陽織、2度目の約束
入試が終わっても、卒業までは授業が続く。
試験もある。
12月にはしっかりと学期末試験もある。
黎人も最後の後期試験と、年末決算に向けて、毎日勉強と仕事をしているようだった。
だから週末デートは結局2回で終わり。2人はまたクリスマスまでは、お互い勉強と仕事に専念することにした。
陽織は2つ目の交渉を父とした。
もし、二学期の期末試験でトップを取れたら、今度こそ、本気の湊人に勝てたら、その時は。
11月末から12月初めにかけて、最後の二学期の試験が始まった。髪を切った陽織は、中学生の時のように、ポニーテールにしていた。
入試が終わっても、遊んでいたわけではない。
黎人が毎晩遅くまで勉強や仕事に取り組む姿を何度か見た。
「先に休んでいいよ。」
そう言って服を着た黎人が、机に向かって勉強をしていた。陽織は眼鏡をかけて机に向かう黎人を、初めて見た。
その姿を見てから、自分が遊んでいては申し訳ないと思うようになった。
「え?陽織に負けた?本気の俺が、陽織に負けたーッ!」
期末試験の返却日。
湊人の絶叫が教室に響いた。
(そりゃそうだろう。入試も陽織は満点合格だったんだぞ。)
大神はため息をつく。
医学部長からは、高樹だけでなく、大神にも電話が入った。
どうして、合格を辞退したのだと。
補欠にいた友人のためなら、両方を合格にする、とまで言われた。
陽織が合格を辞退したのは、そう言う意味ではなかったのだが。
(ほんと、こいつなんで農学部なんだ?)
陽織たち女子4人は、期末試験が終わったら、高校最後の女子会を開こうと約束していた。最初で最後、陽織の家で。
終業式を明後日に、クリスマスイブをさらにその翌日に控えた土曜日。
美織、千織、羽織の3人は陽織の家にやってきた。
「うおー、本当、陽織の家って洋館みたい!」
羽織が感激する。
「う、うちはマンションなんで、お泊まり会できなかった。」
と、千織が落ち込んでいた。
陽織の部屋はかなり広く、隣にウォークインクローゼットもある。ただここはスケート専用の衣装部屋で、ここ数年開かずの間になっていた。
女の子なら、余裕で2人は寝られるベッドと、6畳のラグマット。大小様々なうさぎのぬいぐるみが、所狭しと置いてあった。
その上に、小さなテーブルがあり、陽織はクッションを4つ用意した。
「え、と荷物は適当に置いて。」
「可愛い!陽織ちゃんらしい!」
陽織は、小さなテーブルに、お茶とお菓子を並べた。
生まれて初めて、友だちが泊まりに来ると知った母が、張り切って用意したお菓子だ。
「わーっ、美味しそう!アップルパイ!」
「陽織の部屋って、黎人さんは来たことあるの?」
「ううん、ないよ。」
陽織は笑って答えた。
美織は隣にある和嶺の部屋には、何度か入ったことがあった。部屋の間取りは、ほぼ陽織の部屋と同じ。
でも、陽織はそれを知らない。
4人は夕飯の時間まで、3年間の思い出話に花を咲かせた。
「ねえ、大学行っても、また女子会やろーよ。」
羽織が言うと、千織たちもやりたい!と言った。
「で、いつかはママ会で、子育て終わったら、また女子会!その時は、一緒に旅行とかしよう!」
「うわー、でもきっと、陽織ちゃんだけ、誰かの娘に見られるかもー!」
「学生料金で行けるかなー!」
そんな冗談も言えるようになってきた。
夕飯は母と2人の精霊が作ったもの。陽織はお手伝いしない。それはこの家での陽織なりのルールだった。
和嶺と高嶺は、4人が食べ終わった頃に帰ってきた。和嶺は美織の姿を見て、一瞬、えっとなったが、以前女子会の話はしてあったので、すぐに顔を元に戻していた。
兄2人が夕飯を食べている間に、4人で交代にお風呂に入った。その後も、4人がキャッキャと笑う声や、話す声が、脱衣所や廊下から聞こえるたびに、母は嬉しそうに笑う。
(あの陽織が、友だちとこんな風に過ごす日が来るなんて。)
父が帰宅する頃には、みんな陽織の部屋に入って、密談?を初めていた。
父が帰宅したことに気づくと、陽織わわざと階下に降りて父を出迎えた。
「おかえりなさい。父様、わたし期末試験、一番だったよ!」
陽織は、上に友人たちがいるのを知った上で、話を切り出す。
「一月から、黎人さんと、一緒に住んでいいよね?」
客がいることを事前に聞いていた高樹は、いつものように怒鳴らない。怒らない。そして
「好きにしろ。」
というと、風呂場へ行ってしまった。
「ママ、今の聞いたよね!」
陽織は母に確認する。
「もう、あなたって子は、今のは確信犯よね!」
「でも、言質とったから!」
そう言って、陽織は自分の部屋へ戻って行った。
陽織が部屋に入ると、下の様子を伺っていた羽織が、眉を寄せて聞いてきた。
「陽織、今の何?」
「ん?約束したのに、なかったことにしようとしていたから、父様絶対に、外面良いから、みんながいる今日がチャンスと思ったんだ。!」
うわっ!ほんと、策士!
「じゃあ陽織ちゃん、1月から神代家で生活するの?」
千織が聞いてくる。
「うん。黎人さん忙しいから、少しでもそばで支えたいし、お母様と色々話したり、相談するのにも、行ったり来たりするよりも、時間のロスが減るから。」
陽織のもっともな意見に誰も反対しようとはしない。しないが、親の気持ちを考えると、なんとも複雑になる。
「そっかー、となると、本当に、いよいよ陽織がお嫁に行っちゃうんだー。」
はあー、と羽織がため息をついた。
「そういう羽織は、どうなのよ?」
「わたしはマイペースだよー。誰かの巫女でもないし、翔太も普通の術士だから。だいたい、医学部なんか行かれたら、6年は待つだけだもん。」
「あー、わたしも羽織ちゃんと一緒だなー。湊人くん、まさか医学部行くと思わなかったし。」
千織が続けた。
「なんか、みんな良いなー。わたし以外、みんな将来お医者様の妻だよねー。」
そういえば、とみんな顔を見合わせた。
「ところで、美織はあれから和嶺さんとは、進展あったの?」
千織がニヤニヤしながら美織に聞いた。
「な、え、と。その、はい。進ませて、いただきました。」
羽織と陽織は意味がわからず、何何?と聞く。
「ジャーン!なんと、美織はこの度、和嶺様と、一番深いお付き合いを、」
と、千織が話し始めた時、ドアをノックする音がした。
「はい?」
陽織がでると、和嶺が立っている。
「和、兄様!」
「あ、陽織、父上が。」
和嶺はそこまで言うと、中で陽織の友人たち4人が寝巻姿で話しているのを知り、後ろを向いた。
「あした、その、また、話そうって!じゃ、おやすみ!」
一瞬、中がシーンとなる。
明日また?
和嶺様に見られたー!
美織ちやんに先を越された!
美織が大人になったー!
と、それぞれが違うことで、赤くなった。
陽織は怒りで、だが。




