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星の大樹 ~故郷を失った少女は、生きるために歌う~  作者: だしのもと


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10/12

第10話 灰の読み方

※挿絵はAIイラストを使用しています

 村に着いたとき、まだ細い煙が上がっていた。

 昨日か一昨日か、そのくらいの話だ。


 レイは先頭に立って、黒くなった地面を歩いた。

 灰が砂に混じって、足元に絡みつく。


挿絵(By みてみん)


 家の輪郭だけが残っている。

 壁が崩れ、屋根がなく、柱の炭が空に向かって伸びていた。


「ラグドラですか」


 部下のサントが後ろから言った。

 レイは答えず、村の中をゆっくり歩いた。

 散らかっていなかった。

 引っ繰り返された棚も、蹴散らされた家財も、見当たらない。

 燃え方が、端から端まで均一だった。


「そうだ」


 灰の中心を一度だけ見て、レイは言った。

 死者が一か所に集められた跡が、燃え残りの配置に残っていた。


「他の連中なら、もっと荒れた跡になる」


◇


 村を一周してから、レイは入口に戻った。

 部下たちが記録を取っている。

 写真、配置図、燃え残りの採取。

 仕事は仕事だ。


 『ラグドラを追う』


 それがレイの命令だった。

 ただ、ラグドラがいなくなったあとの無法地帯がどうなるかを、レイは知っていた。


 ラグドラ以外の集団がある。

 食料と燃料を奪うだけ奪って、邪魔な者を排除する。

 目的も理由も持たない、ただの暴力だ。

 そういう集団が、無法地帯のあちこちに散っている。


 今それが大きく動かないのは、ラグドラが頂点にいるからだ。

 頂点を恐れているうちは、下の連中は動けない。

 だがそれを潰せば、残りが解き放たれる。

 上が命じる「鎮圧」とは、そういうことだ。

 治安のためじゃない。

 頂点さえ落とせば、鎮圧は済んだことになる。

 ここがどう荒れたところで、あの者たちの暮らしは何ひとつ変わらない。


(分かってやってるんだろうな)


 灰の向こうを見ながら、レイは思った。


◇


 ロアンが死んで、もう三年になる。

 副官であり、夫だった。

 怒ると少し声が高くなる男で、それを部下に見せまいとするから余計に分かった。

 家では、その声を一度も聞いたことがなかった。


 レイの下には副官が二人いた。

 ロアンとオルクス。

 二人は親友で、組んで動かせると一番仕事が速かった。


 ロアンが死んで、オルクスは隊を離れた。

 あの時期、レイは副官を二人、同時に失った。

 だからといって、どうすることもできなかった。

 レイには追う仕事があり、オルクスには追われる場所があった。


◇


「レイ司令」


 サントが小走りで戻ってきた。


「東の集落から報告が入っています。別の集団が動いているようです」


「ラグドラが去ったから動き出したか」


「そのようで。足跡と手口から、別の連中です。集落の外縁を荒らしていて、逃げ遅れた者も出ているようで」


 レイはすでに歩き始めていた。


「行くぞ」


「はい。それと、首都からも連絡が届いています」


 サントが少し声を落とした。


「ノヴァ様から。直接お会いして話したいと」


 レイは足を止めなかった。


「直接か?」


「はい」


 珍しい。

 ノヴァが直接連絡を寄越すときは、会議では動かせない話があるということだ。


「東の処理が終わり次第、首都に向かう。そう返せ」


「了解です」


 サントが離れていく。

 レイはもう一度だけ、背後の燃え跡を見た。

 均一に黒い、静かな村の跡。


(オルクス……)


 声には出さなかった。

 前を向いて、歩き続けた。



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