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ラクリマの群青  作者: 日輪猫
仕組まれた偶然と誰も知らない必然
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No.15 歪んだ塔と蒼い剣 - 12

 


 やっとの事で全ての戦闘が終了し、武器を整備したり、仲間のメイジに回復をして貰ったりしている者がいる中で、張り詰める緊張感から逃れた安堵からか地面にへたれ込む者もいた。

 やっとの事、と言っても実際の時間としてはそこまで長くなく大体全てが終わるまで30分程度ではあった。


 しかし生死を賭けた戦いを繰り広げていた彼らに取っては、一分一秒が長く感じられたのだ。


 そうして人々が安らぎの一時を過ごしていた頃、端にある自らの身長の1.5倍程の大きさの細い木で何やら話し合っていたスウェントル達リーダーグループが、ログから表示されていた青白い地図をしまうと木の幹にもたれ掛かって座っていた者は立ち、皆の方へと歩いてきた。


 そろそろ出発するのだろう。

 少しの時間ではあるが、彼らの言う通りに進んできたプレイヤー達から見れば、移動の指示をいつ出されるか位などは何となくで分かるようになってきていた。


 ──ザッ、ザッ、と彼らが土を踏むことによって連鎖していく音達が聞こえることをキッカケに、休んでいた者達も少しずつ気合を入れ直していく。

 人々がスウェントル達にチラチラと視線と頭を向けていくことに釣られて、アリスとベルと共にいたソーマは同じ様に気合を入れ直すために、背筋を伸ばしてゆっくりと深呼吸をしていった。


 そして──、


「それじゃあ、そろそろ行こうか。疲れているかもしれないが、もう少し頑張ろう」


 案の定そんな風に声を掛けられて、プレイヤー一同はまた奥の暗い道へと足を進めて行った。


 ※


 それからの道中では、先程のリザードマンの様な集団で襲ってくるようなモンスターには遭遇しなかった。

 1番初めにあんなモノが来た以上、これから先もこの様な戦闘が続くと皆が考えていたが、どうやらそう言う訳ではなかったようだ。


 しかし、暗く細い道の中で全くモンスターが出現しないという訳では勿論なかった。


「うぉっら!」


「ペリュリュリュリュ......」


 出発してから約30分後、団体の中では後ろの方で歩いていたソーマ達の耳にそんな声と鳴き声が奥の方から聞こえた。


 声の主は恐らく男性。声の高さや息切れしているかのような短い声などから何となく若く、近接戦闘を主に行っているプレイヤーだと想像することが出来た。


 しかし、不可思議で若干気色の悪い鳴き声の主の姿は捉えることが出来なかった。

 繰り広げられている戦闘をよく見たいと背を伸ばすプレイヤー達が多く、それらが邪魔でよく見ることが出来なかったのだ。

 そのため声からは何も想像することが出来なかった。

 ソーマ自身、あまり聞いたことのない鳴き声であったのは確かであった。


 また現在は最初の方にスウェントルが説明した通り、隊列を組んで戦闘は交代制で奥へ進んでいるため、前の方へ無理やり行くことも不可能であったのだ。


 その時であった──、


「うわ、うわぁぁぁ!!」


 小さく、まるで薄い板ガラスが割れるような音と共に、目の前に黄色い星屑が広がっていったのは。

 その戦闘によりプレイヤー一同の中で初めての死者となってしまったのは、先程の声の主である青年であった。


 先頭にいた者から聞いた話によると、大剣を使っていたと言うその青年は、毒を持つ鳥のようなモンスターと戦闘していたらしい。

 最初は一方的に攻撃を仕掛け、徐々に相手のHPを削っていっていたそうなのだが、その鳥が口から毒を吐き出してから一変。

 防御に徹する事しか出来ない状態になってしまったようだ。


 鳥が吐き出していた毒は少しの攻撃と痺れの効果を含む恐ろしいものであり、それに当たれば少しずつHPは減らされ、痺れの効果は少しずつ強くなっていくと言う効果を持っていた。

 また、彼に外れた毒は地面にそのまま残るために下手に助けに行くことが出来なかったという。

 実際は自分の安全を第一優先にしていた者が多かったからという可能性も否定は出来ないが。


 そうして、あの青年は無残にも麻痺毒を受けてから一方的にやれられ続け、あのような結果に至ってしまったのだと言う。


「死んでしまったのは残念だ...でもそれで立ち止まるわけには行かない。彼の分までこの世界を抜け出そう」


 彼が星屑へと化してしまったことを知らされたスウェントルは、すぐさま前方へと向かっていった。彼は元々ソーマの近くにいたのだ。

 そしてそのような事を言ってプレイヤー達をすぐさま励まし、ダンジョン探索はまた再開されていった。


 しかし、ソーマの顔は納得のいかないかのように曇っていた。



 暗い、暗い道を、複数の影がまた歩いていく。

 壁から魔力を受け取り宙に浮かぶエルドが照らす自分達の中に、数分前にいた者がいないと言う現実が確実に自分の心を蝕んでいっていることに、皆は息苦しさを感じていた。


 それに伴い、辛うじてあった会話が無くなっていく。

 またそれによって一人ひとりに緊張と不安、そして恐怖が募っていく。

 そしてまたそれによって口元に力を込めて葉を食いしばり、声は出さない様にと務めているものの、少しずつ泣き出す者も現れていってしまった。


 そうして最悪の状況が、負の連鎖が続いていく中でも。

 前の方で戦闘は繰り広げられ、なんとか犠牲者を無くし、また歩いていく。


 そろそろソーマ達の戦闘の番が回ってきた、その時であった。



「もう、もうっ...いやぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」


 そんな事を叫びながら、恐怖に完全に心を奪われ、1人では耐えきれなくなり、今まで来た道を戻っていくかの様に気が狂ったかのように走り出して言ってしまった女が現れたのは。


「ちょっ...!? 待てよ!!」


 近くにいた男性がそれを止めようとする。

 しかし、腕を掴もうと伸ばしたその手は虚しく、スレスレの所で届くことは無かった。


 また1人、影が消えていく。

 その後、ダンジョンを攻略していく中で彼女を見かけた者は誰1人としていなかった。



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