No.22 歪んだ塔と蒼い剣 - 19
今日ちょっと長めー
いい感じに区切れなかった...w
「全員...走れっ!」
ドアマンテが、空を舞い声をあげるナーガリオンから目をそらすことなく声だけで後ろにいるプレイヤー達に指示を仰ぐ。
「シャァァァァアッッ!!」
自慢の鋭い牙をむき出しにしながら声をあげる大蛇の様子は、己の強さを彼らに見せつけているかの様であり、その口角も少し上がっているかのように見えた。
圧倒的な力量の差。そんな巨大な差がある時点で、この場での戦闘は絶対的に避けるべきであった。
それはこれから長い時間をかけてレベルを上げていこうと言う訳では無い。
ただ、全員が落ち着いて再度計画を練り直す時間が必要であった。今の状況では、何もすることが出来なかったのだ。
スウェントルと代わり、指揮を執るという重要な役を現在担っているドアマンテと、この世界の王が目線を交わらせる。
少しでもその目を離せば殺られる。冷や汗が額を、手の甲を伝っていく。
少しでも体を動かせば、それが再戦、狩りの始まりの合図となる。そんな中でも、彼の耳はプレイヤー達が走っていく足音をしっかりと捉えていた。
そうして数十秒後。ある程度の時間稼ぎは出来た。他の奴らは遠くへ行っただろうと目を逸らして走る準備をした。
もう、いつでも走り出せる。
その確信を持った時、ドアマンテは目を逸らして頭と体を180度回転。一気に加速しようと足裏に力を込めた。
しかし──、
振り返って一瞬閉じていた瞼を開いた先にいたのは、ただ呆然と立ち尽くしていた数人のプレイヤー達だった。
その少し奥にはアリスやベルを含めた他のプレイヤー達が小さく見える。
つまり、ここにいる6名のプレイヤー達はドアマンテの指示や仲間達の呼びかけに応じず、戦意喪失したという訳だ。
その瞳には光が差し込んでおらず、全身を支える芯が抜けているかのようにだらんとしている。足元には、剣や杖などの武器が無造作に置かれている。
そんな状態であった。
因みに、スウェントルは少しずつ自我を保ち始めたのか、奥の方でこちらへ視線を送っていた。
「なんで、いんだよぉっ!」
思いもよらぬ展開に、歯軋りをしながらも1度足を止めるドアマンテ。
しかし目を離したその瞬間から、ナーガリオンは待っていたと言わんばかりのスピードで彼に、彼らに襲いかかってきていた。
「くっそがぁあぁ!」
その姿を確認することは出来るものの、これだけの速度でこの狭い道を突っ込んで来られれば避けることは不可能と咄嗟に判断したドアマンテは、そう叫びながら背負っていた大剣を抜き出した。
そしてその刃先を強く地面に突き刺し、剣の腹を怪物へと向けて自身の腰をグッと落とす。
攻撃を受けるということは不可避。それならば確実にダメージを軽減しようと、防御の体制にはいったのだ。
そうして身を屈めて剣を掲げ、瞼を閉じたその瞬間──、
ドアマンテは、スピードを付けたことによって上昇した攻撃力によって、奥の方で足を止めていたプレイヤー達の足元まで吹っ飛ばされた。
事前に防御の準備をしていたのにも関わらず。
そして、HPは黄色へと変色。裂けた黒布から覗くことのできる右腕にはくっきりと深い牙の跡が残っている。
何とも痛々しい光景だった。顔を背け目を覆う者もいた。
しかし、それでもその大剣使いは歯を食いしばって、足と左腕に力を込めてすぐさま立ち上がった。
そんな彼の姿を見て急いで回復魔法と唱えようと、特に重症だと思われる部位へと杖先を向ける魔導師達。
そんな彼、彼女達の心配を差し置いて、ドアマンテは大剣を背負っている鞘に収めると、もう一度声を荒らげた。
「まだ安心してんじゃねぇぞ! もう少しアイツから距離をおけ!」
いきなりそう言われてビクッと体を反応させるプレイヤー達。しかし、まだここが安全であるという確証がないのは確かである。
数秒後。彼らは後方をチラチラと確認しながら、更に奥へと小走りで向かっていった。
その後方の奥の方。つい先程ドアマンテが防御の体制を取っていた所では、小さくなっていくプレイヤー達には目もくれずに、目の前で呆然としている6名のプレイヤーに食らいつく大蛇の姿が星屑を散りばめながら写っていた。
その姿はまさに地獄のようであり、振り返ろうとしていた者にやめておけと忠告をするプレイヤーもいたほどであった。
自分の様に興味本位で振り返り、トラウマになって欲しくないと話すプレイヤー。
そんな彼の声音を聞いて、それでも振り返ろうと思う物好きはいなかった。彼らは、前を見て走ることだけに専念をした。
残りのプレイヤー達数は、22となった。
走ってはいるものの、息切れをする者が居ないほどの小走りで道をゆったりと進んでいく。
この道がどこまで続いているのか分からないが、取り敢えず距離を置いて、また広い空間に辿り着いたら休憩を挟もうとドアマンテは足は止めずにログに触れた。
なれた手際で操作をしながら地図を開く。この動作も、もう何回したのかはわからない。数えているわけではなかったが。
地図を見る。走っていることが影響しているのか、青白い3D画面はいつにも増してザザザッと少々激しく乱れていた。
そうして、先程の空間へと目を配る。そこには大きな赤い点が動くことなく、点滅を繰り返しながら表示されていた。まだ彼らを食い尽くしていないのであろうか。
そして、土砂に巻き込まれたであろうあの青年の生存を表す青い点は、どこにも表示されてはいなかった。
その時だった。
「あ?」
ドアマンテが小さく声を漏らす。それは見ていた地図を閉じ、ログも閉じようとしていた時に起こったことであった。
動くことのなかった、あの赤点が、点滅する事にグングンと道を辿ってこちらの方へ近づいてきている。プレイヤー達の全速力よりも早い速度で。
しかし彼の小言を耳に挟んでいた者はいたものの、足を止め、彼の方へ視線を移す者は誰一人としていなかった。
辺りに響いているのは、ガシャガシャという鎧と鎧、鉄と鉄とがぶつかり合う音だけ。
皆、なんとか平常心を保つのに必死であったのだ。
いつの間にか少数になってしまった集団の先頭部分にいたアリスも深く俯き、何も言葉を発することなくまるで機械のように足を動かしているだけである。
ベルも同様。ソーマをあんな目に合わせてしまった原因となる彼女は特に精神状態が崩れかけていたのだ。
それでも、赤点は近づいてくる。機械のように単純作業を繰り返し、人形の様に一切表情を変えることのない中で、ドアマンテだけが焦りという感情を芽生えさせていた。
「なんだこれ...いや、でもここには来れないはず...」
閉じようと伸ばした人差し指を止めて、地図をじっと見るドアマンテ。あの怪物はここには来れないはず。この進行速度はナーガリオンが出せるほどのものではあるが、バグという可能性も否めない。
グルグルと頭を回転させる。しかし、それを行動に移すことが遅れてしまった。これが大きなミスを生み出してしまう。
そして彼は大きな勘違いを、大きな誤算をしている事にその時気がついたのだった。
速度を落とさないままにこちらへと近づいてくる赤い点。その点が、後十数秒後にはこれらの青点と重なると知っていながらも、ここに来ることはないと、出来ないと確信をしていたドアマンテは走る速度を変えることがなかった。
それでも、点は近づき、それに比例して段々と鈍い音が耳と足元の地面を揺さぶってきた。
──ガガガガガガガっ、と何かが崩れる様な削れる様な音が大きく響く。それを聞いて数分ぶりに後ろを振り返った大剣使いは、文字通り開いた瞼を閉じることが出来なかった。
これは、彼らの想像を軽く超える、ナーガリオンの圧倒的な力と、初めて訪れたこのダンジョンの土砂が起きてしまうほどの地形、地質を計算に入れていなかった完全なる誤算であった。
自分の中で決めつけていた考えが、天井の、壁面の、地面の土や砂と共に削れる音がする。
彼ら6人を食らいつくした後、この狭い道の壁を削って強引に自身の通り道を確保してきた大蛇。
それらによって段々と失速はしてきているものの、それでも前へとグングン前へ進むその化物は、残りのプレイヤー達に向かって小さく口を開いて──、
「ツギハ、オマエダ」
そう語りかけてきているかのように道化師の様な不気味笑いを含ませてこちらを見つめてきていた。
こうして彼らは現在、全速力で走り出すこととなったのである。
その時──、
「っあぁ!! はぁっ、はぁ、はぁ......」
薄暗い、エルドの光も差し込んでこないような空間の中で。
「はぁ...ここ......どこ、だ?」
大蛇に腕を強く噛まれ壁に叩きつけられた後、不運にも土砂崩れという災害に巻き込まれた少年 ソーマは、今まで見たことのない、新しい空間へと迷い込んでいた。




