陽織、髪を切る2
小龍が現れたことで、青龍、銀狼、白龍が本来の力を取り戻し、人形たちに向かう。
陽織は人形の髪から逃れ、肩で息をしていた。
三体の龍が、本体と思われる日本人形に攻撃を仕掛けると、床一面に広がっていた髪が、スーッと引いて、短くなっていく。
髪から解き放たれた、彩奈が立ち上がった。
陽織が立ち上がると、白桃を出して、本体の人形に向かって、覚えたばかりの祝詞を唱えた。すると、人形たちは、まるで破裂するように形を砕かれて、白いチリとなり、崩れていった。
「終わっ、た?」
陽織がへたり込むと、湊人が駆け寄ってきた。
「陽織、髪!」
陽織のヘアクリップがはずれ、上げていた髪が落ちた。ツインテールの左側は右の髪よりも、かなり短くなっている。
陽織は泣きそうだったが、それ以上に疲れている。
湊人が泣きそうな顔で、陽織の髪を掬い上げた。
そこに、黎人が飛び込んできた。
「間に、合わな、かった?」
黎人も、走ってきたのか、息を切らしている。
「間に合うには、間にあったけど。」
悠人が苦い顔で、陽織の姿を見る。
背中の後ろまであった、陽織の髪が、左だけ30センチ以上、短くなっていた。
その姿に、黎人は唖然となる。
彩奈は、3人の修行僧を呼んで、本堂の後片付けを頼んでいる。そして、今後人形を預からないよう、強く言った。
和嶺と悠人は、床に散った陽織の髪を残さないよう、白い布に拾う。術者の髪は、呪詛の道具にもなるからだ。
黎人は、陽織のそばに寄るとギュッと抱きしめた。その時、初めて陽織が泣き出した。
ひとしきり泣いた陽織は、落ち着くと黎人を突き放した。
「どうしたの?」
周りのみんなが驚く。
「お酒、臭い!」
陽織は、鼻を抑えた。
「酔っ払い、嫌い!」
陽織は帰ると、美咲の御用達の美容室で、髪を綺麗に揃えてもらった。スケートをやめて、ずっと伸ばしていた髪が、肩下までの長さに戻った。
「ん、もう!そのままで日本髪が結えると思ってたのに!」
と、美咲が一番残念そうだった。
月曜日、陽織が学校へ行くと、美織たちがびっくりする。
「どうしたの?切っちゃったの?」
湊人から聞いていた千織でも、ショックを受けていた。
「ん、イメチェン!」
と陽織が笑う。
高校に入ってから、ずっと三つ編みのおさげか、ツインテールだった陽織がストレートにしていると、ちょっと大人っぽく見えた。
あの後、黎人は夜中に終わったとはいえ、朝イチの新幹線で戻らなかったことを、みんなから責められていた。しかもその理由が、酔っていた、とあっては。
「まさか、飲んだ勢いで、奈緒さんとやってたんじゃないよねー?」
と彩奈からは、疑われていた。
陽織には、お酒臭いと、近寄らせてもらえなかった。
そんな黎人の姿があまりにも珍しく、悠人と湊人は、しばらくは、ネタに困らないと話している。とくにいつも怒られてる湊人にとって。
また、今回は陽織の髪がばっさりになる、という出来事もあっただけに、一緒にいた男性3名は責任を感じている。
そして、今回の件で神嶋は黎人に断りもなく勝手に進めたことで、黎人からも、彩奈たちからも責められた。もちろん、陽織の髪、という衝撃があった神月家からは、かなりのクレームを受けた。
髪が短くなった陽織は、一時は落ち込んでいた。しかし、黎人から、出会っ頃みたいと言われて、少し嬉しかった。
黎人は卒業単位と論文の仕上げで忙しくしながらも、週末は陽織のために時間を取ってくれた。
土曜日、学校が終わると、陽織は帰宅後着替えて二人の家に行く。黎人が大学から帰るまで、陽織は夕飯を作って待つ。そのまま一晩だけ一緒にいる。
その代わり、絶対に結婚式まで子どもができるようなことはしない。それが親との約束だった。
そんなある日曜日。2人は結婚式の返礼品と、自分たちが使う、日用品の買い物に行った。外商の人からブライダルの担当者、と引き継がれ、2人は披露宴に来てくれた人へのお礼の品を選ぶ。
その後、今までなかった2人用の箸や茶碗を選んでいた。その時、
「黎人?」
という声がした。
2人が顔をあげると、陽織が知らない綺麗な女性が立っていた。
「奈緒、さん。」
黎人が、驚いた声で名前を言う。
奈緒?と聞いて、陽織は彩奈の言葉を思い出した。
大阪の。黎人の元お姉さんのような人?
陽織が黎人に
「黎人さんのお姉さんみたいな人?」
と耳元で囁くと、黎人は驚きながらも微笑んだ。
「奈緒さん、紹介します。僕の花嫁の、陽織です。」
陽織は、スカートの裾を持ち、膝を曲げると
「神月陽織です。」
と挨拶した。
黎人の花嫁。
見つかったんだ。
そっかー。
黎人は奈緒が出会った頃には見せたことのない、優しい顔で、陽織に微笑んでいた。
花嫁なんて眉唾だ!
と、荒れていた頃の黎人からは考えられない。
当時の黎人の周りにはいなかった、可愛いくてまるで砂糖菓子のような女の子。
2人は奈緒と別れると、仲良く手を繋いで、買い物を続けている。
周囲の人が陽織を見ていることに気づくと、黎人はさりげなく自分の方に引き寄せて、自分のものだと、アピールしている。そして、人目も憚らず彼女をギュッと抱きしめる。
奈緒は、羨ましいな、と思いながらも、大阪に戻る新幹線の駅へと向かった。




