第10話 灰の読み方
※挿絵はAIイラストを使用しています
村に着いたとき、まだ細い煙が上がっていた。
昨日か一昨日か、そのくらいの話だ。
レイは先頭に立って、黒くなった地面を歩いた。
灰が砂に混じって、足元に絡みつく。
家の輪郭だけが残っている。
壁が崩れ、屋根がなく、柱の炭が空に向かって伸びていた。
「ラグドラですか」
部下のサントが後ろから言った。
レイは答えず、村の中をゆっくり歩いた。
散らかっていなかった。
引っ繰り返された棚も、蹴散らされた家財も、見当たらない。
燃え方が、端から端まで均一だった。
「そうだ」
灰の中心を一度だけ見て、レイは言った。
死者が一か所に集められた跡が、燃え残りの配置に残っていた。
「他の連中なら、もっと荒れた跡になる」
◇
村を一周してから、レイは入口に戻った。
部下たちが記録を取っている。
写真、配置図、燃え残りの採取。
仕事は仕事だ。
『ラグドラを追う』
それがレイの命令だった。
ただ、ラグドラがいなくなったあとの無法地帯がどうなるかを、レイは知っていた。
ラグドラ以外の集団がある。
食料と燃料を奪うだけ奪って、邪魔な者を排除する。
目的も理由も持たない、ただの暴力だ。
そういう集団が、無法地帯のあちこちに散っている。
今それが大きく動かないのは、ラグドラが頂点にいるからだ。
頂点を恐れているうちは、下の連中は動けない。
だがそれを潰せば、残りが解き放たれる。
上が命じる「鎮圧」とは、そういうことだ。
治安のためじゃない。
頂点さえ落とせば、鎮圧は済んだことになる。
ここがどう荒れたところで、あの者たちの暮らしは何ひとつ変わらない。
(分かってやってるんだろうな)
灰の向こうを見ながら、レイは思った。
◇
ロアンが死んで、もう三年になる。
副官であり、夫だった。
怒ると少し声が高くなる男で、それを部下に見せまいとするから余計に分かった。
家では、その声を一度も聞いたことがなかった。
レイの下には副官が二人いた。
ロアンとオルクス。
二人は親友で、組んで動かせると一番仕事が速かった。
ロアンが死んで、オルクスは隊を離れた。
あの時期、レイは副官を二人、同時に失った。
だからといって、どうすることもできなかった。
レイには追う仕事があり、オルクスには追われる場所があった。
◇
「レイ司令」
サントが小走りで戻ってきた。
「東の集落から報告が入っています。別の集団が動いているようです」
「ラグドラが去ったから動き出したか」
「そのようで。足跡と手口から、別の連中です。集落の外縁を荒らしていて、逃げ遅れた者も出ているようで」
レイはすでに歩き始めていた。
「行くぞ」
「はい。それと、首都からも連絡が届いています」
サントが少し声を落とした。
「ノヴァ様から。直接お会いして話したいと」
レイは足を止めなかった。
「直接か?」
「はい」
珍しい。
ノヴァが直接連絡を寄越すときは、会議では動かせない話があるということだ。
「東の処理が終わり次第、首都に向かう。そう返せ」
「了解です」
サントが離れていく。
レイはもう一度だけ、背後の燃え跡を見た。
均一に黒い、静かな村の跡。
(オルクス……)
声には出さなかった。
前を向いて、歩き続けた。
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