにある美術館に行ってみようと言うことになり、久しぶりに原宿の駅を降りた。
この辺りは、若いカップルや外国人が多いので、2人の姿が目立つことはない。
たくさんのカップルが腕を組んだり、手を繋いで歩いている。原宿の駅前は苦手だけど、ちょっと東へ抜けると、たくさんの美術館がある。
いつも車だけど、たまには散歩も良いね、と黎人が選んだ。
一つだけ気掛かりなのは、この近くに、都心でも有名な巨大霊園があること。
あれだけたくさんの墓地があれば、一つや二つ、遭遇することはあるだろう。
でも、今日はちょっとくらい悪さをするモノも大目に見てあげよう。
2人であちらこちらの美術館を巡り、カフェでお茶をして、美味しいランチをいただく。
そして地下鉄に乗って、黎人の家に戻った。
陽織は先日父と話し、一月からここに住んで、黎人をサポートすることを伝えた。
年が明けると、学校に登校する日は全部で10日もない。受験生なら、ここは一番忙しい時期だが、大学が決まっている湊人たちは、自動車免許を取りに行ったり、バイトをしている。
陽織はまだ17歳なので、車の免許は取れないし、黎人にバイトをしたいと言うと、良い顔をしないので、やることがないのだ。
ちなみに男子グループは、全員自動車教習所だ。
「その、お式の準備もしなくちゃ、なのでお母様とできる限り、近くにいた方が良いかと。」
そう言うと、黎人が本当に嬉しそうに笑った。
「少し、早いですが、お世話に、なります。」
黎人は嬉しくて陽織をギュッと抱きしめた。
今年のクリスマスプレゼントは、お互い手袋にした。黎人は陽織にファーのケープと揃いの手袋。陽織は黎人に革の手袋を渡す。
これからも、毎年こうやって過ごしていく、そう思うと、すごく嬉しかった。
2人でケーキを食べて、ご馳走をいただき、後片付けをしたあと。
なかなか会えなかったけど、陽織の言葉で一月からはずっと一緒にいられる。
陽織がクスクス笑いながら、黎人に甘えてきた。明日、黎人は仕事なので、朝が早い。だからほんの少しだけ、2人の楽しい時を過ごした。
クリスマスの朝、陽織は目を覚ますと、ベッドから起き出して服を着て、キッチンに立つ。
来月から、ここは正式に陽織の場所になる。そう思うと、嬉しさで、顔がニマニマしてしまう。
昨夜タイマーをかけていたご飯が炊けて、味噌汁と卵焼きに今日は昨日のご馳走の残り、ローストビーフをアレンジしサラダにした。
黎人が起きてきて、陽織におはようのキスを落とす。
2人で先日買った、茶碗やお箸を持って、朝ごはんをいただいた。
暮れは道が混むから、と黎人は地下鉄で出かける。
陽織は玄関にあるクローゼットから、黎人のコートを出して手渡した。
いってらっしゃいのキスをすると、まるで新婚さんみたいだ!と、陽織は照れてしまった。
黎人が出かけたあと、掃除と洗濯をし、母屋に行った。母屋では美咲が招待客のリストを持って、座席の確認をしていた。
「おはようございます。」
陽織が声をかけると、美咲は眼鏡を外して陽織を見た。
「おはよう。ん、少しぽっちゃりしてきたかな?」
普通ならショックを受ける言葉だが、ガリガリだった頃の陽織を思うと、それくらいでちょうど良い。
「明日、ドレスの試着だけど、陽香も行くの?」
と聞かれた。
「あ、え、と。その千織ちゃんたちがみたいと言うので、一緒に行って、良いですか?」
と陽織が聞いた。
「何人?」
「4人、あ、3人です。わたしを入れて4人。」
「自分を入れてどうするの?」
と、美咲に笑われてしまった。
「母は、今回は用があって、行けないと、残念がってました。」
「ん、それくらいの人数なら大丈夫でしょ。なら、わたしも行かないことにしようかな。若い子たちで、楽しんで来なさい。」
美咲は、笑ってそう言ってくれた。
翌朝、早朝から陽織は黎人の家にそっと入って、朝ごはんの支度をした。昨日の朝が、思いがけず楽しかったから。
朝、階下に降りてきた黎人は、陽織の姿に驚き、笑った。
「サプライズです!」
今朝も一緒に、朝ごはんをいただく。
「今日は、ドレスの試着だっけ?」
「はい、千織や羽織ちゃん、美織ちゃんと行ってきます!お母様が、若い人だけで楽しんで来なさいって、言ってくださって!」
「んー、僕も見たかった。」
「ダメです!花嫁衣装は、当日までのお楽しみです!」
また、明日の朝も来る、と言う約束をし、陽織は黎人を見送った。掃除と洗濯をすると、着替えて、みんなとの待ち合わせ場所へ行く。




