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星の大樹 ~故郷を失った少女は、生きるために歌う~  作者: だしのもと


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9/12

第9話 弔い

※挿絵はAIイラストを使用しています

 村に着いたのは、昼を過ぎた頃だった。

 かつて門があったらしい場所に、柱の残骸が傾いている。


 オルクスは先頭に立って、砂の積もった道を歩いた。

 静かだった。

 風の音しかしない。

 この静かさは、来るたびに慣れない。


「生きてる人間はいないな」


 後ろから、部下のギドが言った。

 確認でも問いかけでもない、独り言のような声だった。


「行くぞ」


 オルクスはそれだけ言って、一番近い家の戸を押した。


◇


 老人が二人、畳んだ布の上に横たわっていた。

 手を繋いでいた。

 男の指が女の手の甲を包んでいる。

 爪は短く切りそろえられ、関節が節くれ立っていた。

 長く使った手だ。

 女の指はその中でほどけかけていたが、離れてはいなかった。

 連れ合いだろうと、すぐに分かった。


 オルクスはしゃがんで、二人の顔を見た。

 穏やかだった。苦しんだ跡はなかった。


「夫婦か」


 ギドが背後に立った。


「……そうだな」


 答えてから、視線がまた手に戻った。

 オルクスは立ち上がって、部屋を見渡した。

 棚に陶器が一つ。窓の縁に、乾いた花の残骸。


「名前が残ってたら書き留めろ。端末、書き置き、なんでもいい」


 部下たちが散った。


◇


 村全体で、十人だった。


 老人が七人。

 床から動けない病人が二人。

 もう一人は、足が不自由だったと、残された端末の文面に書いてあった。


 政府からの移住勧告を受け取っていた記録もあった。

 勧告の日付から、三ヶ月が経っていた。


 オルクスは文面を最後まで読んでから、端末をそっと元の場所に戻した。


◇


 部下たちが家々を回って、燃料になるものを集めた。

 金属の容器、乾いた木材、燃料の空き缶。

 燃えるものなら、なんでもよかった。


「これだけか」


 集めたものを見て、ギドが顔をしかめた。


「足りる」


 本当かどうか、オルクスには分からなかった。

 それでも、足りないとは言えなかった。

 足りなくても、やるしかないのだ。


◇


 死者を一か所に集めた。

 慣れた作業だった。

 慣れてはいけない作業だった。


 オルクスは一人ひとりの顔を見ながら、燃料を周囲に置いた。


 名前の分かった者が六人。

 端末と書き置きから拾えた。

 四人は、分からなかった。

 分からない四人に向かって、オルクスは言った。


「ここにいたことは、知ってる」


 静かな村に、声が吸い込まれた。


「あんたたちのことは、俺たちが忘れない」


 返事はなかった。

 当たり前だった。

 それでも言わないわけにはいかなかった。

 オルクスは火をつけた。


◇


 炎は静かに広がった。

 派手な音も立てず、ただじわりと、村の形に沿って伸びていく。

 オルクスは少し離れた場所に立って、それを見ていた。

 こういう時、いつも同じ声が聞こえる気がした。

 通信を開くと、こちらが何か言う前にもう喋りだしている声だ。


 『お前は真面目すぎる。もっと抜け道を使え』


 ロアンだった。


 二人で組むと、面倒な交渉はロアンが先に片づけた。

 オルクスが正面から行こうとしている間に回り込んで、戻ってきて、何でもない顔で「終わった」と言う。

 どんな現場でもそうやって回してきたし、最後の任務もその通りに始まった。


 レイが産み月間近で後方に退いていた時期で、指揮は二人で分けていた。

 回り込む役はロアン、正面はオルクス。

 変わらない配置のまま、ロアンだけが戻らなかった。

 目の前で起きたことだ。

 それでも、しばらくは信じていなかった。


 ロアンが死んで、レイは荒れた。

 ラムダはその後に生まれ、オルクスが見たのは赤ん坊の頃の写真が一枚きりだ。

 赤目と金髪の、どこからどう見てもエルグランの子だった。

 この星・アルフィオスを統治する家の証でもある。


(大分大きくなっただろうか……)


 炎に向かって、思った。

 返事は、ここにもなかった。


◇


「オルクス」


 ギドが近づいてきた。


「鎮圧部隊の動きが出てる。このあたりを絞ってるらしい」


「第七地区か」


「外縁だ。まだ距離はあるが」


 オルクスは炎から目を離さなかった。

 第七地区の外縁。

 移住の済んでいない、残された村がまだいくつかある。


 今はまだ、行けない。

 行く前に終わっていたら、弔いに意味はない。


「続きは向こうで判断する。移動するぞ」


「了解」


挿絵(By みてみん)


 ギドが部下に声をかけながら離れていく。

 オルクスはもう一度だけ、炎を見た。

 乱暴な消え方ではなく、小さな村がただゆっくりと形を失っていく。


 赤い色を見ると、いつもレイの目を思い出す。

 そして静かに振り返って、歩き始めた。

お読みくださりありがとうございます!

ブックマーク、評価、コメントを頂けると大変嬉しいです!!


※レイはノヴァの姉であり、エルグラン家の長女です。

ノヴァはこちらの本編で登場しています。https://ncode.syosetu.com/n9593lf/

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