No.14 歪んだ塔と蒼い剣 - 11
両手に握られたままの、鋭い2本のナイフが役目を果たしたかのように輝きを失う。
実際はソーマが上げていた腕を下げたことにより、エルドの光を反射しなくなったのが原因であった。
だが、戦闘時の彼らの美しさと恐ろしさを見た者には、その様に表現しても可笑しくないのではないかと感じ取れたのだ。
そのナイフを、腰周りに備え付けられていたケースへと勢いよく戻す。
──カシャン そんな音が二つ重なり合って響いた後、しっかりとナイフが固定されているのかを確認するために下げていた頭を、元の高さへと戻した。
落ち着きを取り戻すために1度深呼吸をし、酸素が体内に入ることにより高く上がった肩をストンと落とす。そうすると、先程より視界が広がったように感じられた。
そうして姿勢を伸ばし、辺りを見回す。
このダンジョンに来て初めての戦闘は、終わりを迎えようとしていた。
ソーマ達の戦いは最後の方であったのだろう。今現在も戦闘を行なっていたのは見る限り3、4組程であった。
そのためだろうか。隅の方で目立たない所でありながらも、繰り広げられていた熱い戦いは、一息ついた人々の視界に入ってきていた。
そして最後に見せられたあの速度は、そのプレイヤー達の目を丸くさせていた。
ソーマ自身も、周りと同じ様にフゥ、と一息をつく。
その後、自らのHPゲージの右上に未だ水色のマークが点滅しているのを見て、自分を勝たせてくれた勝利の女神へと腕を高くあげて手を振った。
戦闘に夢中になっていたが為に気が付かなかったのだが、戦闘開始時の位置とは中々離れていたのだ。
丁寧に自分の杖をしまい、彼と同様にHPゲージを確認する勝利の女神。
その時にたまたま視界に入ったのか、振られていたソーマの手に気がついた少女は、優しい笑顔を浮かべながら、ゆっくりと手を振り返した。
「凄いな、どうしてそんなに速いんだ?」
その時だった。自分をチラチラと見る人がいる中で、後ろに複数の男女を引き連れながら、爽やかに声を掛けてきたのは。
「いや、あれはアリスがエンチャントしてくれたお陰だよ。それよりアンタだって凄かったじゃねぇかよ、スウェントルさん」
「スウェントル、で構わないよ」
そう言って愛想笑いにも取れるような笑みを浮かべながら、声の主であるスウェントルはソーマの前でそんなことないよと小首を傾げた。
しかし、彼の戦闘も目を丸くする程に凄まじいものであった。
左腰に備えられた、彼に似合う青がベースとなっている長剣を華麗に振り回し、仲間との連携もこなしていく青年。
その姿は、忙しない戦闘を織り成していたソーマの視界にも入っていた。
そして、彼には相当の戦闘経験があったのだろうか。自分達と同様に初めて見たであろうモンスターと対峙しても、まるで弱点や戦い方を知っているかの様に素早くリザードマンを倒す姿は、辺りでそれを見ていたプレイヤー達だけでなく、共に過ごしてきたパーティーメンバーでさえも驚く程であった。
「そんな事より、僕が言いたいのはエンチャントによる移動速度の話じゃないさ。それも凄かったけれどね」
笑顔は絶やさないままに、傾けていた首を元に戻すとスウェントルは質問の意図を彼に伝えた。
「特に凄いと思ったのはナイフの扱いさ。どうしてあんなにも早く適確に扱えるんだい?」
どうやら青年が疑問に思ったのは、エンチャントの話ではないようだ。そして、辺りでソーマを見ていた人もとうとうしっかりと彼らを見るようになった。
プレイヤー達も、1番にそれが気になっていたようだった。
「あぁ、そっちの事か。これは昔からなんだよ。生まれつきって言うとおかしいけどな」
「昔から?才能やセンスがあると言う類だと言うことかい?」
驚いたような素振りを見せながらも、疑問を拭えずにいられないスウェントル。
しかし、ソーマでさえもその疑問を完全に無くすことは出来なかった。
「どちらかと言えばそう言うのに近いな。なんでかナイフだけは、最初から思った通りに使えんだよ」
「なるほど」そんな事を呟きながらも、先程とさほど変わらずに複雑な表情をするスウェントル。
辺りにいたプレイヤー達も同じような顔をしていたが「スゲェ才能があったもんだ」と元々の才能やプログラムによるものだと半ば無理やりではあるが問題を打ち消そうとした。
しかし、こればかりはソーマ自身も説明することが出来なかった。
そもそも、スピードの能力値が普通よりも高いと言うことは前からノエルに知らされていた。そして最大限その長所を生かして戦闘が行えるようにと出来るだけ軽い装備にしたのが今現在の状態である。
そうした後、ならば武器も軽量にしてみようと短剣を使ってみたのが彼がナイフを使い始めるキッカケであった。
しかしいざ使ってみると何とびっくり。
戦闘が前よりも格段にやりやすく、そして簡単になり、今まで苦戦していた敵にもアッサリ打ち勝つことが出来たのだ。
想像した様にナイフを投げればその場所に大体は命中する。
どんな角度でどのように切ればより効率的にHPを削れるかが何となくわかる。
今まで1度も使った覚えなどなかった。この世界で才能と言うものがあるかはわからないがこれはそれに適当するのだろう。こんな事が簡単に出来たのだ。
何を隠そう。それが彼の全てであった。
これを話したとして彼らはしっかりと納得することが出来るだろうか。
否、出来ないであろう。だからソーマは言葉を濁らせていたのだ。
ザワザワと互いに意見を交わしながら、辺りを囲っていたプレイヤー達が一人、二人と違う方へと向かっていく。
そんな時、これ以上何を聞いてもわかることは少ないとを何となく察したのだろうか。
「凄い能力だな。これから戦闘が多くなるだろうけど、よろしく頼むよ。因みに、君のランクはいくつなんだい?」
「ん? あー、4だよ。この中では高い、ほうなのかな?」
そんな言葉を返した頃、スウェントルは少しばかり何かを考えていたのか瞬間真顔になっていた。しかし、それはすぐに驚きの顔へと切り替えられ──、
「高いほうだとも!君が4ならもっと安心だ。これからよろしく頼むよ」
そう言いながら、スウェントルはソーマの肩をポンと叩き、爽やかな笑顔と共に白い歯を少しだけ見せた後、何故かあっという間にクルリと180度右回転してパーティーメンバーとどこかへ行ってしまった。
聞きたいことを聞き終えてこれ以上用が無くなったからであろうか。それともただ単にソーマと話すことが息苦しかったのだろうか。少年はそれこそ何故かはわからないが、彼の不可思議に見える行動に首をかしげていた。
「はぁー...確かにこれって何なのかね。才能ならいいんだけどさ」
そうして、スウェントルの水色の髪と一緒に別の方へ去っていく一行の背中を静かに見つめるソーマ。
今までソロで活動していたためおかしいとは思わなかったが、周りにこんな反応をされると、この能力は一体何なのだろうかと改めて疑問を抱かずにはいられないソーマであった。




