No.5 歪んだ塔と蒼い剣 - 2
「よし...」
目の前にあるレンガによって型どられた門を見ながら、ソーマは若干ビビりながらも足を一歩前に踏み出した。
ここは斜塔 アストリアの第1層の中。
入口から一番離れた場所にある第1~5層へ行くためだけの、いわゆるダンジョン内専用転送所に前に彼は立っており、その目線の先にある緑色の炎には既に2人の少女が飲み込まれている。
アリスとベルだ。
彼女らは転送するためにこの炎の中へと入っていったのだ。
しかしそれを見てもソーマは、普段自分が行っていたテレポートとは異なる方法なのが少し不安らしく、何か危険が無いのかと注意深くそれを見ている。
もちろん、そのゲートは先程にもあったようにただ1~5層へテレポートするためのものであり、大した危険性などほとんど無いのだが。この話にはシリアス性など微塵もないのに関わらず、ソーマは変わらずに最後の1歩を踏み切れないままでいた。
その時──、
「よし、じゃあ行こうか」
複数個、横一列に並んでいるこの門の右端の方で、そんな声がした。他のパーティーだ。男3人女2人で来ている。
因みにソーマはその門の左端に立っているため、わざわざ安全性を聞きに行くなども恥ずかしく彼らの様子を盗み見みすることしか出来なかった。
「~だよなぁ。うんうん」
仲良さそうに会話をする2人の男子。リーダーとは違うような彼らでも何ら違和感なく炎の中に入っている。
それに続いて、恐らくリーダー格であろう男子を囲うように、慕うようにして2人の女子がキャッキャウフフ言いながらそのゲートの中へ順番に飲み込まれていった。
「本当にただの転送所か」
何の恐れもなく、どこを見回してもバグが起きる等の注意書きが見えないソーマは彼らの姿をみてやっと確信することかできた。
それでも、しっかり5層に行くことが出来るだろうかという不安は少し感じていた。
そして----
「テレポートっ! 第5層へ!」
「まぁ、それでも大丈夫だろう」そのような事をなんとか確信することの出来た彼はやっとの事で炎に足を踏み入れることが出来た。
その後、その炎は少しだけ熱いと思っていたが熱くなかったこと、頭の中で念じていればいいことをわざわざ口に出して言っていたことなどの恥ずかしさを噛み締めることになりながら、ソーマはフッ、と目を閉じた。
視覚、聴覚、触覚などの感覚機能が一時的に全て真っ黒に塗りつぶされるような感覚に陥る。
自分が今どこにいるのかが分からなくなり、それに恐怖を覚えるためにあまり使わないという人もいるほど、好んで活用していない人も少なからずいるテレポート。
普段はもっとその感覚に陥る時間が長いのだが、今回はすぐ近くに目的地があったためか、そんな事を感じる前に元の感覚が戻ってきてしまっていた。
どうやらテレポートの時間は、転送所と転送所の間の距離の長さに比例するらしい。
テレポートが完了する。
そう感じた頃に少しずつ瞼を上に上げる。
その時、ダンジョン内のライトから差し込んでくる光で目がチカチカして、ちゃんとした像は捉えていないものの奥の方に2人の少女が立っているのがわかった。
2人はゲートのすぐ側に立っており、こちらに気がつくと遅いとでも言うような顔をしながらこちらに手を振った。
遠くから見ていたため、そう認識したのかもしれない。
本当は少し険しい顔をしていたのを彼が知るのはもう少しだけ先だ。
彼女らに気づくと、ソーマは少しホッ、としながらそちらの方へかけて行った。
「悪い、やっぱりちょっと怖くてな。バグが起きるんじゃないかって思って」
そうして2人の元にたどり着く。その近くには先程ソーマの前にテレポートして行ったパーティーもいて、奥の方で何やら話をしていた。
この塔に来るのは初めてなのだろうか。
周りをキョロキョロと見回しながら身支度を整えていた。
「それにしても、ここが5層か? ずいぶん植物が多いな」
そして返事のない2人を不思議に思いながらも、その近くにいるパーティーと同じように初めてここに来るソーマは一層との違いに驚いていた。
そこは床も石レンガで作られていた1層とは違い、地面はフワフワとした柔らかい土、180度どこを見回しても大きさはバラバラであるが綺麗な茶色をしている木々、それにつく葉っぱ等もカサカサと静かに揺れており、まるで別世界と思ってしまうほどの美しさだった。
そして、地面には少しではあるが色とりどりの花がポツポツと咲いていた。
「すげぇ」と吐息を漏らすソーマ。それに対して未だに何も話そうとしない2人。
そんな2人に何があったのか聞こうとした時、ベルの顔が初めてあった時よりも暗いことにここまで近くに来てから気づくことが出来た。
「ベル...? アリス...? どうしたんだよ? 」
何かを察して2人にそう尋ねる。
その時、ベルがゆっくりと口を開いてソーマに答えた。彼の顔を見るために上げられた顔は、何度もここに来たことのあるはずのベルがしないような、驚いた表情だった。
そして、こう言った。
「ソーマさんの言った通りなんです。ここ、5層じゃ、ないんです......」
「......は?」
彼女の言葉は、彼の思考回路の糸を複雑化するように掻き乱してきた。




