陽織、髪を切る
消耗戦と分かっていても、寺を火事にするわけにいかない。湊人と陽織は、小さい炎を出して、一体、一体焼いて行く。
「今、何体倒した?」
湊人が聞いてくるが、まだ両手に行くか行かないかだ。
全員合わせても十分の一くらいかもしれない。
すでに、人形が攻撃をしてくる以上、こちらは敵と見なされている。
これだけの数に敵認定されたら、全てを浄霊なんて難しい。
人形の周りに結界を張ろうにも、奥がどこまでいるのかよくわからない。
今まで供養していた住職が亡くなり、人形たちは心の拠り所を失ったのだ。すでに暴走を始めてもおかしくなかった。
なんとか残り100体くらいになった頃、5人は異様な光景を目にした。
なんと、人形たちの足元には、中心にいると思われる。日本人形の髪が放射線状に広がっている。
「アレが本体かな?」
和嶺が、指を指す。
人間でも、ここまで髪が伸びるには何年かかるのだろう。本来の日本人形の髪は、長くても背中くらいのはずだ。
昨年お焚き上げをしているのなら、この人形はいったい。
すると、その中の髪の一束が陽織目掛けて伸びてきた。陽織は咄嗟に避けたが、背中まである陽織の髪を絡めた。
今日の陽織は髪を2つに分けて結んでいた。いわゆるツインテールという髪型。
その、左側の髪に、どんどん、人形の髪が絡み付いてくる。
「や、痛い!やだ、引っ張らないで!」
陽織は、絡みつく髪を解こうと必死に人形の髪を引き寄せるが、その髪は次第に陽織の腕にも絡み付いてきた。
そして、左側にいた彩奈の足にも絡みつき、彩奈を引き摺ろうとしている。
どうやら、髪の短い彩奈には、絡みつく髪がないと諦めたようだ。
湊人が苦手な氷を剣の形にして、人形の髪を切り刻み始める。和嶺が青龍を出し人形に攻撃させるが、髪は青龍にも巻きつき始めた。悠人の白龍も同じだ。
「痛い!やめて!抜けちゃう!」
陽織は、必死に右手の中の氷をナイフに変え、自分の髪に絡みつく、自分の髪と人形の髪を断ち切った。
しかし、人形の髪は執拗に陽織を追う。
左の髪が自由になったところで、陽織はバッグからヘアクリップを出すと、髪を上にまとめあげて止めた。
これなら、髪を引っ張られない!
そして、クリップと一緒に入っていた、糸切り鋏を使って、人形の髪を切り裂く。
「きりがない。」
「あの、本体をなんとかしなくちゃ。」
足を取られた彩奈は、どんどん髪に引き摺られ、まるで髪の波に飲まれるような格好になっていた。あの白龍と青龍も、同じだ。
とにかく彩奈を助けないと、
悠人が人形に向かって、ありったけの護符を投げたが、全て弾かれてしまった。
彩奈はもがきながら、右手に小さな炎を出して、人形の髪を焼いている。
しかし、焼く後から後から、新しい髪に絡め取られて行く。きりがない!
誰も本体の人形に届かない。
その時、小龍の姿が本堂に現れた!
「黎兄が、近くまで来てる!」
湊人が銀龍を出した!
龍たちは、主人が近くにいると力を増す。
白龍も青龍も、髪の毛の並みから、体を解き放ち、今にも髪の波に飲まれそうな彩奈を助け出す。




