No.24 歪んだ塔と蒼い剣 - 21
「走れ走れ走れ走れぇぇぇえ!」
仲間たちを思いやっているからか、それとも転送後当初の自己中心的な発言からしてその可能性はなく、たまたま最後尾になってしまっただけなのかは本人すらもわからない。
それだけ必死に、彼は皆を急かし、皆は死に物狂いで走っていた。
見る暇もない上に見ても当てにならない地図。
それ故にこの先がどうなっているのかが全くわからない不安。
そして互いに磁石でもに張り付いているのだろうか。
それ程に引き付けられるように、引きつこうとするように一直線に前に進んでくる唾液の混ざった牙が今すぐにでも自らの肉を引き裂いてしまいそうな恐怖。
そんな感情たちにサンドイッチにされているプレイヤー達は、もはや目先の目標にすがり付く他に生きる希望はなかった。
そうして、走っている時──
「地下に続く道があるぞ! 全員突っ込めぇ!」
先頭集団の1人が、そう声を上げているのを他21名が耳にした。
そんな言葉に残された体力と希望をかけて、プレイヤー達はより一層足の回転率を上げる。
これが火事場の馬鹿力と言うものなのだろうか、もはや身につけている物の重さやそれによる走りにくさなど、気にしている者は誰一人としていなかった。
不幸中の幸いだった。
最後尾を変わらずドアマンテにしながら、人々はやっと小さな幸いを見つけた。前の方で走っていたはずの彼らが次々と下へと潜り込んでいく。
段々と障害物の無くなっていく視界の中で見えたものは、彼の言った通り地下へと続く狭い坂道であった。
モンスターでない我ら人間であっても寝そべるようにスライディングしなければ通れないような細い細い道だ。流石にこんな所に大蛇は通れまい。
そうしてアリスもベルも、スウェントルも、全員が天井に腹を向けその坂に滑り込んだ後で──、
「うぉっしぁ!」
そんな喜びの声を上げながら最後の一人であるドアマンテも何とか一時的に安全を確保することが出来た。
中に入っても背の高い者は腰を低くしなければならなかった。
そのため、当たり前のようにこの世界の王 ナーガリオンはその道を通ることは出来ず、撤退を強いられることとなった。
しかし、不可能であると気づいていながら、それでもその道へ全力で体当りしてくる王の執着心は一体何を原動力にしているのであろうと不思議に思うばかりであった。
そして、大蛇から距離を置いてその道を歩いていた時。
ドアマンテはあることに気がついた。
「やっぱり......か」
ログを開いて地図を見る。そこには予想はしていたのだが、青い点を見つけることは出来なかった。地形を見ても似たような所は見当たらない。そして点滅しているのは大きな赤い点のみ。
つまりここは、エリア外の場所と言うことになっていたのだ。
──それなら、先に地上を目指すか...
この地下道が安全だからと言えども、長居するつもりは無い。一刻も早く次の計画を練り始めなければならないこともあるが、それよりも先に現在地の確認を優先しよう。
細い道を歩きながらそんなことを1人考える。
この世界に転送されてから、実に5時間が経過しようとしていた。
※
「クルシュピア......?」
舞台はソーマサイドへと移り変わる。
先程部屋が蒼い炎に囲まれ、それが剣を抜いた瞬間に集まってから数秒後。ソーマは近くの冷たい床に無造作に置かれていた鞘に剣を戻さずに、右手に柄を握りしめながらまじまじとそれを観察していた。
──見た目よらず温かい...それに、なんか手から吸い取られてる感じがするな......
部屋中の火花たちをすべて纏った剣を珍しそうに見回す。それもそのはず、彼は「魔剣」というものを見たことがなかった。
部屋の明かりは辛うじてあるものの、当たり前のようにその剣の光の方が強い。構造はよく分からないが、取り敢えず生還してノエルに聞いてみよう、彼はそんなことを考えていた。
「まず優先すべきはこの部屋からの脱出だな」
よっ、と小さな声を漏らしながら、ソーマは盛り上がっていた土から飛び降りるようにして降りる。そうしながらエルドの木漏れ日が差し込んでくる土砂崩れの方へと視線を移して、その後そのままに彼は足を伸ばし始めた。
炎が空間内を埋め尽くして、剣を抜き取った時から彼が今いる場所はもちろん何も変わっていない。
そのため、彼は一度鞘に剣をゆっくりとしまい、腰にあるナイフへともう一度手をかけた。
慣れた感触。一度ざらついた地面へとクルシュピアを置いて両手にナイフを持つ。
そうして、壁に向かって勢いよく跳躍。薄い壁へ向かってモンスターへ攻撃するかのように素早く刃を奮った。
──ガガガガッ、と鈍い音を出しながらも、確実に土や岩を削っていくソーマ。
そして、彼はやっとの事でこの空間からの脱出をすることが出来た。彼の右手には、改めてあの漆黒の剣が握りしめられていた。
彼が出た先は、また見たことの無い大広場であった。これ程に初見のものが増えてしまうと、自分が土砂の衝撃で部分的な記憶喪失をしてしまったのではないかと不安になる。
しかし、この場所は本当に来たことのない場所であったのだ。
先程ナーガリオンと交戦した所とはまた一回りほど広い空間。そしてあれほど巨大な音が響いたにも関わらず少ない土砂に、過去に訪れた部屋にはなかった中央上部に取り付けられたエルドの塊。
それは、シャンデリアのように見えるほどであった。
固い土の上に敷かれた砂の絨毯の上に足を踏み入れる。
そして、取り敢えず現在地と参考までにボスの位置を確認しておこうとログを開こうとした。
現在の第1目標である仲間達の現在地を知ることも、ログを開く一つの理由であった。
指先で白い端末に触れていく。中央部分に表示されていた数字を見て、もうこんなに時間が経っていたのかと衝撃を受けていた。
そして、慣れた手つきで的確に地図を開く。
すると──、
「は...? どーなってんだ? バグ...じゃないよな、赤はあるし」
大きな赤い点はハッキリと写されているにも関わらず、見ることの出来るはずの複数の青い点は確認することが出来なかった。
何があった、と困惑するソーマ。
画面から姿を消した彼らの行方を、ソーマは知る由もなかった。




